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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希
第一話 ~春~ 再就職先は地獄でした。――いえ、比喩ではなく本当に。
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お仕置きの時間です。

「では、地獄分館に案内するとしようか」


 Mの神こと兼定さんを熱湯から引き揚げた閻魔様は、早速私をシンデレラ城改め地獄裁判所へ招き入れました。

 ちなみに当の変態執事は、火傷一つ負っていないどころか、ツヤツヤのたまご肌になっていました。血行も良くなり、欲望も満たされて超ホクホク顔です。


 何でしょう。あの満足顔を無性に釘バッドで殴りたくなってきました。

 でも、それをやったらものすごく喜ばれそうなので止めておきます。余計に腹が立つだけですからね。


「地獄裁判所は、法廷と事務局、各地獄へ通じるターミナルという三つの建物からなっている」


 地獄裁判所の中を歩く道すがら、閻魔様は地獄裁判所の概要を教えてくださいました。

 これから長くお世話になる職場ですからね。有り難く説明を聞いておくことにします。


「なお、法廷には古今東西の拷問器具を集めた尋問部屋もございます。宏美さん、よろしければ今度ご案内いたしますが、如何でしょうか? 三角木馬に跨った上で鞭打ちされるなど、大変楽しいですよ――私が」


「一人で勝手に鋼鉄の処女(アイアンメイデン)に抱かれて、そのまま結婚でもしてきてください。きっと血まみれになるほど刺激的な毎日が送れますよ」


「あふん!」


 恍惚とした表情でクネクネしている残念イケメンを放置して、閻魔大王の後ろを歩きます。

 法廷であるシンデレラ城を抜けた私達(いつの間にか変態も復帰して、三人に戻りました)は通路を渡り、地上十階建ての大きな建物へと入りました。

 閻魔様曰く、これが事務局とのことです。


「この建物には、地下階もあってね。地下一階から地下三階までの大半が地獄分館となっている。地下一階は開架書架、地下二階は閉架書庫だ。現在の蔵書数はおよそ十六万冊で開架に六万冊、閉架に十万冊の割合で配架されている。――ああ、どちらの書架もスペース的にはまだ余裕があるから、安心してくれ。あと、地下三階は地獄裁判所で作成された各種公文書の保管庫となっている。ちなみに公文書は、一定の期間が経つと地獄公文書館へ移設されるので――」


 階段を下りながら、閻魔様の説明は続きます。

 スラスラと施設の概略が出てくる辺り、さすがは分館長といったところでしょうか。このゴリラ、ちゃんと仕事ができたのですね。私、びっくりです。


「地獄分館の司書の主な仕事は、蔵書と公文書の管理だ。加えて本の貸し出し業務や選書業務、レファレンス業務なんかもある。ここら辺は現世の図書館や文書館と同じと思ってくれて構わない。――そうそう。選書はこちらから指定する本以外、予算内で自由に選んでもらって構わない。他にわからないことがあれば、兼定君に聞いてくれ」


「はい。承知いたしました」


 どうやらこの図書館、自由裁量となる部分がかなり多いようですね。一人で管理するにはやや広すぎる感もありますが、しばらくすれば慣れるでしょう。


 というところで、階段も終わり。

 私達の目の前に、大きな観音開きの扉が姿を現しました。扉の横の壁には、『黄泉国立図書館地獄分館』というシックなプレートがかかっています。


「さあ、ここが地獄分館――君の城だ」


 満面の笑顔で、閻魔様が扉を指さします。

 熊もどきの濃い顔が満面の笑顔って、何だか気味が悪いですね。


(まあ、ゴリラの笑顔は横に置いておきましょう。今はこの扉です)


 この扉の先に、閻魔様の言う通り、私の城が広がっているわけですよ。

 私の城……。とても良い響きです。なんかもうワクワクしますね。


「さあ、開けてみたまえ」


「わかりました。では早速――」


 小躍りしたい程に逸る気持ちを必死に抑え、淑女らしく落ち着いた態度で扉の前に進み出ます。

 扉の前で、一度深呼吸をし……、


(それでは、御開帳~!)


 取っ手に手をかけた私は――一気に扉を開け放ちました!


「あらまあ! これは……」


 開け放たれた扉の先を見つめ、私は息を飲みました。

 そこは、紙の匂いで満ちた空間でした。

 広さはサッカーのフィールド半面分より少し小さいくらいでしょうか。これに加えて、地下二階と三階にも部屋があると考えれば、分館と言う割にかなり広い図書館と言えますね。実に素晴らしい。


 ただ……。


(広さは素晴らしいのですが……何でしょうね、これ)


 目の前に広がるの図書館の内観は、現世で生きてきた私にとって、理解不能なエキセントリックと呼べるものでした。


 まずは整然と規則正しく並んだ本棚。図書館という施設を象徴するこの家具は――なぜかすべて将棋倒しとなっています。

 巨大ドミノ倒しでもしたのでしょうか、ここの薄らバカども。


 さらに、丈夫そうで温かみのある木製机が置かれた閲覧スペース。この空間は――竜巻にでも遭ったかのように薙ぎ払われていました。しかも、なぜか中心に直径二メートル程の鉄球が鎮座しています。

 何でしょうね、この奇怪なオブジェ。前衛芸術?


 極めつけは、幾星霜の時を経たものから新しいものまでとりどりの本です。あるものは本棚に挟まれ、あるものは床に飛散しています。

 この有様を見ていると、なぜか『死体』という言葉が頭をよぎりますね。


 と、この光景を一言で表すならば……そう。特大ピタゴラ装置(使用済み)?

 いやはや、実に素晴らしい廃墟ですね、ここは。

 しかし……はて? おかしいですね。私はルインではなくライブラリーに案内してもらったはずなのですが……。

 これも、いわゆる地獄クォリティというやつなのでしょうか。


 ハハハ。……まったく、ふざけた話です。


「おい、そこのヒゲと豚執事。ちょっとそこへ直りなさい」


 満面の笑顔を顔に貼り付け、後ろを振り返ります。

 抜き足差し足で逃げ出そうとするゴリラ、正座スタンバイで鞭を差し出すクズの両名と目が合いました。


「い、いや。儂は別に逃げようとしていたわけではなく……」


「不束者ですが、よろしくお願いいたします!」


 真っ青な顔をして釈明するゴリラと、頬を紅潮させて目を輝かせる変態。二人に向かって私は最高の作り笑顔を向け……、


「大丈夫ですよ。すぐに気持ち良くなりますから。ウフフ……」


「イエス、女王様!」


「ぎゃああああああああああ! タンマ、タンマ! それはマジで危険だから!」


 どこからともなく取り出した釘バットを構えたのでした。


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