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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
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採点が始まりました。

 勝負開始から、およそ小一時間……。


「――ほうほう。これは面白いことになったのう」


 腕組みして仁王立ちした伊邪那美(いざなみ)様が、私達の前で愉快そうに何度も頷きました。


 まあ確かに、甚だ不本意ですが面白い状況にはなりましたね。

 なんたって、私達と久延毘古(くえびこ)氏がほぼ同着で資料をそろえてきたのですから……。


「それもこれも、閻魔様と兼定さんのおかげですね。本当に二人とも、盛り上げ上手でいらっしゃる……。――帰ったらティラさんとダイナさんのエサにしてあげますから、覚悟してくださいね♪」


「ふぉ……ふぉんふぉうにふみまへん(意訳:本当にすみません)」


「ハアハア……。最高のご褒美、ありがとうございます!」


 顔面を二倍の大きさにしたまま土下座する閻魔様と恍惚の表情で床に転がる兼定さんを、冷めた目で一瞥します。


 このゴリラと変態、自信満々で出ていったクセに入る書庫を間違えて、久延毘古氏と同時に大会議室へ駆け込んできたのですよ。

 おかげで余裕の勝利になるはずがギリギリの戦いとなってしまいました。私のプランも全部パーです。せっかく喜び勇んで撮影機材を借りてきたというのに……。

 こいつら、この勝負の行方に地獄分館と私達の命運、そして『屈辱にむせび泣く久延毘古氏の図』というお宝映像が(かか)っていると、本当にわかっているのでしょうかね。


「同時に回答を揃えたということなら仕方ないのう。この場で両者の回答を見せ合って、一緒に答え合わせをしてしまおう」


「それは構いませんが、どのように正誤の評価をされるつもりですか? お互いの回答に相違があった際、どのように判定するのかお聞かせ願います」


 久延毘古氏が伊邪那美様に真っ当な疑問をぶつけます。

 そういえば、評価方法を聞いていませんでしたね。

 本来なら同時にゴールする可能性は低かったはずですから、何かしらの評価方法を用意しているのだとは思いますが……。

 さてはて、伊邪那美様はどうするおつもりなのでしょう。


「安心せい。実はこの依頼を受け取った時に、参考調査係にも調査を進めておくように頼んでおいたのじゃ。なので、今回は参考調査係による調査結果を基準として評価を行うこととする」


 そう言って、伊邪那美様がどこからともなく紙束を取り出しました。察するに、あれが参考調査係の調査結果なのでしょう。

 レファレンスの専門集団が用意した回答を基準とするならば、厳正な評価ができそうですね。久延毘古氏も納得した表情です。


「うむ! 両者、評価方法に異論はないようじゃな。では、早速答え合わせに行ってみよう。まずは渡航人数の依頼からじゃ」


「……白仙さん、回答をお願いします」


「ほいさ。――伊邪那美様、お納めください」


 私に促された白仙さんが伊邪那美様へレポート用紙を差し出し、次いで久延毘古氏も調査結果を提出します。

 二人から回答を受け取った伊邪那美様は、参考調査係の調査結果と合わせて見比べ始めました。


「ふむふむ……。両者ともにメインとして使用した資料は、参考調査係と同じで『統計で見る天国庁の歴史―明治編―』じゃな」


 豪放磊落な性格をした方だとは思っていましたが、伊邪那美様はひとり言まで筒抜けですね。

 おかげで評価過程がわかって助かりますが……。


「久延毘古はちゃんと裏付けのために、さらに他の資料にも当たっておるの。感心感心」


 と思ったら、私達にとってあまりうれしくない発言が出てきましたよ。

 チッ! まずいですね。これは抜かりました。

 白仙さん達は、本職の図書館員ではないですからね。複数の資料に当たって回答内容の裏付けを取るなんてこと、やっているはずもありません。


 これは由々しき事態ですよ。評価としては、久延毘古氏に後塵を拝する可能性が高いです。

 さてはて、どうしたものか……。


「――とはいえ、双方答えは同じじゃしな……。うむ! 一つ目の依頼は引き分けじゃな!」


 ……………………。ふう……。

 助かりました。伊邪那美様が単純バカ――いえ、細かいことを気にしない性格でよかったです。この分なら、残りの依頼も回答に問題がなければ細かいところは流してもらえるでしょう。


「それじゃあ、次! 両者、二つ目の依頼の回答を出せ」


 伊邪那美様がチョイチョイと手招きして次の回答を催促します。


「ほら、閻魔様。伊邪那美様が呼んでいますよ」


「ああ、うん。――伊邪那美様、こちらが調査結果です」


「……お願いいたします」


 閻魔様と久延毘古氏から調査結果を受け取った伊邪那美様が、最初の依頼の時と同様に、内容を検分していきます。


「ふむふむ、なるほどのう……。久延毘古は参考調査係と同じく、地獄の歴史関連の資料から当たったか。対して、地獄分館側は官報のコラムから情報を引き出したと……。これはなかなか面白い切り口じゃな」


 伊邪那美様が愉快そうにカラカラと笑います。

 割と良好な反応ですね。とりあえず、うちのでくの坊二人は図書館内で迷子になった失態を挽回してくれたようです。


 ――ただ……。


「この依頼で導き出された答えも地獄分館陣営・久延毘古共に同じじゃのう。――となると、この依頼も引き分けじゃな!」


 過程を重視しない伊邪那美様は、答えが同じならば引き分けにしてしまいます。

 まあ、きっちり引き分けに持ち込んでくれたわけですから、そこは二人に感謝しましょう。

 ついでにティラさんとダイナさんのエサも勘弁してあげます。――代わりに、コンクリ詰めで地獄の火山の火口へ放り込みますが……。


「あれ、何か悪寒が……」


「奇遇ですね、閻魔様。私も今、何やら素敵な未来が待っている予感がしました」


 エテ公と変態が何やら察知しましたが、無視しておきましょう。


 ともあれ、これで二引き分け。

 勝ちも負けも見えない状況というのは、どうにも落ち着きませんね。どうしてもヤキモキしてしまいます。


「同着ゴールで、ここまで二引き分け。残す依頼は最後の一つ……。――これは、否が応でも盛り上がる展開じゃな。ぬふふ。この緊張感、心地よいのう」


 気が気でない私と違って、伊邪那美様は超楽しそうです。

 あのにやけ面に、今は少しばかり殺意を覚えます。


「ではでは、運命を決める最後の依頼、いってみようかのう」


 そう言って、伊邪那美様が私と久延毘古氏に向かって手を差し出します。


(何とかこの三つめの依頼で、勝ちを手繰り寄せることができれば良いのですが……)


 引き分けの場合のルールは決めていなかったので、何とも言えないですけどね。ここで勝たねば、私達に先がなくなる可能性は無きにしも非ずです。

 私は祈るような気持ちと共に、調査結果と当該資料を伊邪那美様に渡しました。


「ほい、確かに。ほれ、久延毘古も」


「…………。……はい。こちらになります」


 私に続き、久延毘古氏も若干間を置いて調査結果の用紙を手渡しました。

 さあ、これで賽は投げられました。

 後は……結果を待つのみです。


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