運命は唐突に?若しくは完全確定の運命 その5
・・・・・・・あれ?
「生きてたっ!」
オレは目を覚ました。
「どういう事だ?オレは完全に死んだような気が・・・」
「死んだ気が?うん、一時はどうなるかと思ったね。脈も呼吸も無かったからね・・・・いや、ホントに生きててくれて良かった・・・責任問題になるとこだったわ!」
完全にそれ、お前の責任だろ・・・。
なんか、意味深な夢見ちゃったし・・・きっとオレ死にかけてたよな?というか死んでたよな!?
つまり・・・生き返ったという事なのか・・・?
それに、ただ生きているだけではないのだ。
体調も良くなっている?だと?
「そうそう、アンタの親?姉?どっちでもいいや、取り敢えず礼は言っときな。」
「その前に、君に文句を言いたい。というか、姉?姉ちゃんに・・・お礼だって?」
死神はコクリと軽く頷いた。
「加護ってやつだと思うわ。私も初めて見たけど・・・」
「かご・・・?」
聞きなれない言葉にオレは籠、篭の文字を当てはめていたが、違うらしい。
「そんな常識知らないの?神の御情けってやつよ・・・・。
アンタの身体機能は完全に止まっていたけど、たぶんアンタの姉の力で・・・自分でピザを食べて、水を飲んで・・・私にやんわりと注意してから・・・・アンタは蘇った、ってわけよ。」
成る程、加護、ね。
姉と暮らした十六年間、姉がそういった超常の力を使ったところを見たことがない。オレは姉としての面は知っていても、崇り神としての、神としての側面を知らない。
オレが知る限り神話の中だけにしかいない〝崇り神〟という存在がどういうモノなのか、という事さえも・・・
まだ知らない・・・?それとも、もう知る事はないんだろうか?もう、死んだ時しか会う事も無いのだろうか・・・。
というか、何故に〝やんわり〟と・・・・・!?
オレ、コイツのせいで死にかけた、つーか死んだんだよな!?もっと厳しく叱ってくれりゃいいのに・・・
「・・・それで、これはアンタの・・・って私の話聞いて・・・るっ!?」
何か書類を示して話をしていた少女に不意に椅子の底を蹴っ飛ばされた…。
結構痛い。
「っ痛!! ・・・・って、え?な、何が・・・?取り敢えず姉ちゃんがオレの事を守ってくれてるって事は理解したが・・・?」
「はぁ!?何も聞いてなかったの?これからの事を説明してたのに?」
「ご、ごめん・・・」
コイツのペースに合わせるのは疲れる・・・。おちおち考え事もできない・・・。
気になったことが一つ。
「オレの暮らしをぶち壊したキミが何故、オレのこれからの事を決める?」
少し強く言い過ぎたか?
彼女への憎しみは殆どない。今の言葉が自己嫌悪からの八つ当たりだとしても、最後に謝る事も出来なかったのは彼女のせいだ。
これくらいは言う権利があるはずだ・・・。
と、オレは思ったのだが・・・・。
誤算が一つ。
オレはコイツを見くびっていた。
「逆にどうしてかしら?貴方は私達がどうして貴方を保護したか…、貴方の言葉を借りるなら、私達がどうして貴方の暮らしをぶち壊したのか…。
貴方としては、まだ分からないことばかり。
それなのに、結論を急ぐだなんて少し性急過ぎじゃない・・・?今自分がどういう状況に置かれてるかも分からないでしょ?どうせ」
「む・・・・・」
オレは負けた。
コイツ・・・こんな話し方もできるのか・・・・
「コイツ・・・実は頭がいい・・・のか!?」
「聞こえてるっ!!実は、ってどういうことよ!私は象刻学五科を修めたエリートよ?でなきゃ崇り神と単独交渉なんてできないわ!」
交渉・・・か。
3時間もの間ひたすら黙って殺気をぶつけ合うのが交渉だ、というならば、だが。
「で、そんなエリートがオレに何の用なんだ?こんな家を作ってしまう程に忙しいみたいだが?」
「ふんっ!し、仕方ないじゃない!・・・あの時、アンタの姉が言った言葉を憶えてる?『あなたの面倒はこの子が見てくれる。』って言ってたでしょ?」
あぁ・・・確かに言っていたような。
「そう、上層部はあの言葉を交渉条件の一部とみなし・・・・。あろうことか、死神庁の中でもエリート中のエリートである私をアンタの監視役兼お守り、として再任命したの。これからはこの家で一緒に生活をすることになってしまった訳」
「別にいらない」
オレは即答した。
堪ったもんじゃない!コイツと一緒に暮らす?冗談もほどほどにしてくれ。
「ハァ・・・・言われると思った。・・・・だけどそれ、私じゃなくて上に言ってくれない?私だって、私の事を親の仇みたいに思ってる奴となんて住みたくないわよ・・・・」
死神はガックリと肩を落とし、大きな溜め息をついた。
少し可哀想だと思った。
オレだって同じ状況に置かれたとしたら耐えられないかもしれない・・・。
俺は頭を下げた。
「わるい・・・別にキミの事が憎いわけじゃないんだ・・・オレは姉さんを欺こうとした自分が許せない。確かに、何もあの時、あんなに急いで別れなくても良かったんじゃないかとも思うけど・・・でも、それも不合理な逆恨みだよな・・・。別れを言う時間ならちゃんと在ったんだ・・・それを子供みたいな駄々で潰したのはオレで・・・・・・・でも、まだ整理が出来て無いみたいなんだ・・・・本当に、ごめん」
少女は頷き・・・・そして、深く頭を下げた。
「私の方こそ・・・ごめん、なさい・・・。非道なことよね、やっぱり・・・アナタを家族から引き離してしまった罪は・・・」
「ちょ、ちょっと待てよ!悪いのオレだから!!頭なんか下げないでくれよ!」
俺はこういうのは苦手だ。といかマジで勘弁してほしい。
「中谷紫音、私が死神庁を代表して謝ります・・・。気休めにしかならないだろうけれど・・・」
「お、おい!やめてくれよ。オレ、謝られるのって苦手なんだ!それに、謝るべきはオレの方だよ!キミには八つ当たりで酷い言葉を言ってしまったし・・・だから・・・・・顔上げてくれよ!!頼むから!」
しかし、彼女は顔を上げてくれない。
本当に困った。もともとシリアスな雰囲気を作ってしまったのはオレだが、女子に謝られること程に苦手なモノは無い。
そもそも彼女は何も悪くない、とは言い切れないがこれまでの彼女の言動を考えるに、彼女に指令を出していた人物がいるハズだ。別に彼女がソイツの分まで謝る必要はない、と俺は思った。
なんとか話の流れを変えるには・・・・
「も、もうやめようぜそういうの!イジメは良くない!そ、それにオレも調子出てきたしっ!?
あっ!そうだ!自己紹介してなかったよな!?お、おれは・・・鏡谷 亮って名乗ってる。姉ちゃんがつけてくれた名前なんだ。リョウで構わない、外界の学校でもそう呼ばれてたしな・・・」
オレは強制的に話題を変える事に成功した。
ピクリ、と少女の肩が揺れ、やっと顔を上げてくれた。
「・・・・私、真剣に謝ってたのに、それをイジメ、とか・・・」
顔をやっと上げてくれたのはいい・・・のだが。思いっ切り睨まれた。
「あ、ごめ・・・そういうつもりじゃ・・・」
「じゃあ、どういうつもり?」
どういうつもり?と言われても・・・
「え?・・・あ~~~・・・・いや・・・ごめん」
・・・答えようが無かった。
「ま、でもいいわ・・・その方が私もやりやすいし・・・んじゃ、気を取り直して・・・・よろしく!私は中谷 紫音。シオンでいいから!」
彼女は、シオンと名乗った死神は笑顔で右手を差し出した。
初対面の印象と随分印象が異なるように感じた。
もちろん良い意味で、だ。黒いスーツを着ていないせいなのかなんだか親しみやすい。
もし単純に街や学校で出会っていたならきっと・・・ってオレは何考えてんだ!?
少しぼーとしてしまったが、オレも気を取り直して彼女の右手を握り返した。
「よろしく!」
「あ、ああ・・・・よろしく・・・!」
オレとシオンは互いに握手を交わした。
こうしてオレの奇妙な外界生活は始まったのだった。