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右腕蒸気と氷の足

学校の人と仲良くなろう!

~クラスの教室~


 教室で男二人向かい合って言葉を交わす。

 

「少し調べたところ、ガンテは乱暴で傲慢な部分はあった様ですが、学校の敷地内であそこまでの魔法を展開する程、その、なんと言いますか……、バカではないみたいですよ」


 ロウェルは額の汗を拭いながら話す。


 プシュー。


 上半身裸の俺の胸に手が当てられる。

 ロウェルに付き従っているメイドのキャスが持ってきた、冷えた飲み物を一気に飲み干す。

 喉の潤いで言葉が出やすくなる。


「流石に守護者だからな。魔法の優秀さゆえに、多少の素行の悪さに目をつぶってもらっていたとしても、限度はあるだろう」

 

 プシュー。


 暑い、暑い、暑い、部屋の空気が重さを持っている様だ。

 体中にまとわりつき、不快感を与えてくる。


「ええ、それに噂なのですが意識を取り戻した後の検査で、何かしらの魔法にかかっていた痕跡があったそうです。そして、今は再び眠りについたと」


 キャスが俺の右腕に氷の入った袋を当ててくれるが、あっさりと溶けていく。


 シューーーーーーーー。

 


「操られていたか、それとも幻覚でも見ていたか、もしくは精神……。空属性に分類される魔法をくらったと考えるのが普通か?」


「そうですね、リーミエ様に診てもらえば詳しく分かると思います」


 ロウェルは少しずつ苛立ちを見せながら、話を続ける。


「今のところ、人が地、水、火、風に分類できない魔法をとりあえずまとめているのが、空属性ですから。そういった意味では、召喚を扱う彼女も、空属性ですよ」


 

 彼女……友人であるミライの妹か。

 地属性で一番と言われるガンテに一歩も引くことなく、喧嘩をしようとした彼女。

 召喚なんて初めて見たな。



 プシュー。


 

「だああああああああああああ、暑すぎ!もう無理!胸の歯車に異常はないです!なのに、腕から熱を発してさっきから、プシュー!プシュー!って蒸気噴いてるって何なんですか!」


 あ、キレた。

 魔法で体内の検査をしてくれていた手を胸から離し、教室から飛び出す。

 蒸気が漏れないために閉めきっていたが、酷い温度になってそうだ。


 キャスがテキパキと俺の体を拭き、その後、窓を開け、掃除をし、教室の環境を整えていく。

 やたら作業しながらチラチラとこちらを見てくるのは、何だろうか。

 

「ありがとう」


 彼女は頷いた、……が、まだ視線を感じる。

 礼の催促ではなかったらしい。

 

 いつもと違うのは……ああ、無理やりあげた髪留めか。

 

「付けてくれてるんだな、やっぱり目がよく見えている方がいいよ」


 少し表情が緩み、小声で、


「ありがとうございます」


 と、聞こえた。


 シューーーーと蒸気を吐きながら俺の腕も喜んでいる。

 


「腕が喜ぶわけないでしょう。バカな事言ってないで、治療してもらいましょう」


 

 戻ってきたロウェルが、煙たそうにしながら律儀にツッコんでくれた。

 

「やっぱり体の方に原因が?」


 簡単に言えば、火属性を使える様になったが、久しぶりだったので、こんな影響が体に出ている。

 

「そうですよ、機械に異常なし。ですから、水属性を扱える誰かに検査と治療頼みましょう」



 と、言われても当てがない。

 最近この町に着いた俺に学校内の人脈などほとんど無い。

 はぁ、と呆れた様子を見せながら、ロウェルはわざとらしい溜め息を吐く。

 手を出したヤツにキャスが紙とペンを渡す。

 何か書き、こっちに手渡す。


「水の天剣(シェロード)のクラス、それも一番優秀なクラス。そこにいる、リオという女性に頼んでください」


 なんだかんだ言って助けてくれるなこの男。

 リオ、聞いたことない名前だな、というか学生の名前なんて知らない。

 

 目的地ができたので、急いで教室から出ようとすると、


「キャッ」


「おっと。すいませ……ってサクラか。ごめん」


「まったく……、急いでても周りに注意しないと」


「以後気を付けます」


 急いでたせいでサクラとぶつかりそうになった。

 謝罪の言葉の後、俺の右腕の異常に彼女が気付く。


「あなた、それどうしたの?」


「いやー、朝起きたらこんなことになってて、今から水属性の人に診てもらってくる」


「とりあえず、応急処置だけでも」


 と言って、サクラは白い一枚の花びらを取り出す。

 右腕にそれを当て、サクラが魔力を込めると、一輪の花が貼り付く。

 それは冷たく、腕の熱を抑え、蒸気の発生を止めてくれた。


「短時間だけど、これで学校内を騒がせなくてすむわ」


「お、助かる」


 私も診てみようか?とサクラが提案してくれたが、一筋縄ではいかなさそうなので今回は断った。

 さて、水属性の天剣(シェロード)のクラスを目指しますか。



 ハツガが出て行ったあと、ロウェルの耳には、


「何よ、もっと頼ってくれればいいのに」


 と、自分が知っているクールなサクラとはかけ離れた言葉が聞こえ、驚く。

 む、……リオと会わせるのは……。

 一瞬悩んだロウェルだったが、


「彼の事ですし、流れに任せますか」


 そう言って、考えるのを止めた。

 主を見るキャスの視線はどことなく不機嫌だった。




 階段を上がり、あまり来ない空間に来た。

 こちらからすれば、全員知らない人なのだが、あちらからすれば、見慣れない異物一つ。

 そう考えてしまい、誰も彼もが自分を見ている気になってしまう。

 

 いや、くだらない事を考えてないで、さっさと腕を治してもらおう。

 道行く男子学生に声を掛ける。


「すいません、リオさんって方、どんな人で、どこにいるか知りませんか?」


「へ?リオさん?見れば分かると思うけど知らないって君、本当にここの学生?」


「えー、最近来たばかりの新入りッス」


 学生ではないが、別にいいだろう。

 男子学生は納得し、 


「なるほどね、こっちの教室にいたと思うよ」


 と、親切に案内してくれた。

 その教室では誰かを中心に、女子学生が集まっている様に見える。

 

「見えるかな?あの中心にいる、明るい青?水色?っぽい髪の人だよ」



 見えない上に、分からない。

 と思ったが、胸の大きい水色の髪の女性が目に入り、つい言葉が出る。


「あの、素晴らしい胸の方ですか?」


 ブッと横の彼は吹き出す。

 

「そう、そうだが君、女性陣の近くでそんなことを言うと袋叩きにあうぞ」


 じゃあなと帰る男子学生に礼を言いつつ、目標を確認する。

 穏やかそうな表情、この空間の雰囲気がいいのは彼女のお陰だろう。

 そんな感じがする。

 あれがリオさんか、何でロウェルはあんな完璧美人と知り合いなのだろうか。

 

 腕が熱を発している感覚に襲われる。

 これは、時間もないか。

 腹を括って、あの人だかりに突撃するしかない。

 


「すいませーん。リオさんちょっとお話いいですか?」


 一斉に多くの瞳がこちらを向く。

 穏やかだった空気が変わる。


 ……ったく、仲間の集まりってやつは。


「私に何かご用ですか?」

 

 静かに降る雪の様な、優しい声が返ってくる。

 うお、女神!素早い対応に感謝。


「ここじゃ、あれなんで場所を変えたいんですけど」


 と、ロウェルにもらった紙を軽く見せる。


 うわー、ラブレター?


 でも包んでないよ?


 告白?


 あの顔で、リオさんに釣り合うと思ってるのかしら。


 ひそひそ話しているが全て聞こえる。

 心の傷を乗り越えながら、俺はお願いしますと頭を下げる。

 何で、治療を頼むはずがダメージ増えてるんだ。


「そうですね。では、ついて来てください」


 女神!

 とりあえず、話はできそうだ。


 別の空いた教室に、二人で向かう。

 さっき案内してくれた、男子学生が唖然とした表情で見ていた。

 それだけではなく、見かける人みんな表情が険しい気がする。

 水属性のトップクラスの実力で穏やかな美人、このお方の人気って事なのか?



 誰もいない部屋に入ると、彼女は周りから見えない様にカーテンを閉める。

 空き教室なのか、椅子が数個あるだけだ。


「治療の依頼だったんですね。そう言ってくださってたら、皆さんも……。友人達の失礼な発言、お詫び致します」


 丁寧に頭を下げる彼女にそこまでしなくとも、と慌てて止める。

 そして、改めてロウェルが書いた紙を渡す。


「ええと、腕ですね。久しぶりに火属性の魔法を使って……。蒸気が出ているってすごいことになっていますね」


 俺の右腕を触りながら体内を調べてくれている。

 彼女の手は、ひんやりと気持ちいい。


「魔力が抑えきれてないのでしょうか……ええと」


 目をつぶって、腕に集中し魔力を流してくれているのが分かる。

 こんな時だが、眉間に力が入り、一生懸命といった感じの表情がかわいいと思った。

 腕から好き放題に流れていた魔力の流れが一つずつ整理されていく。


 

「はい、終わりましたよ」


 終わりは予想外にあっさりと訪れた。

 朝からロウェルと、クソ暑い部屋で蒸されながら四苦八苦していたのはなんだったのだろうか。


「ハハッ、すごいですね。おお!腕が軽い、流石は水属性トップクラスの方」


「そんな……、褒めすぎですよ」


 恥ずかしそうに、両手を頬に当てる。

 魔法も優秀、丁寧な物腰、かわいらしい仕草、素晴らしいおっぱ……いや止めておこう。

 とにかく、素敵な方に正確な治療をして頂けて良かった。

 問題はこの後なんだがな。


「あの、報酬ってお金を払えばいいんでしょうか?」


 そう、治療の対価。

 アイツの紹介だから非常識な請求はされないと思うが……。

 尋ねた後、彼女は柔らかい笑顔で、


「いえいえ、そういったものは構いませんよ。困った時はお互い様です」


 と、優しすぎる言葉に感動する。

 この学校にこんな人いたんだな。


「今日は本当にありがとうございました!」


「お大事に」


 深く頭を下げ、感謝を伝える。

 扉へ向かおうと彼女に背を向ける。




 


 その時、教室内に冷気が駆け抜けた気がした。

 直感が俺を振り向かせる。


 眼前に迫るは氷の刃!

 リオは足に鋭い氷をまとい、彼女の右足は俺の顔を狙っていた。


「ッ!」


 素早く腰の刀を抜き、鋭利な氷のハイキックを受け、同時に軸足を足払いで蹴り払う!

 そして空いた手で、彼女の肩を抑えつける様に床に叩きつける。


 刀を喉元に突きつけ、一瞬で勝負がつく。


「何のつもりですか?」


 恐ろしい攻撃をされてはいたが、殺意は感じなかった。

 本気ではなかったとは思うが。

 ジェル状の物を魔法で生成し、背に敷き、床に叩きつけられる衝撃を防いでいた彼女は、


「~~~~!」


 言葉が声にならないくらい喜んでいた。

 笑顔ではあるが、先程までの穏やかで上品なものではなく、心なしか妖艶さを含んでいた。

 


わたくし、強い殿方が好きなんですよ」


 ん?


「死霊人を撃退し、地の守護者を難無く撃破した、ハツガ様。こんな素敵なお方、ぜひ刃を交えたいじゃありませんか!そして、この結果。一本取られたのは悔しいですけど、まさかここまで完敗とは!」


 呆気に取られて言葉は出ないが、嬉しそうだ。

 表情は好きな物を語る無邪気な乙女なのだが……。


 肩を抑えた俺の手を取り、自分の胸に持っていく。

 俺の指が、男の理想郷に沈む。


「ちょ!」


「私の胸の高鳴りが聞こえますか?本当に素敵で感動しました」


 俺はそれどころではない。


「でも、負けたのは悔しいので、少し意地悪させてもらいますね」


 彼女はにっこり微笑み、手から水流を発生させ、廊下側のカーテンを撃ち落とす。

 窓の外には、多くの学生が貼り付いてた。

 見えない部屋でのリオが気になり、待ち構えていたのだろう。



 そんな彼ら、彼女らの目に入った光景は、男に倒され、胸を触られているリオ。

 一瞬の沈黙の後、激しく扉が開けられ、大量のお怒りになられた方々が流れ込んでくる。


「嘘だろオイ!」


 彼女から飛び退き、迷わず人で塞がっていない校舎外へ窓から飛ぶルートを選ぶ。

 ここが何階かは忘れたが、知った事ではない。


「ハツガ様!この勝負は、治療の報酬という事で。また、お手合わせよろしくお願いしますね!」

 

 



 険しい道のりを乗り越え、いつもの教室に戻ってきた。


「ロウェル!てめえ!」


 俺が怒鳴りながら入って来てもヤツは涼しい顔で受け流す。


「ああ、本性に遭遇してしまったんですね。普段は上品で素敵な女性なんですよ」


 うんうんと、一人で頷いている。


「まぁ、腕が治ったからいいけどさぁ……」



 そうですよとまだ頷いている。

 しかし何者だあの人。


「かなり君の事、気に入っていましたから、そう邪見にしないで姉さんと仲良くしてあげてくださいね」


 は?

 姉さん?

 俺の唖然としたまぬけ顔に、ロウェルは言葉を被せてくる。




「あれ、聞いてないんですか?リオ・エルバイト。俺の姉であり水属性トップ、つまり水の守護者ですよ」



 


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