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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
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まさかの連敗です。

「ここだ。署名の横に、『今日はオレの負けだ。お前達の拳、魂がこもっていたぜ!』とメッセージのようなものが書き添えてあるのだが……。これは、一体どういう意味だろうか?」


「……さあ、何でしょうね? このノートの担当者が、署名者とジャンケンでもしたのではないですか?」


 とりあえず、素知らぬ顔でしらばっくれてみます。

 当然ですが、私は聖良布夢(せらふぃむ)さんとタカシさんが署名者とジャンケンなんて、意味不明なことをするとは思っていません。彼らと署名者の間でどんなやり取りがあったかは知りませんが、十中八九全力で語り合ったのでしょうね――主に拳と拳で……。


 OK。私も地獄分館へ帰ったら、彼らと朝まで存分に語り合うとしましょう。 今から尋問室の予約は取れるでしょうか。


「ふむ、そうか。よくわかった。では、次にこれなのだが……」


 久延毘古氏が次に取り出したのは、兼定さんに預けたノートでした。

 あの変態は、一体何をやらかしたのでしょうかね。


「ここのページに、こんな紙切れが挟まっていた」


「ええと、何々……。『ぶたれ……きもち……いい……』ですか。アハハ。愉快なメモですね」


 どうやらあのドM、八寒地獄でバイオハザードを起こしてきたようですね。

 わかりました。今後被害を拡大させないためにも、帰ったら元不良コンビと語り合う前に、彼を駆除するとしましょう。


(さてはて、何をやったら彼に対して効率的にダメージを与えられますかね……)


 なんて具合に兼定さんの処刑方法を考えていたら、久延毘古(くえびこ)氏が真面目な顔で私に問い掛けてきました。


「それで天野君、この紙切れについて、どう思うかね?」


「いやですね。こんなの、ただの落書きに決まっているじゃないですか」


「このノートの署名を見ると、すべて熱病にうなされながら書いたように文字が歪んでいるのだが――」


「気にしたら負けです」


 これ以上変な詮索をされないように、即行で話をぶった切ります。下手にこの話題を長引かせるのは、私にとって好ましくないですからね。

 もっとも、久延毘古氏にとっては私の反応も予想範囲内だったようです。


 その証拠に……、


「そうか。君がそう言うのならよかろう。では次、このノートだ」


「それは……閻魔様が集めてきてくれた署名ですね」


 久延毘古氏はすぐに次のノートへ持ち替え、更なる攻撃に出てきました。

 この嫌な流れ、先月とまったく同じです。

 苦しい展開に思わず顔をしかめつつ、私は久延毘古氏を睨みつけます。

 対する彼は、私の威嚇に目もくれず、淡々とこちらを攻め立ててきました。


「最初のページに『各自名前を書いて、次の部署に回してね。戻りは閻魔まで』と書いてあるのだが……。よもや回覧物のようにノートを回して、意図を説明しないまま署名を書かせたのではあるまいな」


「……………………。……で、釈明は?」


「いや、仕事が立て込んじゃってさ。それで仕方なく――ぶほっ!」


 閻魔様の顔面に鬼の金棒がめり込みました。

 まったく、どいつもこいつも……。


「本人も反省しているようですので、これで勘弁してやってください」


「ご……ごべんなざい」


 金棒が顔面にめり込んだままの閻魔様を引っ張り起こし、後頭部を押さえて床に額を擦り付けさせます。閻魔様の顔面に刺さった金棒がゴリゴリとめり込んでいきますが、私は気にしません。


「……まあ、それは横に置いておくとしよう。さて、最後はこのノートだ」


「ああ、それは私が使っていた署名ノートですね」


「ほう、これは君が……。なるほど、それで大体わかった」


 久延毘古氏が納得顔で頷きます。

 何でしょうか。バカにされている気がしますね。


「わかったとは、一体何が?」


「ノートに書かれた署名の文字が妙に震えていたり、にじんだりしている理由だ。――大方いつも通り、脅すなりして無理矢理書かせたのだろう」


 なっ! 何と失礼なことを……。

 このオヤジ、私のことを何だと思っているのでしょうか。


「そんなことするわけないじゃないですか。勝手な推測でものを言わないでください。冤罪もいいところです」


 ええ、脅してなんかいません。後ろにティラさんとダイナさんを控えさせていただけです。で、時々景気付けに吼えてもらっただけです。

 なのに、脅迫まがいのことをしたように言われるのは心外と言う他ありません。本当に言いがかりもいいところですよ。


「……やはり、私は君を見くびっていたようだな。まさか行動を改めるどころか、さらに押し進めてくるとは思わなかった。これは確かに、決定を見直さなければならないな」


「それは光栄ですね。――ちなみに、どのように見直すおつもりで?」


「今回の件で、君達を野放しにできないことがよくわかった。よって、三月末で閉館及び解雇の予定を、一カ月早めて二月末にしようと思う」


 まさかの一カ月繰り上げでした。

 信じられません。何考えているのでしょうか、このイカレポンチ。


「横暴です。職権乱用です。地獄分館を代表して断固抗議します」


「このような問題行動を再び起こしておいて、よくそのような戯言を言えるな。ある意味、見上げた神経の図太さだ」


 手に持った署名ノートをパンパンと叩きながら、久延毘古氏が私を睨み付けます。

 くっ! まさか逆転の一手として持ってきた署名が、私達の首を絞めにかかってくるとは……。


「こちらとしては、今日付けで君達を解雇し、地獄分館を閉館にしたいところなのだ。それを最後の情けで、今月末まで待つと言っているのだぞ。――むしろ感謝してもらいたいところだな」


「ウフフ、それはありがとうございます。感謝のあまり、この場であなたに御礼参りしたい気分です」


「わぁああああああああああっ! 宏美君、タンマ、タンマ! それはさすがにマズ過ぎる!」


 閻魔様の顔面から金棒を引き抜いて久延毘古氏に詰め寄ろうとしたら、閻魔様が私を羽交い絞めにしてきました。

 チッ! このセクハラ大王、どちらの味方なのでしょう。久延毘古氏より先に、血祭りに上げてやりましょうか。


「きょ、今日のところはこれで失礼いたします。お騒がせしました~」


「ちょっと何を言っているのですか、閻魔様! 私の話はまだ――モガッ!」


 殺る気満々な私の口を塞いだまま、閻魔様は愛想笑いを浮かべて大会議室から飛び出しました。

 くっ! このまま済むと思わないでくださいね。必ず後悔させてやりますから~っ!


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