死霊人
人では触れない……そんな敵、死霊人をハツガは投げ飛ばす。
~少し前のスザクの教室~
今朝よりかなり近距離での爆発音に全員が身構える。
南門が!という叫び声が聞こえ、校内が更に慌ただしくなる。
これはもう待機している場合ではない、覚悟を決める。
ここから南門まで最速で行くには、
「ミライ、風属性の魔法で、追い風を頼む。一気に向かう」
俺は立ち上がりながら、俯いた女の子に声を掛けた。
「……。」
「ミライ?」
「ねぇ、何で迷わないの?死ぬかもしれない場所にいくのにさぁ!」
彼女の至極真っ当な疑問。
死に対する恐怖は人が持つ当たり前な感情の一つ。
だが、蘇ると決めた時から、迷いはない。
「人って、心身揃って生きてるんだと思う。どっちも生きるために大切なんだ」
「ここで、行かなくて知ってる誰かが死んだなんて事になったら死ぬんだよ」
「俺の生命が」
師匠に想いを託されたこの体は、迷っている場合ではない。
迷って何もできないまま、死ぬ方が恐ろしい。
「だから、ミライ。俺のわがままに力を貸してくれ。頼む」
「かっこつけすぎだよ……ばか」
ミライは顔を上げ、立ち上がり、詠唱を唱え準備を始めてくれた。
黙っていたロウェルは、自分のケースから、何か取り出す。
金属の武器、銃?ライフル?だったか?
実在したのか。
「こいつは、俺が開発した自分の水属性の魔力、魔法を撃つ銃、名をイリスといいます」
「着弾した人の魔力強化や、範囲内の強化、弾丸を変えれば逆も可能です」
「かっこいい武器だな」
ロウェルは震えながらも、強引に笑みを作り、
「ありがとうございます。弾丸の種類もまだいろいろと。これでみんなの支援を任せてください」
助かる、と感謝の言葉を返す。
「みんな決まったみたいね。じゃあ私はあなたの援護を」
「頼りにしてる」
サクラと視線を交わし頷く。
みんなを眺めていたこのチームの先生であり、責任者のスザクが切り出す。
「こんな危険な事態を君達の初任務には普通なら選ばないが、状況が状況だ、みんな頼むよ」
「ハツガは最速で突っ込んで、ヤツと交戦ね。住人達から遠ざかる様に戦ってくれ。やれるんだな?」
ああ、と兄でもあるスザクと拳を合わす。
「魂は女神と共に」
呪文を唱え、自分の強化を行い、ミライの風魔法と共に窓から飛び出す。
「サクラはあいつの援護だ。……いつもあいつが迷惑かけてごめんね」
いえ、と穏やかな顔で首を横に振り、部屋から出て行く。
「移動力の一番高いミライ君は、走り回ってもらうよ。相手は火がメインみたいだから、この指示通りにに水の天剣、海盾、冥鎧を配置するよう先生方に頼んでくれ」
指示を書いた紙を複数渡す。
「他の属性はこんな感じ、街の修理、補強、人の誘導。渋る先生がいたら僕が責任取るって言って、早く進める事を重視して欲しい。頼むよ」
ハイ、と真剣な表情でミライは覚悟を決め、飛び出す。
「ロウェル君、一人が受けられる魔力強化は二十四時間に一発だったかな?」
ハイと返事する彼の目を見つめ、無茶な提案を強引に承諾させる。
みんな出て行った教室を見渡し、
「まさかこんなに早くチームとしてまとまるとはね。さて、僕も行きますか」
スザクは太陽剣バルヴァを取り出し、南門へ急ぐ。
そして、現在の南門から離れ、敵を投げ飛ばした外壁付近。
襲われていた二人の危機に間に合い、ほっとする。
南門から、街を囲う外壁まで強引に移動できて良かった。
ハツガは相対する死霊人を観察する。
整っていた髪は乱れ、小奇麗な服も埃まみれになっている。
パッと見、人との区別はつかない。
怒りの表情から、感情がある事も分かる。
敵は埃を払い、口元を拭いながら、一人で頷いている。
「あまりに予想外な出来事で冷静さを欠いてしまったが、気付けば大したことではなかったな」
避難が遅れたのか、人の気配がする。
そっちに一瞬目をやりながら、相手はわざとらしく叫ぶ。
「赤目の男ォ!お前、俺に許可なく触れるってことは同族だろ?なぜ人に加担している」
俺が、アニーちゃんやジョンさんに危害を加えるこいつら死霊人の同族だと?
怒りに任せて飛び込まない様に、深呼吸一つ。
冷静になれ。
許可か、人と死霊人との接触には選択権が死霊人にあるらしい。
敵はどんどん高揚しながら叫び続ける。
「そう!お前も神に作り直され、永遠の命と地上の支配権をもらった俺達、死霊人の仲間だろ?こいつら使われるだけの人と違ってよぉ!」
隠れていたが、我慢できず走って逃げだした学生、数人を狙い熱線が放たれる。
間に割って入り、魔法を打ち消す槍で弾く。
「読めてんだよ、浅い卑劣な行動するってな」
人が逃げた事を確認し、歯を噛み締め怒りの表情の相手を見据える。
ただ、尋常じゃない魔力の量のせいか、打ち消したはずなのに、手のひらが焼け、痛みに襲われる。
次々に放たれる火球、熱線を弾いて、打ち消して、弾いて、薙ぎ払う。
「その槍、神託武器か。やはり神と関わりある者、ますます虫けら連中の味方をする理由が理解できん。ここは、獲物も多く誰にも見つかってない絶好の狩場だ」
「人の確保のために街ごと焼き払うわけにはいかないんだよ!どけええええええええ!!!!!」
腕を一振りし、炎の剣を生成した死霊人が距離を詰めてくる。
遅い!
激しい連撃で振り回される炎をいなし、剣を叩き落とす!
チャンスで踏み込みヤツを狙う!
が、余裕そうな相手にハッとする。
至近距離でニヤつきながら、右手から放たれる熱線を紙一重でかわす。
「ヒュー!あれをかわすか!お前殺すの惜しいなぁ。組んで大儲けしようぜ」
「悪いが、小悪党に興味は無い」
地を蹴り距離を詰める。
「なッ、速い!」
再び生成された炎の剣と撃ち合う。
手の感覚は無くなったがしっかり槍を握る。
再会した家族を、新しい仲間を、街の人々を、幼馴染を!
これ以上誰かを失う事のないように!
剣を再び、弾き飛ばし、魔法が放たれる前に右手を蹴飛ばす!
「ああああ!!!」
敵の怒号を聞きながら、俺は鋭く腕を突出し、死霊人の右肩に槍を突き刺した。
手応えは分からないが、傷口を抑えよろめいた相手が確認できる。
槍でダメージを与えられた事に安堵する。
次の瞬間!
「ああああああああああ!!!!!!!!!」
再び叫びながら、敵が捨て身で突っ込んでくる!
冷静に左胸を狙い突き刺す。
だが、そのまま止まることなく槍を貫通しながら俺との距離を詰めてくる!
俺の腕を掴み、
「てめえ……その槍、魔力が乱れるじゃねえか。お前共々邪魔なんだよおおおおおおおお!!!!」
魔力で防御するが、掴まれた部分から全身が激痛と共に焼かれる。
火属性には耐性があるが……これは……。
二発の銃声が聞こえ、炎の弱体化と、自分の魔力強化を感じる。
ロウェルか!
「おおおおおおお!!!!」
腕に魔力を回し、無理やり俺を掴む化け物の顔面を殴り、怯んだ相手に矢が刺さる。
こっちにも、腕に花が付いた矢が刺さり、掴まれていた部分が伸びた治癒効果のある蔦でぐるぐるに巻かれる。
サクラの攻撃と治癒に感謝する。
「がああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「ハァハァ……木?木……。木!木属性だと!」
想像以上のダメージを受け、理解できないぐらい動揺していた。
矢が刺さった事より、属性に衝撃を受けているのか?
確かにサクラの魔法属性は、この学校でも分からなかった上に特殊でもあった。
こいつは何か知っている、そういった反応。
「だからどうした?」
「あれは、命を操る生命への冒涜。かつて、神に返した存在すべきでないもの」
「は?」
死霊人の目つきが変わった。
先程までの怒りは無く、まるで感情も無くしたかのようだ。
ぶつぶつと不気味に喋り続ける。
「木、火、土、金、水。かつての属性。木、返還、全て殺した。もらった、永遠の命。属性再編。地水火風」
「木属性は存在してはならない。木属性は存在してはならない。木属性は存在してはならない!」
突然、右手を掲げ、巨大な火の塊を生成し始める。
さっきまでは、街の人を生け捕りにする事を望んでいた。
しかし、もうそんなつもりは無いと言わんばかりに大規模な魔法の展開を始める。
ヤツは無防備、攻撃を仕掛けるか?
「待て!ハツガ!ここは僕に任せろ!」
「兄貴!?」
こちらに走ってきた、スザクが横に並ぶ。
「ここまで、よくやってくれた。あの槍が突き刺さっているお陰でアイツの魔法は不安定だ。だからこそ、ここでアイツを狙うのは、あの太陽を消してからだね。魔法の使用者を失うと、どうなるか分からない」
スザクは一呼吸置く。
「あれをどうにかするから、攻撃を頼むよ」
太陽……、どんどん大きくなる火の塊を兄貴はそう比喩するが、人を照らす暖かみは無く、焼き尽くす地獄の灼熱にしか思えない。
剣を構え、聞き覚えのある詠唱を始める。
あれは、確か……。
「闇夜を切り裂くは、我が蒼き炎。不死の双翼よ炎を喰らい、人を照らす導きとなれ」
「火喰い鳥!」
剣から放たれた火を喰らう蒼く輝く巨大な鳥は、一直線に火の塊に向かう。
それに気付いた死霊人は、右手で街の方に振り下ろし、火の塊は降下を始める。
赤い炎と蒼い炎が激突する。
迷いの無い蒼の輝きは、赤を貫き、天へと翔けぬける。
赤い火の塊は泡の様に弾けて大部分が消える!
「兄貴!街に火の粉が降り注ぐぞ!」
「大丈夫、ミライ君に任せてる」
「都市防衛魔法起動!水壁!」
街では火の塊が弾け大歓声の中、スザクの指示で配置された水魔法の使い手達に、ミライは合図を送った。
上空に現れた水の壁が火の粉を打消し、街を、学校を、人々を守る。
上空の守りを眺めながら、あまりの規模の大きさに言葉が漏れる。
「ハハ、こいつはすごいな」
「ああ、ミライ君もロウェル君もよくやってくれたよ」
スザクが膝をつく。
槍が魔力を乱し、弱体化させていたとはいえ、死霊人と魔法で渡り合った。
やはり、無茶な強化を施していたか。
俺の視線に気付き、
「文句は後で受け付けるよ。だから……」
「分かっている。仮初の生命の刃」
腕に巻き付いた花、ナガレボシスイレンを取り、刀に属性を付加する。
死霊人に動揺とダメージをもたらした、この木属性なら!
火球を生成しながら、敵は叫ぶ。
「貴様は必ず後悔する!あの属性を持った者を守る事をなぁ!」
足に残された魔力を回し、地を駆ける!
見境なく放たれる魔法をかわしながら懐に飛び込む。
「追い風・睡蓮」
居合斬り一閃。
腰から肩を斬られた不死と言われる存在がついに倒れる。
「ありえない……。ありえない……」
そんな言葉を残しながら、死霊人はドロリと溶ける。
最後は、粉の様になって風に飛ばされてしまった。
「塩?」
ふらふらと近づいて来ながら、スザクが聞いてくる。
さぁ?と手のひらを上に向け肩をすくめる。
「強くなったな、ハツガ」
スザクが嬉しそうな笑顔で拳を突き出してくる。
こんな表情いつぶりだろうか。
「ああ!」
軽く拳を合わせ、勝利を噛みしめる。
人が避難し、静かな街を歩き、学校へ戻っていると、
「お疲れ様でした、二人とも」
と、サクラが合流してきた。
返事をしながら木属性について考える。
「ごめんなさいハツガ、あんまり役に立てなくて」
「いや、ベストな援護だったよ。必要なとこだけってやつ?」
サクラに属性の事を言うべきか悩んでいると、スザクが横から茶々を入れてくる。
蔦に巻かれた腕をつつきながら、
「しっかし、これ前にあげた花だよね?せっかくのプレゼントを即行使わせてしまうって、お前甲斐性無し極めすぎじゃない?」
「うるせ」
珍しくサクラが慌てる。
「わ、私が必要だと思ったところで使っただけですから。ハツガ、大丈夫なの?」
見た目は、服は所々焼け、全身に火傷やら、焦げた跡もあってひどい事になっている。
だが、サクラのお陰で動く分には問題ない。
「ああ、サクラのお陰でな」
そう、と顔を逸らしそっぽを向いてしまった。
スザクはニヤついている。
学校の生徒や教師がちらほら見え始めると、スザクは駆け寄り、事の顛末を報告する。
歓声が上がり、勝利を伝えるために学校へ走る生徒もいた。
女子学生は、スザクに飛びついたりしていた。
「人気ありますからね、スザクさん」
サクラが横で苦笑する。
う、うらやましくなんかない……ないんだからな!
学校の門まで戻ると、溢れんばかりの人でごった返していた。
「ありがとう!」
「流石スザクさん!」
「助かったのか……」
「信じられん」
いろんな人の声が聞こえる。
こんなに大勢守れたのか、と嬉しくなる。
ふらつく足取りで前に出たスザクは俺とサクラを引っ張り出し、
「今回勝てたのは、こいつと僕のクラスの生徒のお陰ですよ!」
と嬉しそうに、大声で言う。
歓声が上がったり盛り上がったりし、住人達は祭りの様に楽しそうにしていた。
サクラは恥ずかしそうにし、俺も照れくさかった。
だが、誰かから発せられた大声一つで、冷水を浴びせられた様に静まり返る。
「この男!死霊人が同族とか、仲間とか言ってたぞ!だから、戦えたんだろ!?やばくないか!?」
住民達はざわつき始める。
サクラが怒りの表情で、進みだそうとするのをスザクが抑える。
「待て、サクラ。僕も同じ気持ちだが、落ち着け」
「ハツガは命を懸けて戦ったんですよ!」
分かってる、分かってるとスザクはサクラの肩を抑え掴む。
避難が遅れていた誰かが、ヤツとの会話を聞いていたのか。
元気そうでなによりだ。
神に作り直された、という点では同じなのか?
だが、永遠の命、地上の支配権、そして木属性への反応。
分からない事が多い。
そもそも再構成された俺は不死なんて便利な特性を持ってはいない。
ざわめきと声は続く。
「何をするか分からない!街から追い出すべき……」
「黙れ!」
男性の鋭い怒号が響き、誰かが人混みをかき分け、無理やり出てきて住民達と、俺達の間に立つ。
そして、小さい女の子が俺に抱きついてくる。
「この人は、俺達親子を迷いなく救ってくれたんだ!魔法が使える、使えない関係なく誰も助けてくれなかったあの状況で!」
「この人の勇気を否定し、その上追い出そうとするなんて、そっちの方が人とは思えねえよ!」
ジョンさんが俺達の前に立ち、頭を下げる。
「本当にありがとうな、ハツガ君。俺はもうあの時、本当にダメかと思ってよぉ……」
泣きながら、彼は俺の手を取り、何回も頭を下げる。
アニーちゃんは、腰にしがみついたままこっちを見上げ、
「ぁ、ぁりがとうね。お兄ちゃんホントにかっこよかったよ」
恥ずかしがり屋だった女の子は最上級の笑顔を見せてくれた。
「俺もあの兄ちゃんには世話になったんだよ!」
「そうだ!学校の連中より、街のために動いてたじゃねえか!」
いろんな声が聞こえてき、非難する声が掻き消え、この問題は一件落着となった。
三人でスザクの教室まで戻ると、ドアを開けた瞬間、素早く振り返った二人が目に入る。
「わぁぁ~~ん!!みんな無事だったあぁぁ!!」
ミライが泣きながら俺に飛びついてくる。
ロウェルは安心した様に息を吐く。
「先生、無茶な強化はこれっきりにしてくださいよ。自分のせいで死ぬ恩師なんて見たくないですから」
「ごめん、ごめん。二人も良くやってくれたね。本当にお疲れ様!」
「先生ぃ~」
俺の服をぐしょぐしょにしながらミライがスザクの方を向く。
しばらくして落ち着いた後、ふとミライが切り出す。
「そういえば、ハツガ君が死霊人なんて変な噂流れてたけど、全部否定しといたよ!だってこんなに、かっこ……触れるんだからそんな訳ないよね」
面倒な事になると思って、黙っていたけど二人には伝えておくか。
俺が死んで、生き返った事。
アイツとやり合えた理由。
簡単に女神様に救われた事を説明すると、二人は最初驚いていたが、ミライは
「今、生きてるんでしょ?だったらどうでもいいよ!」
と笑い飛ばし、ロウェルは、
「俺は元から君の事なんて興味ないって言ってるじゃないですか。どうでもいいですよ、そんなこと。……後で胸にある歯車、確認させてください、俺なら力になれますよ」
とぶっきらぼうに言い放った。
いい人達に出会えた、そう思った俺は改めて二人に述べる。
自然と笑顔になる。
「二人とも改めてこれからよろしくな!」
「うん!」
「はいはい」
この町で、学校で、活動することに損得ばかり考えていた。
しかしこの戦いで得たものはそれと対極に位置する様なものだった。
人の優しさ、友情。
見て確認できるものでも、触れて感じられるものでもないが、確かに得た。
守りたいものが増えた俺の決意は一層強固なものとなる。
これを自身の力としよう。




