クマのパンツと牛の涙 1
目を開いたら、木々に囲まれていることに気がついた。
あまりにも薄暗かった。動物の声も何一つしない。
あまりにも不気味な空間だ。
僕は少々怖かったが、ここにいても何もならないと思い、足を進めた。
「なんだ、ここは。」
そうつぶやくことぐらいしか、僕にはできなかったのだ。
ただ目の前には、木。木。木。木しかなかった。
頭がぼんやりとしつつも、ひたすら歩き続けた。
「マジでなんなんだ。意味がわからない。」
今の状況のおかげで、まともな思考回路を組め立てることができない。
夢を見ているようだ。
しかも、ここに来る前の記憶を呼びさまそうにも頭が痛くなり、思い出すことができない。
「あああ。あああ。意味がわからない。」
「あああ。あああ。」
何度も同じ言葉を繰り返した。
んー。僕はヤクザにでもこの森に捨てられたのであろうか。
でも、ヤクザになんか悪いことをした記憶もないし。
そもそも、僕は基本、目をつけられないように生きてきたから、何もないはずなんだが。
ここはどこだろうなぁ。
疑心暗鬼のまま、足を進めた。
5分ぐらい歩いた時、背後から何かを感じた。
後ろをさりげなく確認した瞬間、
サッ。
風が僕の頰を横切った。
いや、正確に言うと、矢が横切ったのだ。
「ハッ!?」
僕は矢の刺さった木を見つめた。
そして、再び、恐る恐る後ろに振り返った。
「ん。」
唾を飲み込んだ。
僕の瞳には、次の矢を放とうとする女の子が立っている。
髪の毛は黄色く、身長の低い女の子が。
「ちょま。ちょっと待って!!」
僕は必死に叫んだ。
しかし、彼女は僕の必死の叫び声に応答する気もなく、矢を放った。
「ヒィ。」
僕は必死に避けた。そして、走った。
走るのは苦手だが、この時の速度はオリンピック選手にも勝るのではないかと思うぐらい
速く走った。火事場の馬鹿力というものだろうか。
「やめろ!マジでやめろ!!僕は変なやつじゃないんだ!!」
必死に叫んだ。
「とうとう白状したな。変なやつじゃないと自ら言うとは・・・。」
初めて彼女は応答した。
加えて、僕の人生で最速の脚は、一瞬にして彼女の脚に抜かされ、僕の目の前に彼女が立った。
殺気を感じた。
「いや、本当に変なやつじゃないんだ。」
僕は彼女を凝視した。そして見つめあった。
「本当に違うんだ。ホ・ン・ト・ウに。」
必死に弁明するも、容赦なしに再び新たな矢が飛んできた。
しかも僕の心臓めがけて。
矢の勢いが遅く感じた。
「あ、終わった・・・。」
僕はそう悟り、そのままバサっと倒れた。
矢が刺さる前に。
そして、気を失った。