幸福な日々への追憶(7)
約束していた時間よりもずっと早く行くと、如来寺で猫と戯れていた朧は驚いて目を見開いた。
「あれ、京介、どうしたんだ。学校は?」
もっともな疑問に、京介は肩を竦めて応じる。
「成り行きでサボることになってな」
「不良だなぁ、京介」
「出席日数は足りてる」
「ふうん? まあ、京介がいいならいいけどさ。じゃ、早速行ってみようぜ、例の公園」
朧は猫たちに別れを告げて立ち上がる。
「後ろ、乗せてくれよ」
朧が指すのは、京介が乗ってきた自転車だ。京介は苦笑する。
「ニケツか? 不良だな」
そう言いつつも、京介は本気で止めるつもりはなかった。それを解っているようで、朧もにやにやと笑うばかりだ。
「京介も共犯だからな」
荷台に朧を乗せる。朧の腕が自分の腰に回るのを確認してから、京介は自転車を漕ぎ出した。如来寺前の道は国道に出るまで緩やかな下り坂になっていた。すぐに自転車はスピードに乗り、風を切ってぐんぐん進んでいく。冷たい風が頬を打つ。だが、不思議と寒さは感じない。興奮で体は火照っていた。
仕事に臨む時、ふだんなら、不破の退魔師としての使命感があるくらいで、他の感情はほとんどない。つらいと思うことはないが、楽しいと思うこともない。だが、今日に限っては、なんとなく高揚していた。仲間がいるとは、こういうことのなのだろうか、と思う。
思ったままを吐露すると、朧は少し不思議そうにしていた。
「不破の一族って、代々式神を連れているんじゃないのか?」
「ああ……竜胆ばあ様は、昔から『乱鬼』って式神を連れているよ」
かなり力の強い優秀な妖で、かつて竜胆が前線で活躍していた時代には彼女の背中を守り、存分に力量を発揮していたらしい。しかし、近年、竜胆が京介に仕事を丸投げするようになってからは、もっぱら家政夫のような仕事ばかりさせられていると聞く。竜胆はたびたび電話で「乱鬼は包丁捌きが神がかっているんだよ」と自慢する。台所で神がかり的な包丁捌きを披露するくらいしか活躍のない現状を、一応本人は嫌がっていないらしい。
「俺も以前は、魔術の指南役兼護衛役ってことで繚花って妖と契約してたんだけど、彼女、体が弱い娘がいて、娘の療養のために清浄なところで隠棲したいって言って辞表を出した」
「辞表! 式神の世界にも辞表とか存在するのか!」
「うちが特殊なだけかも。まあ、そんなわけで繚花が辞めて……元々繚花は、未熟だった俺のためにばあ様が探してきてくれた妖だったんだけど、今度は自分で契約する相手を探してみろって言われて……見つからないまま今に至る」
「へえ」
「まあ、無理に探すことはないと思ってるんだけどさ」
「なんで? 式神の力を借りられれば、京介の仕事もずいぶん楽になるだろうに」
「俺は助かるけどさ、俺の方は式神のために何をしてあげられるわけでもないし。力を借りっぱなしってのも、気分が悪いじゃないか」
そう言うと、朧は小さく笑った。
「俺も今までいろんな魔術師を見てきたけど、そんな難しく考えてる奴は初めて見た」
「変?」
「変わってるけど……京介らしいな、と思う。それでいいんじゃないか?」
国道をひた走ると、大きな風車が見えてくる。白峰運動公園のシンボルだ。風車の方に向かって道を右折し、やがて見えてきた駐輪場に自転車を停めた。
平日の昼間なので、健全な生徒はこんなところにいるはずがない。ちらちらと見えるのは就学前の子どもとそれを見守る保護者達、ゆったりと遊歩道を歩く老夫婦、それから風車前の広場に集まっているハチマキをした妖集団……と、そこまで視線を走らせてから京介は目を剥いた。妖怪たちが不穏な集会をしているではないか。おそらく人間たちの目には留まっていないだろうが、京介にははっきり見える。加えて不穏な号令もしっかり聞こえてきた。
「人間どもは、我々の再三にわたる抗議にも耳を傾けず、未だに我々の住処は排気で汚されたままである! 人間どもがそういう不誠実な対応をするなら、我々にも考えがある。排気を放っていると思しき工場は片端から叩き潰すぞ!」
「おー!!」
やたらと白熱している集会に、京介は頭を抱える。これではデモというよりテロじゃないか。
集会を仕切っているのが、鈴懸というリーダーだろう。長い髪を頭の上で一つに括り、「妖怪を守れ」と書かれたハチマキをびしりと巻いている。黒い小袖に黒い袴を着て、白い襷で袖をたくしあげて右手には薙刀を持っている。気合十分な討ち入り装束に見えるので、京介はげんなりする。薙刀を持っていったいどこへ行く気なんだと思っていると、鈴懸は「手始めにあの工場を襲うぞ!」と遠くに見える建物を指した。それは工場ではなく下水処理場である。
「京介、あそこを襲われたらここら一帯の下水道は大打撃だ」
「鈴懸の奴、リーダーのくせになんで見当違いな場所をターゲットにしてるんだよ」
ぼやきながら、京介は気が進まないながらも集会に割り込んで鈴懸の前に立った。
鈴懸は、こちらが人間と見るやぎろりと鋭く睨みつけてきた。
「ははん、私たちが本気になったのを知って、ビビッて土下座でもしに来ましたか」
「少し落ち着いてくれないか。ここの妖怪たちの不調は排気じゃなくて瘴気のせいだ。瘴気の発生原因についてはこれから調査するところだけれど、とりあえず下水処理施設は無関係だから、襲撃は中止してくれ」
「そんな言葉で煙に巻かれはしませんよ。前にここに来た女も、『今調査中』『鋭意調査中』『目下調査中』などとテキトーな言葉を並び立てるだけで、結局何も解決していないんですからね!」
そのいい加減すぎる言葉で場を濁した女は間違いなく竜胆のことだろうな、と直感し、京介はげんなりする。鈴懸たちのことは竜胆がしっかり押さえておいてくれるはずだったのに、全然押さえられていない上に、議員の答弁みたいな雑な台詞のせいで鈴懸たちの苛立ちを煽っただけではないか。
どう説得したものかと京介が悩んでいると、
「リーダー!」
「京介!」
集会に参加していたうちの一人が鈴懸を呼び、朧が京介を呼んだ。同時に声の主を振り返ると、集会に参加していた妖怪の一人、三十代くらいの男性の外見をした妖が地面に蹲っている。朧や他の妖怪たちは心配そうにその周りを取り囲んでいる。
駆けつけると、朧が状況を説明してくれる。
「急に顔色を悪くして、蹲ったんだ。たぶん、瘴気にやられたんだよ」
言われて、京介は公園の様子をじっと観察する。リミッターを緩めて、視る。
蹲っている男に黒い霧がまとわりついている。美波の時と同じだ。濃い瘴気にまかれている。
それだけではない。公園全体に、うっすらと黒い霧が漂っていて、視界全体が濁って視える。すぐに体に影響がある量ではないかもしれないが、長い時間この場所に留まれば害になるし、瘴気に耐性がほとんどないような妖であれば、倒れてもおかしくはない。
鈴懸は蹲る男を心配そうに見つめて「しっかりしろ」と声をかけ続ける。そんな彼女に、京介は強い口調で告げる。
「この場所には瘴気が発生している。被害が広がる前に、ここから離れろ」
「何ですって」
「妖たちが苦しむのは、俺だって見たくない。こうなった元凶は俺が何とかする。お前がリーダーだっていうなら、ここはひとまず怒りを鎮めて、集まっている妖怪たちの安全を一番に考えろ」
「……」
鈴懸は不満そうに京介を睨んでいたが、やがて号令をかけ、集まっていた妖怪たちを促し、公園から移動して行った。
妖怪たちの安全がひとまず確保され、ついでに下水処理場の安全も確保されたが、まだ問題が残っている。公園に来ている人間たちをどうするか、だ。
すると朧が「俺に任せろ」と親指を立ててみせる。
朧は徐に目を閉じると、両腕を大きく広げ、掌を上向ける。そのまま静かに深呼吸をする。京介はそれを黙って見守っていた。
やがて、変化が現れる。芝生の広場で走り回っていた子どもが立ち止まり、空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「……雨?」
京介もつられて空を見る。だが、空は青く晴れていて、雨など降る気配はない。しかし、周りにいた人々は次々に顔を曇らせ、「雨だ」「降って来ちゃった」と口々に言って、慌てて公園から走り去っていく。
その光景を京介は呆然と見ていた。そこそこ賑わっていた公園が一気にがらんと静まり返ると、朧が目を開けてにっと笑った。
「この公園の敷地内限定で幻覚を見せたんだ。雨が降って来た、ってな」
「驚いた……敷地全域を覆えるほどの幻術か。すごいな」
「いやぁ、照れるなぁ。つっても、たいした幻覚は見せられないんだけどな」
「助かったよ、朧。これで被害が抑えられる」
「それで、京介。瘴気の発生源は見つかりそうか?」
「今、探してる……」
目の力を頼りに、原因を探す。一見何の法則もなく、無秩序に漂っているように思える瘴気に、しかし、何らかの流れを見出そうとする。瘴気を生み出している何かがあるならば、おそらくそこから流れてきているはずだ。瘴気の動きを観察し、その濃い場所を探す。
「……」
じっと目を凝らす。と、瘴気が上から降ってくるのが解った。黒い霧が、降り注いでいる。その発生源を辿って視線を上げていく。その先にあったのは、公園のシンボルでもある大きな風車塔だった。
高さ三十メートルの塔では、四つの羽がゆっくりと回っている。階段が取り着けられていて、塔中段をぐるりと一周巡る展望台に上がれるようになっている。その展望台のあたりから、瘴気が漏れ出しているように見えた。
「朧、展望台だ」
言うや否や、京介は走り出していた。
階段を駆け上がる。後ろから朧が慌ててついてくるのが、足音で解った。
体に感じる瘴気が、俄に濃くなる。
「京介、気を付けろ。近づきすぎると体に毒だ」
「解ってる。けど、近づかないことにはどうしようもないだろ」
言っている間に展望台に辿り着く。展望台の、塔の前面側――丁度回る羽の真下あたりに、黒い塊が見えた。その禍々しい妖気を放つ正体不明の塊は、「眼」を使うまでもなくはっきりと視認できるほどに、強い存在だった。
「京介……あれ、何だ?」
遠巻きにそれを凝視しながら朧が尋ねる。京介も、その塊から目を逸らすことなく応じる。
「……妖怪、ではないな」
サッカーボールくらいの大きさの漆黒の球体から、ある部分からはミミズに似た紐状の部位が、ある部分からは動物の角のような尖頭が、ある部分からは獣の脚のようなパーツが……といった具合に、あちこちから脈絡のない物体が生えてきている。まるで、様々な生物の体をツギハギしたみたいに、無造作に、不気味に。だが、すべてのパーツは一様に真っ黒だ。そして、球体の表面を埋め尽くすように、赤い無数の目玉がぎょろりと動いている。
見る者に間違いなく嫌悪感を抱かせるだろう、異形。妖には、人間や動物とは全く違う姿をした異形もいるが、それでもこんなに無意味に不気味な姿をした者はいない。
「魔術師でも妖怪でもないなら……人造式神ってことか?」
「そうだろうな……こいつは明らかに、造られたモノだ。自然には存在するはずがない異形」
「誰がこんなものを」
「それを考えるのは後にしよう。とにかくこいつが原因で間違いない。とっとと潰さないと、こっちの身が危ない」
京介は黒い人造式神に向かって呪符を擲つ。呪符が貼り付くのと同時に、京介は唱えた。
「烈火現界、炸裂せよ!」
ドン、と爆発音が響き、爆炎と爆風が広がる。抑えることのない威力に、後ろで朧が泡を食う。
「京介、頼むから風車壊すなよ? 展望台が壊れたら俺たちも転落するから」
「……考えてなかった」
「京介っっ!」
京介は五回に一回の頻度でポカをやらかす悪癖を持っていた。
「だけど、見ろよ、朧。結果オーライだ、全然効いてない」
黒い式神を指す。爆炎も爆風も、急激に収束していく。黒い式神が、熱も衝撃も吸い込んでいるようだった。まるでブラックホールだな、と京介は適当な感想を抱く。人造式神は何事もなかったかのように、目をぎょろぎょろさせる。
直後、黒い物体が吐き出す瘴気が濃くなった。空気が濁る。京介は反射的に口と鼻を袖で覆う。それでどこまで効果があるかは解らないが、できるだけ吸わない方がよさそうだった。
「エネルギーを取り込んで瘴気に変えているのか……?」
「だとしたら、京介、あの強い穢れに対抗できるほどの浄めの魔術じゃないと太刀打ちできないぜ」
「浄めか……俺の付け焼刃で何とかなるかね」
がりがりと頭を掻きながら、京介はぼやく。しかし、そうはいってもやらなければならないのは重々承知している。昨日今日覚えたばかりのにわか仕込みでも、やらないよりはマシだ。
京介のやろうとしていることに気づいたのか――人造式神にそんな判断能力が備わっているのかは謎だが――放たれる瘴気が強くなる。そして、京介の方に狙いを定めたように黒い霧に指向性が備わり、流れ出す。
「俺が止める。京介、その間に!」
朧がさっと前に出て右手を突き出す。すると、そこに見えない盾でも現れたかのように、黒い霧が朧と京介を避けていき始める。結界術の一種だろう。
朧が時間を稼いでいるうちに、京介は術の構築を始める。
「刈夜叉」
退魔の刀・刈夜叉を右手に現す。銀色に光る刃を指でなぞる。元々邪悪なものを退ける力を持つ刀に、さらに重ねて浄化の術をかけ、穢れに対抗する光の力を込めていく。
「篝火を以て闇を照らし、灯火を以て穢れを討つ。白刃よ、光を纏いて黒影を断て」
黒い式神がいっそう強い瘴気を放ち出す。その衝撃で、結界が破られ、朧がよろめく。式神の体表の無数の目が、狂ったように蠢いている。
「京介っ!」
「煇々纏装――朧、下がって!」
朧を離れさせ、代わりに京介が前に出る。構えた刀は、瘴気の波さえも斬り裂き、道を切り開く。
一瞬で人造式神に肉薄する。京介を払い除けようとするように伸びてくる、ミミズのような触手。それを切断すると、刀を持ち直し、両手で握りしめ、黒い球体に突き刺した。
「ギ、ギギギ……」
苦痛に呻く声か、はたまた無機質な機械が壊れる音か。奇妙な低い音が響き、刃の刺さったところから黒い球体に亀裂が入る。中に溜め込んでいた瘴気が漏れ出すように、亀裂から濃い瘴気が溢れてくるが、刀に込められた浄化の魔術が打ち消していく。
細かい蜘蛛の巣のように亀裂が体全体を覆い尽くす。やがて耐えかねたように、黒い式神は破裂し、粉々に散っていった。
身を圧迫するような空気の重い濁りが薄らぐ。息苦しいような感覚が、和らいだ気がする。後ろで朧が歓声を上げていた。
「すっげえ! 京介、やったじゃん!」
それからばたばたと足音が近づいたと思うと、朧が後ろから抱きついてきた。称賛のハグ、らしいが、勢いがつきすぎて苦しい。ギブアップ、と京介は朧の腕をばんばん叩くが、朧は気づかずぎゅうぎゅうしめつけてくる。
「さっすが不破の退魔師! 浄化魔術も一発で決まったな!」
「解った、解ったからとりあえず離せ苦しい」
「一件落着、万事解決ってな! やったなぁ!」
「朧っっ」
朧の喜びようは並々ではなかった。京介だって勿論、嬉しかった。初めて、仲間と一緒に解決した事件なのだから、嬉しくないはずがない。
朧と一緒なら何でもできるのではないか――柄にもなく、そんなことを本気で思ってしまうほどだった。
★★★
元凶である人造式神を叩き潰したことにより、白峰運動公園には平穏が戻った。公園を訪れる者が脅かされることもなくなり、下水処理場がデモに脅かされることもなくなった。
翌朝、竜胆から連絡があった。
『鈴懸から謝罪と感謝の連絡があったよ。公園は安泰だね』
「それはよかった」
『だけど、完全に解決、というわけにはいかないな。お前の報告が本当なら、瘴気をまき散らす害悪な式神を作り出した誰かがいるはずだ』
「ああ」
『まあ、そちらについては私の方で引き続き調査をしよう。お前の仕事はひとまず終了だ。何か分かり次第指示を出す』
友達によろしく、と茶化すような響きの言葉で、竜胆は締めくくった。
電話を切ると、京介は鞄をひっさげて登校した。
駐輪場に自転車を停めて昇降口に向かうと、そこで待ち構えている奴がいた。草壁だ。避けて通れない場所にいる。昨日は邪魔が入ったせいで、彼の方は不完全燃焼だったのだろう。不機嫌そうな表情をしている。面倒なことになりそうだな、と京介は暗澹たる気持ちになる。
その時、
「おーい、きょーすけ、おはよー!」
陽気に後ろから声を掛けられて、京介はぎょっとした。こんなところで、京介をそんなふうに親しげにファーストネームで呼ぶような人間はいなかったはずだ。
振り返ると、大きく手を振りながら、窪谷潤平がやってきた。
「……おはよう」
一応礼儀として挨拶を返してから、京介は問う。
「なんで急にファーストネーム呼び捨て?」
すると潤平は、なぜそれが不思議なのか解らないといったような顔で、
「そりゃあ、お前、俺はお前を心の友的なサムシングと見なしているからじゃないか」
「はあ?」
「ふっ、とぼけなくていいぜ、もっと自慢げな顔でこいよ。お前のおかげで美波はスーパー元気になった。これがスピリチュアルなヒーラーの力ってことだな」
潤平は勝手に頷いて納得している。京介の方は納得がいかない。美波が元気になったのは喜ばしいことだが、それを京介のおかげであると当たり前のように考えている潤平の思考がよく解らない。
「やはり俺の目に狂いはなかった。お前、いい奴だな。うちの学年にお前みたいないい奴がいたとはな、もっと早く声かけてりゃよかった」
いい奴。この歳でそんなことを真顔で言う奴がいたとは。
「とりあえず今日の昼飯奢らせろよ。あ、それと昨日の金は返すぞ。ミネラルウォーターはうち、米炊くときに使うから無駄にならないし」
「はあ」
「さあ、教室にレッツゴー! ほら早く来いよ」
やたらと元気よく言うと、潤平は京介の腕をぐいぐい引っ張って歩いていく。そんな調子で昇降口を通り過ぎると、予定外の状況に唖然とした草壁が声をかけるタイミングを逸したようで、何も言わずにつっ立っていた。
不意に、朧の顔が脳裏に浮かんだ。
『優しい奴には優しい友達ができるんだぜ? 京介の周りにはきっと、優しい人が集まるんだと思う。すぐにいい友達ができるさ』
朧の予言じみた言葉が思い出された。自分を引っ張っていく潤平と、潤平に引っ張られるままであることを受け入れている自分。
「……」
初めてできたのかもしれない人間の友人に微かな興奮を覚えながら、京介は言う。
「……とりあえず、腕痛いから離してくれ。ちゃんと行くから、潤平」




