見えるけど触れないもの
人の減少に伴い、軍、政府の役割も兼ねた学校のある町の、近くの村に異変が。
~学校内・スザクの部屋~
激しい爆発音で目を覚ます。
心なしか熱を感じる。
兄・スザクは昨日から戻って来ていない。
素早く身支度を整え、槍を背負い、刀を腰に携え、部屋の外に飛び出す。
教師らしき人を見かけたので、呼びかける。
「何があったんですか!?」
「君は、スザク君のとこの……。膨大な魔力が感知された。方角は南南東、ここからでは確認できないから、とりあえず外に出ないと分からない」
礼を言い、外を目指す。
校内では、寮から出てきた生徒が窓ガラスに張り付き、状況を確認しようとしている。
ここからでも、光は見えるが分かりにくい。
人混みを進み何とか校外へ出る。
南南東はどっちだ?と辺りを見回していると、
「ハツガ君、こっちですよ!」
と、緊迫した男の声がする。
メイドさんを従えたロウェルだ。
「俺の名前覚えてたんだな」
「くだらない事、言ってる場合ではないですよ」
とロウェルが指さした方向では……。
大地と空の接点となり、天空を支えているかの様な、火の柱が存在していた。
校内の生徒達はもちろん、どんどん街の方でも、人の騒ぐ声が聞こえてくる。
いったい何が……と茫然としているロウェルの肩を叩く。
「俺達の指揮を執るのは?」
「え?ええ……スザク先生ですけど」
「みんなと合流するぞ」
スザクのクラスの教室へ向かう途中、火のシェロードやら水のジルト、地のアーヘルなど、聞きなれない言葉が飛び交っていた。
ロウェルに尋ねると、知らないんですか?と信じられないという顔をされた。
「魔法の実力で振り分けられたクラスですよ、優秀な方から、天剣、海盾、冥鎧です」
つまり、教師陣が自分のクラスの生徒を集めていたのか。
緊急時だから当然か。
目的の教室に急いで入ると、スザク、ミライ、サクラの三人がいた。
これで、属性で分けられていないはみ出し者達のメンバーが揃った。
スザクが真剣な表情で切り出す。
「全員揃ったな。見て分かる通り緊急事態だよ。まずは、現状の確認をしよう、……サクラ」
「はい、先程この学校から見て、南南東の方角に火の柱が出現しました。火の柱は自然災害ではなく魔力が感知され、何者かによって使われた魔法と思われます」
嘘でしょ、とミライが呟く。
誰かが意志を持ってあの規模の魔法を展開したのは確かに信じがたい。
サクラの説明が続く。
「あれが、個人によるもの、集団によるもの、または新たな術式や道具、兵器なのかは全く分かっていません」
ありえない、あんな威力の兵器、祖父でも無理だとロウェルがうつむく。
その言葉にスザクが問う。
「君から見て、君やエルバイト博士でも厳しいのかい?」
「ええ、おそらく」
エルバイト博士は、魔力を用いた道具の開発でかなり有名な方なんですよ、とサクラが耳打ちして教えてくれた。
火の柱が発生した場所は……とスザクの言葉にミライがハッとする。
「あの村の場所だ!昨日、ジョンさんが言ってた、怪談の場所!」
「怪談?」
「はい、ええーっと、恐ろしいことが起こって、旅人が逃げ出したってそんな感じなんです。」
省きすぎて全員、分からず困惑の表情を浮かべる。
俺が補足のために、話し出す。
「知らない国から来た商人が、その村で男は光に変え、ビンに保管し、これを商品と呼び、女は動けなくしたらしい」
話ながら思考を巡らせる。
「村人は商人には触る事ができず、その恐ろしい光景を見た旅人は逃げた。そんな話がこの町で噂になっている」
「そんな話関係あるんですか?」
と、ロウェルは顔をしかめる。
確かに、村を焼き払われた現状とは関係が分からない。
だが、舞台は同じだとすると……。
「人の回収が終わったから、用済みの村を消滅させた?」
サクラの口から恐ろしい仮説が流れる。
完全に人より上位の存在による、捕食の様なもの。
スザクが苦々しく答えを出す。
「死霊人か……」
死霊人……。
いよいよぶつかる時が来たか。
膨大な魔力、人を道具として扱う、ここまでは俺の知識と今回の出来事が一致する。
そしてやつらは、不死と言われている。
まだ情報が欲しいと思い、顔を上げ、クラスメイトの三人を見る。
それぞれ、強いショックを受けている様子だった。
サクラは唇を噛み怒り、ミライは恐怖で青ざめ、ロウェルは絶望で頭を抱えていた。
「戦った事がある人や、戦闘のデータは残ってないのか?」
唯一冷静なスザクに向かって質問を投げる。
三人は驚き、一斉にこっちを見る。
「無い。推測だが、死体もなく行方不明になった人がいるなら、あいつらにやられた可能性がある」
「交戦は?」
「僕も無い。この町に来てから、調べても新しい情報が全くなかった」
会話の途中で、ドアがノックされる。
入ってきたのは、今朝会った教師だった。
「スザク先生、軍議に参加お願いします。教師陣全員参加ということなので」
「分かりました。みんなは、このまま待機しているようにね」
残されたみんなは、重苦しい空気の中誰も喋らない。
すると、ロウェルのメイドさんが、
「みなさん、一旦休憩にしませんか?飲み物、淹れますよ」
そうだな、とロウェルが頷き、みんなはどうします?と尋ねてきた。
コーヒー、紅茶、緑茶と三人がバラバラな注文をする。
「まぁ、まだ死霊人と確定してはいませんし、スザク先生もいます。自分達のできる事をやりましょう」
ロウェルが肩の力を抜き、敢えて明るい意見を言う。
そうだね、とミライが紅茶を持ちながら同意する。
「ただ、強敵には変わりないと思いますから、気を抜かないでいましょう」
魔物に村を襲われる恐怖を知っているサクラは、気を張ったままだ。
無論俺も、じっとしているつもりは無い。
淹れたての熱いコーヒーを一気に流し込む。
「え?ハツガ君熱くないの?」
ミライがギョッとし、流石につっこんできた。
熱には耐性があるんだよと、真顔で答える。
昔、火属性を扱っていた名残みたいなものだ。
パンッと膝を叩き立ち上がる。
「ハツガ、どうするの?」
サクラが不安そうに尋ねてくる。
「死霊人か大規模な火の魔法を使う魔物について、情報を集めてみる」
「先生が待機って言ってたよ、ハツガ君」
俺は、すぐに戻るとミライに返し、教室を後にした。
幼馴染が出て行くのをサクラは止めなかった。
止まらないだろうとも思った。
不死の化け物が敵の可能性を聞いても、いつも通りなハツガの背中を見送り不安が増す。
彼の気持ちが分からなかった。
一度命を失った後、今の命をどう思っているのだろうか。
そんな時、普段は向こうからあまり話かけてこないミライから、質問がくる。
「あの人、戦うつもりなの?」
「ええ、人に害が及ぶなら、立ち向かうでしょうね」
そこは間違いない、人を守ることが彼の旅の目的だ。
「頭おかしいんじゃないですかね。こんな大事に自分から突っ込んでいくなんて」
珍しくロウェルの口調が熱くなる。
「強大な敵との戦いですし、知識が豊富、戦闘に長けている、魔法の扱いに優れているといった人達の役目です。適材適所という言葉通り、俺達に出番は無いと思います。それなのに指示もなく動くのは非効率的です。なのに……」
「選択肢を増やして、希望に繋げたいみたいですよ」
そんなことを言っていた気がする。
生きる事は、可能性を増やす。
「状況を悪化させる可能性だってあるでしょうに。前向きなバカですね」
興味ないと言っていた割には、ロウェルはハツガの行動に噛みつく。
それに気づいたサクラは少し微笑む。
「サクラさんはどうするの?」
ミライの言葉に少し考え、いろいろ誤魔化しながら答える。
「彼が死なない様に手伝いでもしようかしら」
二度も失うなんて耐えられるとは思わないから。
ハツガは許可をもらい、資料室を漁る。
だが、死霊人はおろか、巨大だったり強力と言われる魔物についての、資料がほとんどなかった。
「そんなに、この周辺は平和なのか?」
だからこそ、ここに町を構えた普通に考えれば、そうなるか。
資料を読んでいると、近づかれる気配もないまま、
「軍議終わったから、スザクももうそっちの教室に戻る。弟君も戻った方がい・い・よ」
「うわああああああ!!!」
無駄に甘く耳元で囁かれ、その場から飛び退く。
スザクが護衛している金髪、貧乳の美人、リーミエだったか。
相変わらず行動が分からない人だ。
俺の手元の資料を覗き込み、
「ふーん、魔物ね。死霊犬って知ってる?見た目は犬っぽいけど、魔力で上回ったり、魔力を打ち消せさないと倒せないやつ」
頷く。
確か前の戦いでは、魔法を打ち消す槍なら倒せた。
「そ・れ・で、死霊人。触れない、死なない、魔力は膨大。死霊犬は彼らが作ったと言われているわ」
それは、初耳だ。
彼女は話を続ける。
「自分達と同じ要素を加える事を犬で試して、成功したと考えると?」
「同じ要領で倒せるんですか?人にはあの規模の魔法への対抗、無理だと思いますけど」
「でも触れないって、すごいよねぇ。見えるけど触れない、幻覚?お化け?魂?」
「ちょ、ちょっと待って下さい、やつらについて詳しく知ってるんですか!?」
「さぁ~ねぇ。弟君、あとは自分を信じてあげてね」
部屋から出て行った彼女を追いかけても、そこにはいなかった。
そうだ!兄貴が戻ってるはず、俺も戻ろう。
全員揃った教室で、スザクの説明が始まる。
「間の悪い事に、校長や何人かの先生、四属性トップの生徒が不在でね。責任を背負うのが嫌だと言う連中が多くて話が進まなかったよ」
ロウェルはああ、そうかと何かに気付いた様な顔をする。
「その中で決まった事は、天剣の一部で、発生源への偵察、海盾で各門の強化と警備の強化、冥鎧は住民の避難の誘導といった感じだ」
「村を消滅させる魔力を持つ敵相手に、街の方々はどこに避難するのですか?一か所だと……」
「学校だ、戦力の分散はこれ以上無理な上に、町の外へ護衛しながら避難する場所もない。だから学校になった」
その頃、南側の門では、門の魔法耐性の強化と、人の出入りを止め、封鎖されようとしていた。
一人の商人は、列に並ぶ直前で、封鎖されてしまい、不幸を嘆いた。
仕事用に綺麗な服装をし、髪を整え、身だしなみは完璧だったのに。
やっとたどり着いた町。
どうしても入りたかった。
急いで人の多い場所に行きたかった。
諦めきれなかった彼は、門の守りをしている、一人に声を掛ける。
「あの……、入りたいんですけど」
「すいません、安全が確認できるまで、この町の住人と事前に連絡をしていた方々以外の通行は、禁止となりました」
「そんなぁ、どうして人ひとりすらダメなんですか?苦労して辿り着いたのに」
「死霊人が現れた可能性があるんですよ」
「死霊人?ああ!だから、門を魔法で強化してるのですか!魔法が強い相手だから!」
「ええ、だから内側には、もう入れられないんです。ここで食い止めないといけないんで」
なるほど、なるほどと最初は、町に入れず落ち込んでいた彼は、楽しそうに笑う。
門の番人は不気味そうに眺めていたら、彼は手で握れる程度の火の玉を、右手で発生させる。
瞬時に敵襲!と叫んだ。
彼の判断は、素早く適切だったと思う。
しかし、その時ポイと軽く投げられた火の玉が、門を跡形もなく消し飛ばした。
火の柱となって。
「ハハハハハハハハッ!!!!傑作だな!範囲を絞って君を生かして正解だったよ。その顔!絶望と表現するには生温いか!どうだ?この後、この町がなくなると思うと。君は大切な人、いるかい?名前を教えてくれたら・・・、探し出して絶対、苦しめて、利用して、使い潰して、殺しておいてやるからな!」
爆笑しながら、答えなど待たず、男が門番の肩を叩き、
「分解」
の一言で、彼は光になって商人の手に収まった。
それを一気に飲み干す。
「うーん!魔力百倍!旅の疲れが癒える!疲労なんてないけど!」
商人は門だった場所を通りすぎながら、パニックでごった返す人々を眺める。
「本当、魔法耐性ないな人って。おうおう、こんな所にこんなにいたのか、さーてとりあえず女からかぁ?」
「火球!」
商人に火球が当たる。
駆けつけた、海盾ランクの生徒が魔法で攻撃をしかけていた。
四人に囲まれ、魔法をくらい続ける。
撃ち続けながら一人が叫ぶ。
「相手に当たっているぞ!続けよう!」
「え?え?え?え?これ、魔法で攻撃してるの?魔力量、魔法生成時間、威力、どれもひっどい」
「なんだっけ?君達がいちいち言ってんの?えーと、ふぁいや~ふぇる~」
商人がバカにして唱えた魔法は、四人と周囲の家を吹き飛ばす。
「いっけね、商品が」
我先にと逃げ惑う人々以外動けなかった。
近くに集まった教師も天剣、海盾、冥鎧、どのランクの人でも一目で分かった。
敵わないと。
「お、女の子はっけーん!」
走り、逃げる集団から一人の小さな女の子が、転んで取り残されていた。
商人は一人目の得物を決め、ゆっくりと近づく。
「アニー!」
一人の男が駆け寄る。
親とかいう生き物なんだろうなぁ。
ここに転がっているコレが、そんなに大切か。
「俺はどうなっても構わない!この子だけは!」
面白い。
「分かった、分かった。お前の素晴らしい熱意に負けた!」
男がこっちを見る。
希望を見たか?
「他の女を十人用意したらこの子見逃してあげるよ」
男は顔を歪ませ奥歯を噛み、商人を睨む。
「な、なぜ、そんな条件を……!女性だけ十人だと!」
「ああ、女って、体の中に人、居られるじゃん?なんだっけ?お前らが増えるやつ?」
商人は楽しそうに話す。
「つまり、人から作った魔力の入れ物になるんだよ、新鮮な状態で保存できる。で、生命維持以外の余計な機能の記憶とか五感とか切っていけば、容量も増す。だから女は魔力保存できるビンの上位互換みたいな物かな!本人の魔力もあるし!」
男は唖然とし、言葉を失う。
見た目は人とさほど変わりがないが、中身は化け物だ。
価値観が違いすぎる。
「えーと、何もしないならこの子がそうなるか」
「あああああああああああああああ!!!!!!!!!」
男は叫びながら、商人を殴るが通り抜け空を切る。
歩みを止めない足にしがみつくもすり抜け空ぶる。
周りは誰も動けない。
「アニー!アニー!あああああああああああ!!!!」
「ぉ、お父さん!助けて!」
少女は手を伸ばすが、応えるものは何もない。
商人は足元で地面を這う男の頭を蹴飛ばし、宣言する。
「心配するな、お前はこの子に一番に保存してやる。」
少女の襟に手を伸ばした時、風が吹く。
これは風属性の魔法だと分かった。
もちろんダメージを受ける魔力ではなかったので反応する必要はなかった。
だが、この気配は……?
ガッという地を蹴った様な音がした。
商人は顔を上げる。
その瞬間、突風が如く突っ込んで来る赤目の男に首根っこを掴まれる!
赤目の男は右手に商人……死霊人を掴んだまま勢いに任せ跳躍する!
「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
そして、昨日補強した街の外壁に投げつけ叩きつける!
死霊人は戸惑う。
これは、なんだ?
この体の動きを鈍らせる刺激は。
これは……痛みか!
自分を投げつけた赤目の男を睨む。
「なぜ、俺の許可なく、触れる事ができる!?死を乗り越え、人を越えた俺達、死霊人にいいいいいいいい!!!!!!!」
死なないと言われる理由はすでに死んでいたから。
触れなかったのは、人と死人の差。
ならば両者、死という境界線を乗り越えた者同士なら?
「死を通り過ぎ、歩み続けているからだ」
赤目の男……ハツガ・ロードナイトは槍を突きつけた。




