クレバシ探偵事務所始動
ギルドを出るとラメアさんが、両手に荷物を持って待っていた。
「あ、フウヤさん。終わりましたか?」
「終わりましたよ。ってなんか凄い荷物ですね」
「色々買ってたらこんなになっちゃて。私の分も入ってるんですけどね。所でその本は?」
「ギルドの人に貰ったんだ。結構重いから戻りませんか?」
「あ、そうですね。行きましょう」
それからラメアさんの家まで歩いて帰ったのだが、分厚いと言っても脇に挟めば片手で持てたので、少し荷物を持つといったのだが、
「大丈夫です!フウヤさんだって分厚い本を持ってますし!」
と言われ頰を膨らまして拗ねられてしまった。少し悲しい。
◎
家に戻り買ってきた物を見せて貰った。小物やライトなど部屋に置くものが殆どだ。俺は二階の一室を使わせて貰うことになっている。二階はラメアさんの自室もあるがそれ以外にまだ5部屋ほどあるのだが、そのすべてに小さな机と本棚、簡単なクローゼット、そしてベットが置いてあるのだ。お金は持っているとは言っていたがお金をかける所が可笑しい気もする。もしかしてラメアさんの家庭ってかなりのお金持ちなのか?だとしたら親に支援してもらって1人暮らししてるとかその辺だろうか?この世界の価値観はまだよく分からないからなんとも言えないけどな。
そして服も一緒に買ってきて貰っているので、今見せて貰う事にしたのだ。
「どうですか?似合うと思って買ったのですが?」
何セットか買ってきた様で、どれも俺の好みに合っていた。簡単に言えば黒や、渋めの色を基調にしたシックなデザインのものである。
「試しに試着してみて良いですか?」
「はい、どうぞ」
俺はその服を持って貸して貰った部屋で試着をしてみた。
うん、サイズバッチリ。多分目測で測ったんだろうけどここまでぴったりだと驚いてしまう。後は帽子があったらな……
おや、元々着ていたズボンのポッケが膨らんでる。中を調べて見るとペンダントが一つ入っていた。
ああ、思い出した。この世界に来る前の最後の依頼人である少女が、依頼料の一つとして渡してきて、それをポケットにしまって置いたんだっけ。
改めてペンダントを確認すると、見た感じ金属で出来ており、その形は星の形に翼が生えた様な感じで丁寧にディテールが彫られている。そして星の中心に緑色に輝く宝石がはめ込まれている。あれ?こんな高そうな物だったけ。もっとプラッチックで出来た物だと思って受け取った様な。うーん疲れていたからか余り思い出せない。解析の魔法を使うと魔法が弾かれた。なんなんだこれ?まぁいいか、気にしても仕方ないか。折角なので首に付けてみる。うん、普通に俺でも着けられるなこのペンダント。試着も終わり、ラメアさんのいる一階のリビングに戻る。
「どうでした?サイズ合ってましたか?」
「はい、バッチリでしたよ」
「それは良かったです。あれ?そのペンダントどうしたんですか?」
「元いた世界で貰った物ですよ。ポケットに入れていたら、そのままこっちの世界に持って来ちゃったみたいなんですよね」
「彼女さんからですか?」
唐突な質問で、少し転びかけた。しかし彼女か、そう言えば一度も誰かと付き合った事無かったな。女性に興味がない訳では無いのだが、恋という物をした事がないし、告白等をされた事もない。まぁ気づかなかっただけかもしれないが。
「違いますよ、仕事の依頼人の方からです」
「そ、そうですか」
少し安堵の表情をして此方を見てくる。なんなんだろうか一体。
「私は余りアクセサリーなどは余り買わないし、着けないんですよね。私が今持っているのは父から貰ったこの腕輪だけなんですよね。少し特別な力を持ったマジックアイテムなんですよ。あ、マジックアイテムって言うのは魔法を刻み込んだ宝石等をはめ込み、その効果を上昇させた道具や装飾品の事です。品質が高い物程効果が高いんですよ」
そう言って腕に付けている腕輪を見せてくる。金色をベースに白と黒の宝石が一つずつはめ込まれている。ラメアさん自体かなり整った顔立ちとスタイルだからか、腕輪一つで他のアクセサリーが要らない様に感じる。解析の魔法を腕輪に使ってみた。うん、ペンダントとは違い使用する事が出来た。物を対象にすると品質なども分かる様で、この腕輪、かなりの品質のようだ。マジックアイテムとしての効果は宝石の方に魔法が刻まれているらしい。身体能力上昇(大)の効果があり、他にも効果があるみたいだが少しぼやけて読めない。どういう事だろう。俺の力が足りないって事なのか?やっぱ魔法の練習をちゃんとしないとだな。
「あ、仕事と言えばフウヤさんは何か仕事をするつもりなのですか?」
「実は元いた世界でやっていた探偵の仕事をしようと思っているんですよ」
「探偵、ですか。仕事をやる場所が必要になりそうですけど、何処でやるつもりなのですか?」
「え、えっと……」
や、やばいあんまりそこら辺考えて無かったな。どうするか。
慌てて考えていると、ラメアさんが何かを決意した様な表情になった。どうしたのだろうか?
「あの、良かったら此処を使いませんか?後、私にもその仕事手伝わせください!」
え、いや、それは物凄く有難いけれど。
「なんか色々して貰ってただでさえ迷惑をかけているのに悪いですよ」
「実は私、仕事を探していたのですがやりたいって思えるものが見つからなくて。だけどフウヤさんとならやり甲斐がある様に思えるのです。ダメでしょうか?」
「いえ、とても有難いです。じゃあ宜しくお願いします!」
「はい!あ、これから共に働く仲なんですからその、丁寧な口調じゃなくて仲間として話してくれませんか?」
そう言えば、仕事を始めてからは師匠の影響を受けて女性と話す時は丁寧な口調になる事が多いんだよな。師匠曰く
「いいか、探偵は女性に敬意を持つもんだ。お前は少なくとも口調だけでも丁寧な物を使えるようにするんだぞ」
らしく、仕事で丁寧な口調を使える様に練習したのだがそれが染み付いてしまい、普段話す時も丁寧な口調になってしまうのだ。師匠のこの言葉は、色々可笑しいとも思う。
恐らくだが、師匠の事務所にくる依頼人は師匠の人柄故か女性が多かったし、師匠の威厳とかもあったのかもしれない。(男性は下手に下手に出ると舐められるとかでそのままで良いと言われた)
唯一の例外はイナぐらいだろうか。長い付き合いだからかいつもの口調で話せるのだ。
「あの、聞いていますか?」
おっと少し思い出に浸ってしまっていた。
「あ、はい、努力してみます」
「ですから丁寧な口調は止めて下さい」
う、癖は急には治らないけど少しずつ慣れていくしかないか。
「お、おう努力してみる。これで良いか?」
「はい、それじゃあ頼みますよ。ではクレバシ探偵事務所始動ですね!」
え、俺の名前を事務所名に付けるの?ま、別に良いか。
それよりこの子には本当にお世話になってしまっているな。よし!少しずつ恩を返せるようこれから頑張っていかないとな!
因みに元の世界での探偵事務所の名前は別の名前です。その名前もいつか出せたらいいなと思っています。