運命は唐突に?若しくは完全確定の運命 その3
「おはよう・・・元気かしら?」
目を覚ました俺に掛けられたのはそんな言葉だった。
「うん・・・おはよう」
頭の中が妙にスッキリしているように感じる。
これまでの暮らしの事を忘れた訳ではない。それどころか思い出そうとすれば限りなく、湧き出るかのように色々な事が蘇ってくる・・・。
だが・・・。今置かれている状況とは関係がない、姉ちゃんとは生きていれば必ず会える、いや、必ず探し出して会おう。と、そう、思えるようになっていた。
人間っていうのは中々死ねないものだ。一度寝るだけでスッキリと、これまでのことも、そして、これからのことも整理されるようだ・・・。
昨日はあれだけ憎んでいた目の前のコイツの事も、自分の事も、キレイスッキリ整理整頓されてしまった・・・。
「正しくは、久しぶり。と言った方が良いのかしらね?驚いた?あなたは一週間も
寝てたの。安心して、医者が言うには脳波、身体機能共に問題は無いそうよ」
淡々と目の前の少女、見た目は同学年くらいなので少女と呼んで良いのか分からないのだが・・・・・・少女は淡々と続けた。
という事は?と考える。
一週間だって・・・?どうやら・・・思いの外、頭の整理に時間が掛かったらしい・・・。
「一週間、アンタが起きるまで退屈だったから・・・部屋を少し改善してみたの」
あ、本当だ。壁には壁紙が貼られ、天井には照明が、部屋の傾きも無くなっている・・・。
「・・・というかこれって・・・・・・・・・・・・・・・・家、なんじゃないか?」
「え、ええ・・・。部屋数は五つ。水道、ガス、電気も完備。3LDKにする事だって可能よ。今私がはまってる、組み合わせ自由の家なんだけど・・・どう?自分では中々の出来だと思ってるけど・・・?」
「えー・・・と?い、いいんじゃないかな?壁も頑丈そうだし・・・」
他にどう言ったら良いか思いつかなかった・・・。どう作るのかもサッパリ分からない。
それに、今はそんな事で時間を取ってもいたくなかった・・・。
「姉ちゃんは・・・?姉ちゃんはあの後?」
一番の気掛かりはそこだ。
今必要なのは情報だ、姉ちゃんと別れた後の事、今オレが置かれた状況、外界から家に帰る為の手段。
それに、目の前の死神とオレとの関係、この死神の態度は、一度目に会った時とは違い過ぎるように感じる。殺気のみならず、威圧感すら感じない。
とにかく・・・。状況が分かるまでは、彼女のペースに合わせた方がいい・・・。
「そう言われてもね?彼女は彼女のままだけど?私達なんかが太刀打ち出来るような神格じゃないからねー・・・・。私がアンタを連れ出したあの後は聖域ごと姿を消したわ。
まぁ、この都市からはそうそう離れないはずだから・・・探知できない程の深みにかしら移ったんじゃない?」
姿を消した、というのが気にはなるが・・・
「元気ってことなのか・・・?」
「さぁ、ね?」
彼女は素っ気なく肩を竦めた。
「というかさぁ?そんな事よりアンタ、腹減ってないの?」
その瞬間、良いタイミングで腹が鳴った・・・。
確かに気になってはいた。人間とは一週間も何も食べずに生きれるのだろうか・・・。確かに言われてみると喉もカラカラだ。
「だよね。アンタ一週間も何も食べていないんだからね。ホントよ?飲まず食わずで一週間だったんだから。
ほら、さっさと来なよ、ご飯ならたぶん、何かは・・・・何かしらはあるから!」
彼女の言葉や態度に不自然な所はない・・・ように思える。
逆にその優しさが不自然だ。
罠、ということもあるが、オレを殺す理由が彼女には無い。
殺すならば寝ている内に殺せば良かったのだから・・・。
何より、オレは腹が減った。いつの間にか死にそうなくらい腹が減っている。
そんな訳で俺の憎しみは食欲に負けた・・・。
彼女の好意(?)に甘えさせてもらい、何かを食べよう・・・。
マジで死にかねない・・・