表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

第四話  教えて魔王様①



 大々的な歓迎を受けた翌朝、ショウマは客間まで迎えに来た魔王に連れられて、玉座の間までやってきていた。


 この場所で、これからショウマと四天王たちの顔見せが予定されていた。


「相変わらず、ここは真っ暗だな」


「待っていろ。すぐに灯りをつける」


 魔王が指を鳴らすと、青い炎が部屋を明るく照らし出す。

 以前、この場所で魔王と戦ったときよりもずっと明るい。どうやら光量は調節が可能のようで、あのときのやや薄暗い感じは最終戦の演出だったらしい。


「さて、四天王にはすでに招集をかけているが、昨日の今日なのでな、少しばかり遅れてくるだろう。しばし待つがよい」


「それは逆に好都合だよ」


 玉座に腰掛けた魔王に対し、いつぞやの対決のように向かい合う。


「俺はまだ、お前の口からあのときの答えを聞いていないぞ」


「と言うと?」


「とぼけるな。どうしてお前が前回の記憶を持ってるのかってことだよ。それを教えてもらわなきゃ、本当の意味でお前の仲間にはなれない」


「当然だな」


 魔王もここまで来て隠すつもりはないらしい。周りに誰もいないことを一応確認すると、改めてあのときの質問に答えた。


「我がどうして前回、つまり君と敵対していたときの記憶を持っているのかと言えば、それこそが邪神めが我に与えたチートに他ならないからだ」


「チート?」


「そうだ。勇者ショウマよ、君が死神の右腕を手に入れたように、我もまた一度覚えたことは決して忘れない記憶力を手に入れたのだ。邪神名付けて曰く、『全の記憶メモリアル』。たとえ一度死のうとも、時が巻き戻り、世界が移ろいて人々の記憶の中からその日々がなかったことにされても、我だけはその記憶を失うことはないのだよ」


「おい。それってつまり」


「――人生の終わりはトラックのブレーキ音だった」


 今は魔王と呼ばれている青年は、万感の想いをこめて始まりの嘆きを口にした。


「そうだ。オレも君と同じく、かつて邪神によって殺され、この異世界へと召喚された日本人だ」


「……マジかよ」


 ショウマは戦慄をもって、魔王の真実を受け止めた。


 魔王が元日本人の転生者。言われてみれば、なるほど色々なことに納得できる。だが同時に恐れるべきは、そのキャラクターの仕上がりぶりである。


「中身が日本人と言うことは、これまでの言動はすべて魔王のロールプレイだということに。なんてこった。尊敬するレベルの中二病だぜ」


「おい、人を病気扱いするのはやめろ。……やめろよ」


「いやだって、セツナ・エルゴスム・ザ・ゼロルシファーさん」


「オレをその名前で呼ぶんじゃねえ!」


 魔王セツナさんが顔を真っ赤にして吼える。魔王城の外で雷鳴が轟き、大地が震撼する。


「というより、よく覚えていたな。クィリアが一度ぽろりと零しただけの名前だろうに」


「そりゃ忘れられないっすよ。なんたって、セツナ・エルゴスム・ザ・ゼロルシファーなんですから」


「どういう意味だ!?」


「セツナwwエルゴスムwwゼロルシファーww」


「草を生やすな!」


「冗談だって。いや、いい名前だと思うよ? 特にゼロルシファーの前に『ザ』ってつくところがポイント高いよな。意味がわからねぇけど。まったく付いてる意味がわからねぇけども」


「やめろぉおおおお! それ以上人の黒歴史を弄るなぁああああ!」


「ところで『終焉を囁く罪の獣』さん」


「なんだ?」


 やはりそこだけ誇らしげになる魔王の感性が分からないショウマだった。


 頭を抱えて床で悶え苦しんでいた魔王は、玉座に座り直すと、こほん、と咳払いをしてから話を戻した。


「とにかく、その名前で我を呼ぶな。それと、この口調は別にすべてがすべてキャラ付けというわけではない。多くの配下を従える一人の王として、自然と身に付いていったものだ。今となっては、先のやりとりの方が懐かしく思えるくらいだよ」


 遠い昔を懐かしむような魔王の顔を見て、ショウマはやはりそうなのだと確信した。


「お前は、勇者として俺が召喚されたように、魔王として最近この世界に召喚されたってわけじゃないんだな?」


「そうだ。我がこの世界に召喚されたのは、今から三百年以上も前のことになる。そのとき我がなんと呼ばれていたのか、薄々察しているのではないか?」


 ショウマは頷いた。


 先ほど動揺した魔王の口からこぼれ落ちたクィリアという少女の名前。

 そして前回の魔王の死後、そのクィリアが魔王に向けて囁いた呼び名。


「――勇者」


 さらに魔王が元日本人だということを加味すれば、辿り着く真実はそれしかない。


「魔王。お前は、俺の先代として伝説に語られている、あの勇者なんだろ?」


「如何にも。我はかつて勇者としてこの世界に召喚され、人々の希望を背負って当時の魔王と戦った。その果てに神の真実を知り、今はこうして魔王として君臨している」


「神の真実……」


「そうだな、少しばかり昔話をしようか。あれはまだ、我がなにも知らなかった頃のことだ」


 魔王は静かに語り始めた。


 遠い遠い昔話。伝説に語られる勇者の、本当の真実を。






       ◇◆◇





「ごめんなさい。間違えて君を殺してしまいました」


 白い世界で彼に土下座をした少年は、自らを神と名乗った。


 神は自分のミスで殺してしまったお詫びとして、特典をつけて異世界に新生させてくれるという。


 彼はこれを大いに喜んだ。退屈な日々に絶望していた彼にとって、神の提案は願ったり叶ったりであった。最強の魔法使いとして異世界でバッタバッタと敵を薙ぎ払い、可愛い女の子にキャーキャー言われるような妄想が現実になることこそを彼は待ち望んでいたのである。


 ゆえに望んだ特典は、魔法使いとして最強の種族となることと、すべての魔法を覚えられる天才的な頭脳だった。さらに自分の醜い容姿にコンプレックスを抱いていた彼は、新しい姿形も求めた。


 神はこの申し出を良しとし、彼を美貌の魔人と変えて異世界に送り出した。


 そうして新しい姿を得て、彼は異世界に新生を果たした。なお、セツナ・エルゴスム・ザ・ゼロルシファーは、そのとき彼が新しく自分につけた名前である。


 セツナは時のレオニオス王に乞われ、自分を召喚した姫、聖女クィリアと協力し、魔王として人々を苦しめていた毒竜フルゾールを討伐すべく旅に出た。


 旅の道中、多くの苦難に襲われながらも、激戦の末にセツナは魔王フルゾールを倒すことに成功した。人々は感謝し、セツナを勇者と讃えた。


 その後、勇者セツナは聖女クィリアと正式に結婚し、彼女の祖国であるレオニオス王国で数年を平穏に暮らした。まさに彼がずっと望んでいた幸せな世界が、そこにはあったのだ。自分でそんな世界を勝ち取ったのだと、彼は誇っていた。


 そう、あのときまでは、本当にそう思っていたのだ。


「事の起こりは、魔王フルゾールを倒して三年ほど経ったある日のことだった。王城で周りにちやほやされながら豪勢な暮らしを楽しんでいた我は、暇をもてあまして城下町まで足を伸ばした。そこで珍しい家畜の競売が行われていると小耳に挟み、退屈しのぎにその競売場に向かったのだ」


「家畜の競売?」


「ああ。家畜という名の、獣人たちの競売だ」


「獣人ってモフモフの!?」


「そう、モフモフのだ」


 ショウマと魔王は頷き合い、分かり合う。日本人のDNAが響き合う。


「当然、我は怒った。王のお膝元でなにをしているのだと怒鳴り込んだ。だが競売の責任者からは、思いも寄らなかった返答を聞いたのだ。これは王が認可している正式なものである、とな」


「奴隷を王様が認可してたのか?」


「いいや、奴隷はレオニオスでは禁止されていた。だが獣人や亜人たちは別なのだという。彼らは人間ではなく人に少しだけ似た家畜なのだと、あの王はほざきよったのだ」


 そのときの怒りを思い出したのか、魔王は握りしめた拳を玉座の肘おきに叩きおろした。


「情けないことに、そこで我は初めて知ったのだ。レオニオス王国で、いや、大陸で獣人や亜人たちがどのような立場にあるのかを。そして、ハーフエルフであるクィリアが王家の中でどのように扱われているかを、な」


 魔王は横目で玉座の間の入り口に視線を向けた。


 そこではいつの間にか現れていた『空の魔女』クィリア・レオニオスが、黙って魔王の話に耳を傾けていた。






 勇者セツナの伴侶となったクィリア・レオニオスは、人である父とエルフである母、つまり国王と彼が気まぐれで囲っていた亜人の間に生まれた姫だった。そのような生まれであるがゆえに、クィリアはレオニオス王家にあっていないものとして扱われていた。小さく薄暗い塔の中で生まれ育てられ、そのまま死んでいくことを運命づけられていた。


 それを神は哀れに思ったのか、彼女を通じて救世主召喚の託宣を下した。


 これを受けて、レオニオス王は仕方なくクィリアを塔から出し、魔王フルゾールを倒すことのできる救世主の伴侶となることを許した。その時代、たとえ王であっても神の言葉は絶対であった。


 そうして勇者セツナと共に魔王退治に赴くことで自由となり、勇者を手助けした名誉をもって、ようやくレオニオス王家の一員として正式に認められたクィリアは、しかし亜人蔑視の世界にあっては厳しく辛い立場に立たされたままだった。


 元々、亜人や獣人たちは魔王フルゾールの味方をしていたために、人々から忌み嫌われていた……わけではない。


 逆なのだ。人々に元から忌み嫌われていたがゆえに、彼ないし彼女らは、魔王フルゾールの近くでしか暮らすことを許されなかった。


 毒の竜である魔王フルゾールの近くでは、森は枯れ果て、大地はやせ細り、運河は汚染されていた。人間たちが近寄らないその辛く苦しい場所だけが、獣人や亜人たちが人間に襲われることなく平和に暮らしていける環境だったのだ。


 だが人間たちは新たな土地と新たな労働力を欲し、深い眠りに落ちていた毒竜の討伐を願った。


 そして勇者セツナは、彼らの思惑どおりに魔王フルゾールを討伐してしまった。

 

 毒の庇護を失った獣人たちは人間に狩られ、競売にかけられ、その哀れな姿を見て人間たちは嗤う。そうして大陸中の国家で人間至上主義は強まっていった。

 

 つまり獣人や亜人たちが物のように扱われているのも、クィリアが辛い立場に追いやられてしまっているのも、すべては勇者セツナが原因だった。


「だから我は世の風潮を変えようとした。王に訴え、民に訴え、世界に訴えかけた」


 変えてしまったものの責任を果たそうとした魔王の考えは、少しずつ、少しずつ、人々に受け入れられていった。偉大なる勇者様のお言葉ならば、と、亜人たちとの共存に理解を示す者が現れた。


「我は傲慢なレオニオス王を廃し、自ら玉座に座った。そして寿命の存在しない魔人としての立場を有効活用し、永遠の王としてついに人間と亜人たちの共存を成し遂げたのだ」


「待ってくれ。どう見たって、今のこの世の中が人間と亜人が共存してるようには見えないんだけど」


「そうだ。つまり、そういうことだ」


 魔王は先ほどよりも強い怒りを憎しみを声に宿し、天井の、その先にいるものをにらみつけた。


「人間と亜人とが共存し、共に平和を築き上げていくことを高らかに誓ったその日、なんの前触れもなく空から無数の隕石が降ってきた」


「それって」


 知っている。ショウマは知っている。その美しく絶望的な空をこの目で実際に見ている。


「気がつけば、我はこの世界に召喚されたその日に戻っていた」


「同じだ。俺のときと」


「最初は訳が分からなかったよ。死んだら回帰する、とは聞いていなかったからな。我は混乱し、困惑し、それでも勇者として再び立ち上がった。理解しがたいこの現象を、せめて前向きに捉えようと、前回での失敗を活かしてよりよい世界を作ろうとした。

 魔王フルゾールを倒せば亜人たちの弾圧が強めるとわかっていたからな。先にレオニオス王を誅し、亜人たちが受け入れられる場所を作ってから、その上で魔王フルゾールを倒すことにした。すると今度は前よりもずっと早く、人間たちと亜人たちの共存は成った。そして、世界は滅んだ」


 そして再び勇者は始まりの時へと回帰する。


「何度も何度も繰り返した。なにが悪いのかを必死に考えながら、ひとつひとつの可能性をつぶしていった。けれど、何度繰り返しても唐突な終わりが必ずやってくる。なまじ忘れられないだけに、地獄のような日々だった」


 ショウマには想像することしかできないけれど、それでもそれが途方もない労苦だということだけは理解できる。


 積み上げてきたものがすべて壊され、消えていく。そして、その理由は分からないというのだ。それは紛れもない地獄だろう。


「そうして、すべての可能性をつぶして、それでも訪れない続きに我は疲れ果てていた。繰り返した時間だけで五百年は超えていただろうか。自分がなぜこうまでしてがんばっているのか、忘れていないはずなのにわからなくなった頃、我の目の前に神は再び姿を現した。そして言ったのだ。『全の記憶メモリアル』がなくとも決して忘れないであろう一言を」





 

 繰り返す日々に絶望していた勇者セツナにとって、目の前に降り立った神は、まさに天からの助けに他ならなかった。


「やあ、ボクの勇者よ」


 闇の中に差し込んだ神々しき光。

 万物を平等に愛し、慈しむ慈愛の笑みを浮かべて、神は迷える勇者に答えをもたらした。


「同じようなエンディングばかりでつまらないから、君、勇者を首にするね」


 すべてはこの神の仕業だったのだと、そう勇者セツナはそのとき知ったのだ。


「納得できないかい? けどよく考えてもらえれば当然の話だと思うよ。魔王討伐はもはや流れ作業、結末は多様性に富んでなくていつも同じ、なにより最近だとまったくヒロインとも絡まない。これじゃあ、これ以上のおもしろい話は期待できないだろう?」


 神は語る。意味の分からない持論を展開する。


「だからこれで終わりだ。君の勇者物語はこれにて終了。今までご苦労様でした。正直、これまでの勇者の中でも平凡も平凡だったけれど、それでも君の亜人に対する頑なな執着と愛情はそれなりに好きだったよ? たぶん、君が輝くのは勇者じゃなくて」


 そこで唖然呆然と言葉もない勇者だった少年を見て、神はおもしろいことを考えついたと言わんばかりに手を叩く。


「そうだ。君は君の大好きな亜人たちと一緒に、人間を脅かす悪になれ。そっちの方が君には似合っている」


 その手のひらの間にあった廃棄への道を粉砕して、神は気まぐれに次の物語の敵役に彼を指名する。


「君が、次の魔王だ」


 そして彼も理解する。


 魔王を任ずる神がいるとすれば、それは人々が信じる善き神であるはずがない。


 目の前で嗤う神は、災いを運び、邪悪を産み落とすもの。


「この邪神がぁああああああ――――ッ!!」


 この世界の神は邪神であると、そう過たず新たな魔王は理解したのだ。 




誤字脱字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ