クマのパンツと牛の涙 6
「あぁ。0だ。」
「マジか。魔法使えないのか……。」
僕はなんのためにこの世界に来たのだろう。
パンツ泥棒に間違えられ、魔法も使えない。悲しいやつだ。ナンスの気持ちがとても分かる。
そりゃあ、マジルとナンスが衝突するのも当たり前の話だ。
くぅ。まさか0とは。
「ちょっと誤解はしてほしくないんだけど、今の技術なら多少なり魔法は使えるよ。」
その一言がゼノンが僕の頭の中の雲を退けさせた。
「本当か?」
身を乗り出して尋ねた。
「うん。ちょっと待ってね。」
そう言いながら、冷蔵庫の方へ行った。冷蔵庫の中を何か漁っている。
そして、そのまま帰って来た。
多くの飲み物らしきものが入ったダンボールを携えて。
机の上にそのダンボールを置いた。
ドンッ。
「やっぱ重かったなぁ。んとね、これは麦茶。んと、これはオレンジジュース。そして、これが紅茶で。これはコーラだね。あとは諸々と……。」
ゼノンはダンボールから一つずつ飲み物らしきものを取り出しながら、それらの詳細を説明した。
「で、それらがどうした?」
僕はあまりにも当然のことを言われて当惑した。
しかし、あちら側も同じ反応らしい。
「えぇえぇ!?もしかして、麦茶とかオレンジジュースを知っているの?嘘でしょ!?魔法のことは知らないのに!?」
「当たり前だろ。だったら、お前らいつも何飲んでんだよ」
僕は笑いながらそういった。
ゼノンは驚いた顔つきで喋り始めた。
「水に決まっているだろ。普通、水しか飲めれないぞ。条約で、水に何かを加えたりするのは禁じられているんだぜ。というか技術的にも難しいんだ。てか、そもそも、空、お前はなんで知っているんだ?」
「知っているもんは知っているんだ。説明なんかできない。で、これらが魔法となんの関係があるんだ?」
ゼノンは納得のいかない顔をしている。隣の花音は相変わらず、僕の顔を見ているし。
「うん。なんで知っているかはこの際、まぁ、どうでもいいや。これはね、マキュールと呼ばれる魔法因子増進栄養剤なんだ。これを飲むと、一時的に魔法因子の濃度が高まるんだ。さすがにマジルがこれを飲むことは禁じられてるけどね。」
「へぇ。すごいなぁ。これで僕もやっと、魔法が使えるようになるのか……。」
先ほど現れた躍動感が再び帰って来た。自分の顔が生き生きしているのが、自分でもわかる。
「まぁ、どのマキュールが空と適応しているのか確認しないとね。」
僕は目をギラギラとしながら、早く飲ませてくれという勢いで前のめりになった。
そのせいで、お尻が椅子から離れてしまい、ずっこけてしまった。
「いってぇ。」
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それから、いろんな飲み物を飲まされた。
と言っても、マキュールは7種類しかないのだが。
「うん。どれもダメだったね!諦めよう。」
ゼノンはそう元気よく頷いた。
マキュール7種類とも残念ながら、僕には不適合だったようだ。
「ハァァ。確かに嫌な予感はしてたんだよね。しょうがないか。」
「おっ。さっきと違って入れ替わりが早いね。」
ゼノンは驚いているようだ。
確かに、魔法を使えないと改めて思い知らされて、確かに傷ついた。しかし、そんなことででやわになるほど弱い僕ではない。他にもこの世界には面白いことがあるはずだ。
と、思うほど僕も良い奴でもなければ、物分かりのいい奴でもない。
まだ、道は残されているはずだ。
さっきから気になっているものがある。
「なぁ、ゼノン。さっきの冷蔵庫の隣にある冷蔵庫か何が入ってんだ?あそこにもなんかあるんじゃないんか?」
僕はさりげなく聞いた。
「あぁ。あれ?あれは、マキュールが入っているんだけど、国家機密だから、これ以上は言えないし、見せれないな。」
素っ気なく返された。
「そんなことより、空、ここの施設とかを紹介してあげるよ。面白いものも何個かあるはずだよ。」
ゼノンは話を進めた。
「マジか!?それは楽しみだ。」
そのまま冷蔵庫の中身のことは即座に忘れたかのように僕は立った。
あれ?花音は?
とふと、思いながらも、ゼノンに引きつられて、この部屋から出て行った。
ガチャっ。
2つ目の冷蔵庫は、そんな僕の背中を静かに見守っていた。