新しい出会い。自己紹介は嫌い。
~学校内廊下~
俺は朝早々に重いまぶたを擦りながら、兄貴に連れられてある教室に向かっていた。
話があるのと、あと何だったか?紹介したい人がいるとか言ってたようなそうでないような。
窓から見える外では、年齢も異なる人達がまとまって一人の先生らしき人の話を聞いていた。
眺めていると、魔法で戦い始め、模擬戦っぽいことをしているみたいだ。
兄貴に聞くと、学校について説明し始めてくれた。
「四属性の地、水、火、風。属性ごとに生徒は集められてて、更にその中でも、魔法の実力でクラスは分けられているんだ。それぞれに先生が一応付いてることになっている。で、僕が今年担当しているのが、なんと空属性……というのは建前だけで、実際はどこにも属してない生徒の面倒を見ているんだよ」
「つまり、魔法は使えるけどスタンダートな四属性に分類できない連中が、兄貴の受け持ちか」
「そんなところかな。実戦をこなせる優秀な生徒は、先生の采配で隊を組み、依頼を受けたり、任務を与えられることもある。で、ハツガに頼みなんだが……」
「……兄貴の下に付けってことか?……断る。組織に所属すると無茶をやりにくくなる」
「最後まで聞けって弟よ。協力してほしいだけだ、同じ任務や依頼をこなすが、別にお前には命令はしない。傭兵みたいな感じかな。お前も仲間欲しいだろう?」
確かに、これまでの少ない戦いでも人手は欲しい時があった。
それに、依頼があるなら、効率良く戦いや魔物の情報が集まるのではないだろうか。
素早く救助や援護を行えるはず。
やってみて個人より効率悪ければ辞めればいいか、と結論が出たので兄に問う。
「なぁ、あまりにもデメリットが大きかったら辞めてもいいか?」
「構わないよ、この町を拠点としてる時に協力してくれればいいさ。それに、せっかく戦える人材もいる上に、人もそこそこいる場所なんだぞ?拠点にして人を救う活動してみたらいいじゃないか。」
どうも昔から兄には言いくるめられてる気もするが、悪い話ではないと思う。
その当人は一つの普通の教室の前に辿り着くと、足を止め、扉を勢いよく開けた。
「みんな、おはよう!」
スザクは先生らしく元気良く入っていったはいいものの、帰ってきた挨拶は四つだけだった。
明るい挨拶は、人懐っこい笑顔と明るい茶髪の様なオレンジ色の様な先日戦ったミライという女の子。
怠そうな返事は、白髪交じりの深緑の髪のせいで見た目より年を取って見える猫背の青年。
で、そいつの脇に控えた……黒のロングスカートに白いエプロン、メイドさんというやつか!
そして、今は制服の落ち着いた声で良く知った顔のサクラ。
そんな四人がこちらを向いていた。
四人?と兄貴に小声で聞くと、メイドさんに視線を送りながら、彼女は違うと。
「依頼やら何やらで今いるのは基本、このメンバーかな。みんな!こいつはハツガ、今日からここの手伝いをしてくれる新しいメンバーだよ。じゃ、僕はやる事あるから、今日は自由にしてね」
俺の名前だけ告げると、さっさと出て行ってしまった。
気まずい……なんて言って動かないのは非効率的だな。
「えー、あー、ハツガといいます。みなさんよろしくお願いします」
なんてつまらない自己紹介の上に、会話が下手なのがばれるな。辛い。
猫背の男は立ち上がり、
「はぁ、スザク先生から呼び出された思ったら、これだけですか。では失礼します」
と、教室から出て行こうとすると、追従するメイドさんに「名乗った方がよろしいかと」と言われ
「ロウェル・エルバイト。君には興味が湧かないので、こっちの事も覚えなくていいですよ」
仕方ないといった雰囲気を全身から出しつつ名乗り、冷たい一言だけで出て行ってしまった。
ロウェルか、ヤツは何でこのクラスなんだか。
こっちとしては興味が湧く。
思慮に耽っていると、明るい女の子、ミライが激流が如く、一気に話しかけてきた。
「あの!この間はごめんなさい!私の勘違いで面倒かけてしまって。怪我とかなかったですか?本当にごめんなさい!」
一瞬その勢いに負け、言葉が出なかったが、言おうと思ってたことを伝える。
「こちらこそ、すまなかった。俺が上手く対処していれば、君との戦闘にもならなかったはず。そっちも怪我とか大丈夫か?怖い思いをさせてしまって本当にすまない」
いえ、と激しく首を振る彼女に右手を差し出す。
これからは仲間だ、そういった意味を込めて。
「これから、よろしくな。もちろん君の味方として」
「うん!よろしく!」
はっきりとした笑顔で握手に応えてくれた。
女の子の笑顔っていいよなぁ・・・。
そんな笑顔とは対照的にクールな表情で、幼馴染は帰り支度を始めていた。
「あれ、サクラ、もう解散?」
「ええ、スザクさん……先生もいないし休もうかと。あなたも、長旅の後なんだから休息とっておきなさいよ」
サクラが出て行くと、ミライがおずおずと、
「サクラさんと、親しそうなのすごいね。あの人、孤高の人って感じで、ひたすら自己鍛錬してるイメージなんだよねー」
へー、あいつが。
でも、俺を含めて村から出てる連中は遊んでる場合ではないもんな。
危険に備えて力を蓄える、大ざっぱだがみんなそんな目的があるから。
学校からもらった、依頼のリストを確認する。
「ったく……」
少し呆れて声が漏れる。
受理されている依頼は、学校周辺の弱い魔物退治が多い。
良く言えば力試しもできる、実戦経験も積める、だが……。
悪いとは言わないがどいつもこいつもそればっかりってのはなぁ。
雑用系統の仕事は大量に余っているな。
逆に難易度の高そうな依頼は見当たらない。
こっちは任務として、人の編成から細かく取り組まれるんだろうか。
自分にできそうなものを、リストアップしていると、ミライが横から覗き込んでくる。
近すぎる女性にギョッと身を引いてしまう。
「これ全部やるの?多すぎない?それに地味なやつばっかだね。学校も先生も評価してくんないよ?」
「地味だろうが必要なことは多いぞ。それに俺はここの評価なんて必要ないからいいんだよ」
「ふーん、……ねぇついて行っていい?魔法少しであんなに戦えるなんて、すごいことやってるんだよね!特訓とか!私に教えて?」
「そんなものはない。それに君は、属性を使い分けて戦える。十分すごいじゃないか」
「それだけでは、認めてもらえないの!」
ちょっと語気が荒くなる。
彼女は評価を求めている、兄貴がそんなこと言っていたな。
俺の返答は少々地雷だったか。
「あ……、ごめん!まぁとにかく今日はついて行くからね!」
出発前、学校から出る途中、知らない連中から声を掛けられる。
一応、この学校の生徒らしいのが制服から分かる。
「おお!お前だよな、大量の雑用やってくれてんのは!」
「感謝してるぜー。先生にもうるさく言われなくなるし、修理なんてダセー事やらなくて済むからな。」
「あー、早く魔物倒してー。魔法があれば余裕だろうに何で俺達まだダメなんだよ!」
どうやら、本来この仕事が実力の適正にある連中か。
わいわい好き放題言った後、こっちの事は気にもかけず行ってしまった。
結局今日修理と補修をした物は、砦の様に町を取り囲む外壁。
水漏れしていた水路。
民家の屋根。
等々。
「ハツガ君、待って~疲れた~」
「あと一件だから頑張れって。それとも、もう帰るか?」
頑張る~という声を背に、一軒の定食屋の前で足を止める。
「あねもね食堂」ここが最後だな。
追いついてきたミライを確認しつつ、
「ここでの報酬に加えて一食もらえるんだが、お前はどうする?」
「えー、おしゃれじゃない。ハツガ君、デートに誘うならもっと……」
「デートじゃないからな。それなら、いらないって事で……」
「わあああ、ごめんごめん。いただきます」
中に入りながら、店主に声を掛ける。
「ジョンさん、水回りの修理に来ましたよ」
店の規模は大きくはないが、利用客は多いと聞いた気もする。
今日は人が、二、三人だけで修理のために、入れてないらしい。
あとは、手伝いをしている小さい娘さん、アニーちゃんだったかな。
俺は、魔力の効果が薄くなった水が流れてくる管を確認する。
「ハツガ君、すまないね!こないだの屋根に続いて」
「いいですよ、ここでまた食事できるんですから、むしろ得ですよ。ミライ、ここの水止めといて。」
「え~、もう限界なんだけどなぁ」
ぶつぶつ文句を言うミライに手伝ってもらいつつ、管を取り換えてしまう。
コーティング、長期の性能維持に劣化防止、魔力を注いでっと。
性能付加を終え、確認作業を行って全部終えた頃には、お客さんはみんな帰ってしまっていた。
「二人ともありがとな!席で待っててくれ」
とジョンさんが料理を作ってくれているので、もうだめ~と、ふらふらのミライと席に着く。
彼女は倒れ込むように椅子に座り、
「もう、街一周くらいしたよね。私今日分かったけど、ハツガ君バカでしょ」
「ハッハッハ、お前がいたお陰で効率が良かったんだ。ありがとな」
「も~、ずるいよ……笑顔でそんなこと言うとかさぁ。でも何で、来たばかりなのに街の整備なんてやってんの?」
「まぁ、……人助けは趣味みたいなもんだ。で、衣食住整えば人は集まるし、人が新しい事に取り組みやすくなる。それに俺はこの街を知れる、趣味と実益両方あるからってのが答えかな」
「へ~。武器ばっかり持ってたから、戦うだけかと思ってた」
ミライは目を丸くする。
考えなしの猪武者か何かかと思われていたら、少々ショックだ。
「そういえば、ハツガ君とサクラさんの関係って……」
ミライが話しているガシャーンと何かが割れる音が聞こえた。
話を中断し、音がした方向を見ると、アニーちゃんが運んで片付けていた空の食器を落としてしまったみたいだ。
大丈夫かー!とジョンさんの声に、任せてください!と答える。
動揺して、どうしたらいいかと不安げにおろおろしている女の子に視線の高さを合わせ、
「大丈夫、大丈夫。これくらいなら、お兄さん直せるからね」
と、怖い顔にならない様に細心の注意を払い、食器の破片を拾って彼女に見せる。
「3、2、1、ハイ!」
娯楽の見世物みたいなテンションで、食器に地属性の魔力を流し、一瞬で直して見せる。
おー、と大人しそうだったアニーも目を輝かせ、喜んでくれた。
「……あの、……ありがとぅ……ございます」
恥ずかしそうにしながらお礼を言って、彼女は行ってしまった。
席に戻ると、ミライは感心したように、、
「ハツガ君が早すぎて動けなかったよ。困った人のためなら一目散。それとも女の子だったから?」
アホか、と呆れてると、ジョンさんがいいにおいのする、食事を持って来てくれた。
「はい!おまたせ。二人とも今日はありがとう!それにハツガ君、食器もありがとう!」
高いテンションでのお礼に、二人で笑いながら応え、食事を頂くことにした。
焼いた肉に香ばしいたれのにおいが食欲をそそる、白米に合いそうだ。
空腹もあり、一心不乱に食べていると、
「そうだ、ハツガ君は旅をしているんだろ?お客さんの間で噂になってたんだけど、最近、近くの村でおかしな事が起こったらしいんだ」
真剣な顔のジョンさんの方を、箸を止めて向く。
ミライも不思議な雰囲気を感じ取って、食事を中断する。
ジョンさんの話が始まる。
一人の商人がその村を訪れたらしいんだ。
どこから来たかと聞くと知らない国の名前を出すんだ。
商人と自称してるものの、商売道具も売り物も持ってなくてね。
商品はどうするのかと尋ねると、ここで手に入れた物を、他の場所で売ると答えた。
すると、次の日から村の男性が一人、また一人と消えていった。
死体は見つからなかったが、もちろん疑われたのは例の商人だ。
だが、彼の荷物は特に増えてはいなかった・・・光の入ったビンを除いて。
村の男を知らないか?と尋ねると、
「ああ、微妙だったけど、ノルマがあるから男は商品にさせてもらったよ」
と、ビンを嬉しそうに見せびらかした。
それに怒った一人の村人が、商人に掴みかかる。
だが、手は商人を通り抜け、空を切る。
触れないんだ。
それに驚いた村人達は家族と逃げようとしたが、女性は年齢関係なく立ち上がれなくなっていた。
そして男達は光にされた。
この光景を見て逃げ出した旅人を除いてね。
「た、ただの怪談だよね?」
と、ミライが怯えながら一言漏らす。
「まぁ、噂話だね!ただ、目撃した旅人本人からこの話を聞いたってお客さんもいてね。ハツガ君は旅先でこんな感じの話、聞いたことないかい?」
「いや、聞いたことは無いですけど……」
人を光に変える、人が触れない、人を操れる?
人は商品、逃げ出した旅人、この町シュレ・アルクスで噂。
嫌な予感がする。
眉間にしわを寄せ考えこんでいると、
「……ぁ、あの、お、お礼」
とアニーちゃんが卵焼きとおにぎりを俺に持って来てくれた。
君が作った?と尋ねると頷き、また恥ずかしそうにいなくなってしまった。
「うお!娘が成長している!っと、食事の途中に変な話してごめんよ!ハツガ君が頼りになるからつい」
「いえ、興味深かったです。俺も調べてみます」
食事を終え、ジョンさんとアニーちゃんに礼を述べ、帰路につく。
満点の星空が見える夜になっていた。
なぜかミライがべっとりしがみつき、離してくれない。
「帰り道おくっでえええええぇぇぇぇ」
「気持ち悪い声出さなくても送るって。ビビりすぎだろ」
「無理な物は無理なの!」
この様子だと、真面目な話し合いもできないか。
明日、兄貴かサクラにも聞いてみよう。
自分で見に行って調査するのもありか。
だが、俺がこの村を調査しに行くことは叶わなかった。
美しく輝く星が現れる明け方の時間帯、シュレ・アルクスの町に激しい爆発音が届く。
それは、火の柱が出現し、近くの村を消滅させた音だった。
ミライ
・明るい
・明るい茶髪
・四属性を扱える
・劣等感が強い




