再会リサシテイション
~シュレ・アルクス~
「ここが、シュレ・アルクス。魔法を扱う学校を中心とした町ですよ」
サクラの声を聞きつつ、大きな門を見上げる。
石か、石造りの街並みか。
故郷も途中の村も木を中心としていた建造物が多く、この町の風景は新鮮だ。
門の前では、人が並んでおり二人の門番らしき人が書類の確認と、魔法で持ち物検査を行っていた。
今はそんなに多くないが、人が一気に来れば大変そうだなと、ぼんやり眺めていると、俺とサクラの順番まで周ってきていた。
戦闘向けの黒い……よく見るとわずかに緑色が入った制服を着ている男女一人ずつが、サクラを見ると顔見知りのように挨拶をし、女性の門番さんが話かけてきた。
「あ、サクラさん、お帰りなさい。荷物に書類問題なしと。帰省はどうでしたか?」
「うーん、いろいろありすぎて、とにかくいろいろありましたね。もちろん、故郷はいいものでしたよ。あ、彼は私の通行許可証を適用してください、連れなので」
二人がすごい勢いで俺を見る。
女性は口に手を当て驚きながらにやついて、男性は……これは睨んでるな、間違いなく。
愛想笑いを浮かべながら、ペコペコ頭を下げ、荷物と槍、刀を渡す。
女性は物珍しそうに、
「ひゃー、武器ですか、珍しいですねー。あと、ここに名前のサインお願いします。あなたが問題を起こした場合、サクラさんと連帯責任になりますからね」
「サクラさんに迷惑を掛けたら、お前分かってるよな?」
片やにこやかに片や初対面とは思えないくらい、恐ろしい形相で俺の対応をしてくれた。
どっと疲れを感じながら門を抜け街を歩く。
サクラが微笑みながら説明してくれる。
「フフッ、参っているみたいですね。でも学校の生徒として身分が証明されている私と一緒だったから一人で初めて来る方々よりは、手早く終わっているんですよ?」
「確かに、助かった。俺一人だと通れたか怪しいな。武器持ってるし」
「時期が悪ければそうだったかもしれませんね。ああ、門の二人は学校の生徒でもあるんですよ」
へー、生徒って大変なんだな。
学ぶだけではなく、仕事まであって。
「学校も歴史が長いものではないんですよ。だから、戦えるのは若い人が多くて、そのまま軍人も兼任しているみたいになっているんです」
「魔法で戦う教育の効果がでてきたのは、そんなに昔ではないから、戦闘を行える人材の年齢層が低いって感じ?」
そうですねとサクラが頷きながら続ける。
「ここに来た時私も驚いたんですけど、魔法を扱うのって女性の方が適正があるらしいんですよ。威力や扱える量とか。スザクさんやあなたが身近にいた私としては、世界がひっくり返ったような衝撃でしたね。あ、スザクさんに今回の魔物のこと、まとめて提出しようと思うんで作業してから会いに行こうと思うんですよ。ちょっと時間かかりそうなんですけど、あなたはどうします?」
うーん。
頭をかきながら考える。
サクラが作業やっているのを横で待ってるのは邪魔になるだろうし、街に興味がある。
「街を見て周ってみるよ」
「では、十八時に今から向かう学校の門で待ってますね。そこで解散しましょう。一人で大丈夫ですか?迷子とか」
見知らぬ大きい街だ。
それに、攻められる事を想定されているのか、街並みは少々複雑に見える。
迷子という言葉にいつもなら冗談交じりだと笑いそうになるが、今回はサクラも真剣だろうな。
……大丈夫だろう人も多いし聞けば分かるか。
見栄交じりの大丈夫という返事を見抜かれているのか、不安そうな顔のサクラと別れて、俺は好奇心のまま見知らぬ街を軽い足取りで歩きだす。
「兄ちゃん!こっちも頼む!」
「あいよ!」
今日この街に来たばかりの俺がなぜか、建物やら壁やら道具やらの補修と修理をしていた。
なぜかと言うのは間違いか、きっかけは一軒のパン屋の壁が壊れているのを地属性の魔法を使い直したことだった。
気のいい店主のおじいさんは、お礼にと大量のパンをくれながら、
「本当に助かったよお兄さん。学校の生徒さんは、こういった小さい事に魔法を使いたがらなくてね。スザク君達がいれば話は別なんだが」
「スザク?スザク・ロードナイトですか?」
「そうそう。やっぱりあの聡明な若者は名が知れ渡ってるのか。うんうん。彼は、あの学校の教師ながら一流の戦士なだけではなく、私達の生活も気にかけてくれるんだよ、今日は出かけているらしいが。それに比べて学校の人達は、戦いを重視する者ばかりでねぇ」
学生さん達は戦うために魔法を学んでいるから、仕方ないとは思うが、やってくれる人がいるとなるとそう考えても仕方ないか。
おじいさんの話を聞いていると向かいの植物を売っているおじさんが声を掛けてきた。
「すまん、兄ちゃん。うちの水瓶も直してくれないか?水に浸けとかないとダメになる薬草があるんだ。でかいのを直さないと場所が足らなくてさ。貴重な薬草を報酬に!どうだい?」
その程度ならいいかと思い、パン屋に別れを告げ次の作業をこなしていると、次々に頼まれ果てには、頼まれずともついでに気になったところを適当に直しながら、今に至る。
調子に乗ってやりすぎたか、魔力が枯れそう。
パンに薬草、衣類に小物等々、もらった物をまとめていると、気配も何も感じないまま、女性に声を掛けられる。
「さっきから見ていたが、君は親切心を利用されるただのバカなのかい?それともこの町の生活で、魔法の恩恵を受けにくい一般の方々の英雄気取りなのかい?」
ハッと顔を上げると、設計図を用いて作られたかの様な比類なき美しさを持つ、金髪の女性がこちらを見ていた。
年上にも年下にも見える不思議な雰囲気を持っている。
生活感のある街の人や、制服の学生とも違った、肩を出し、赤いシンプルなドレスを身にまとっている。
しばらく声も出なかったが、彼女の胸部が絶壁であることを確認し我を取り戻す。
「何の話だ?」
「質問に質問を返すなんて、退屈な人」
見下すように首を傾けつまらなそうな顔を見せる。
マイペースな女性だ。
確認くらいさせてくれよ。
……確かバカだのヒーローだの……。
「バカな上に、ヒーローになると己で誓った男だ。心身共に人を越えないと他人を救う余裕はない」
先程までの退屈そうな表情とは打って変わり、目を大きく開き、嬉しそうに顔全体での笑顔になった。
「なるほどなぁ。人の助けをするのは、ヴェルガに頼まれただけなんて、無価値の極みな解答を持っている人じゃなく、君自身面白い男だ。いいなぁ、アイツも面白い男に目を付けたなぁ」
わずかな言葉の違いはあるものの、女神である師匠の名前と交わした約束について、急に指摘され動揺で言葉がでなくなる。
肯定も否定も問いかけもどの言葉も間違いな気がしてしまい、無言で彼女に詰め寄る。
あなたはいったい何者だ……。
「君の情熱的なアプローチも嫌いではないが、まだまだ足りないなぁ。あと、どこの誰か分からない女性ににじり寄るなんて、誤解を招くよ?ほら、後ろ後ろ」
「リーミエ様あああああああ!!!大丈夫ですかああああああああ!!!!!!!」
派手な大声が聞こえたので荷物を置き、振り返る。
かなりの距離を一歩で跳躍しながら、飛ぶかの如く、勢いよくこちらへ向かって来る、少し派手な制服の女性が見える。
風属性か。
「風刃!」
二発飛んで来る風刃を背中に背負った、魔法を切り裂く赤槍、妖槍マキリ・レプリカで薙ぎ払いながら、リーミエ様と呼ばれた女性に叫ぶ。
「誤解を解いてくださいよ!」
「いやぁ、君の実力も見たいしね。殺さないよう、怪我させないよう、せっかく直した街を傷つけないよう頑張って!英雄!」
向こうの力加減と心境が分からないのに注文が多すぎる!サクラに迷惑がかかるから、穏便に済ませたい。
「そこの君!俺は彼女に何もしていないしするつもりはない!」
「街の皆さん!家の中に避難をお願いします!スザクさんがいない今、リーミエ様は私が守る!火球!」
属性を使い分けるのか!そんなヤツがいるとはな。
話も聞かずに、こちらに向かいながら、複数の火球を飛ばしてくる。
数が多い……。刀に持ち替え、地の魔力を込めた手で研ぐように刃をなでる。
「仮初の地の刃」
地属性を付加し、素早く五振り!五つの線の煌めきが、複数の火を断ち斬る!
「ふふふ、一般人にしてはやるね!でも!これで捕獲よ、観念してよね!水泡」
勢いを保ったまま突っ込んできた彼女は、巨大な水泡をさらに飛ばしてくる!三属性目!?
パァン!と高所からの水に落ちた時の着水音のような派手な音と共に、俺は水泡に飲まれてしまう。
攻撃を仕掛けてきた彼女は浮かれに浮かれて、スキップでもやりそうなぐらい嬉しそうに近づいて来るのが見える。
力が抜けて泡の中で、浮かんでいる俺を見て、はしゃいでいる。
「やった!やった!流石に武器でも魔法の泡は貫けない!私の力でついにやり遂げた!リーミエ様を襲う悪人の捕獲なんて、みんな私を認めて……」
油断させて近づいて来たところを、狙おうと思っていたが気の毒になってきた……。
だが、悪人と扱わればサクラに迷惑が掛かるのは分かり切っているため、申し訳ないが突破させてもらおうか!
背中の槍を掴み、真上に突き上げ、水泡を突き破り破裂する音と共に飛び出す!
振り返った驚きの表情の彼女と目が合う。
片手を掴み瞬時に組み伏せる。
「ぐ、ぐ、う、嘘ぉ……。私どうなっちゃうの……」
半泣きの彼女に、できるだけ優しく、説得を試みる。
「俺はあの人……っていないな。とにかく今この町で誰かに危害を加えるつもりもないし、君をどうこうするつもりもない。落ち着いて判断してくれるなら、すぐに解放する」
「スザクさん……」
何かを見つけたかの様な彼女の呟きが聞こえた瞬間、刀で首を守る!
首を捻り、相手を確認する間も惜しんで必殺の一太刀を防御し、相手との距離を取るために全力で地を蹴る。
「何をやっているんですか、見知らぬ旅のお方。僕の生徒に」
向けられているのは間違いなく殺意。
だが、向かいあって相手の顔を確認し俺に生まれた感情は喜びのみ。
変わらない長身、変わらない整った顔立ち、変わらない蒼い瞳。
どこの国の騎士だ、と言いたくなる白い装いは新鮮だ。
ヤツへ俺という信じがたい存在を認識してもらうための言葉を。
「久しぶりだな……兄貴!」




