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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
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署名を集めに行きます。

「どうかしましたか、閻魔様」


「悪いんだけど、儂は八寒地獄に行っていられないかな。一月は行事も多いから、結構忙しいんだよね」


「……………………。――チッ! ダメ分館長の分際で、いけしゃあしゃあと……」


 無駄に蓄えたその贅肉を、防寒具として存分に活用させてあげようというのに……。

 それを断るとは何様ですかね、このプロセスチャーシュー。こんな状況に陥った原因の一端が自分にあると、本当にわかっているのでしょうか。


「……いや、君の言いたいこともわからんではないのだが、ほら、一月って死者も多いしね。それに地獄の機能が滞ると、それはそれで商議員に付け入る隙を与えるようなものであるわけで……」


 あれこれと言い訳をする閻魔様。

 むう~……。エテ公の話に乗るわけではありませんが、商議員に新たな口実を与えるのも確かに癪なことです。それだけは断固として避けなければなりません。久延毘古(くえびこ)氏が勝ち誇る顔なんて見たくありませんしね。


 仕方ありません。時間がないことを考えれば、ここで閻魔様に無理を言うよりも、別の担当を割り振る方が賢明でしょう。


「わかりました。では、閻魔様は仕事をしながら地獄裁判所と事務局の署名を集めてください。いくら忙しくとも、それくらいはできますよね?」


「ああ、わかった。儂も分館長だからね。それくらいは喜んで引き受けよう」


「――その代わり、一人でも取り漏らしたら体中の毛という毛を一本一本抜いていく刑の処しますからね。心して取り掛かってください」


「オー、イエス。儂、超頑張ります……」


 私の目配せで子鬼さん達が両手に毛抜きを構えます。それを見て取り、閻魔様が逃げ腰になりながら返事をしました。

 よしよし。とりあえずこれで、地獄裁判所と事務局は大丈夫でしょう。


「というわけで兼定さん、八寒地獄には一人で行ってください。頼りにしていますよ」


「承知いたしました。それでは防寒具を用意して――」


「あれ? 何でまだここにいるのですか? あなたの変態的不死身性は八寒地獄の寒さくらいでどうこうできるものでもないのでしょう。さっさとこのノートを持って出発しなさい。はい、ハリーアップ!」


「イエス、行ってきます!」


 恍惚の表情をした兼定さんが、文字通り音速を突破して地獄分館から飛び出していきました。


 ……ふむ。ちょっとエサを与え過ぎたかもしれません。

 あの勢いのまま八寒地獄へ突っ込んで、あちらの獄卒達を吹き飛ばさなければよいですが……。票田が減っては困りますしね。


 まあ、あれも仕事はちゃんとするタイプですから、とりあえず放っておきましょう。


「さてと! とまとさん、ちーずさん、ばじるさん、私達も行きますよ。私達の担当は八大地獄と天国方面です!」


「「「は~い!」」」


 愛すべき部下三人を引き連れ、私も地獄分館を後にしようとします。

 そしたら閻魔様が、私達を引き止めました。


「あ! ちょっと待ってくれ、宏美君。君達がいない間、地獄分館の運営はどうするつもりだい? まさか一カ月近くも図書館を休館するつもりじゃあ……」


「お休みになんてしませんよ。ちゃんと手は打ってありますから、安心してください。もうそろそろ――」


 腕時計で時間を確かめ、入り口の先にある階段を見つめます。すると、階段の上からゴロゴロとたくさんのものが転がってくる音がし始めました。


「――来たようですね」


「へ? 来たって、一体何が……? ――うおっ!」


 階段から転がってきたのは、たくさんの子鬼さん達です。彼らは図書館内に転がり込んだところでパッと立ち上がり、ゾロゾロと私の前に整列しました。


「皆さん、よく来てくださいました。今日から四週間、地獄分館のことをよろしくお願いしますね」


「「「いえっさ~!」」」


 ビシッと敬礼し、大きな声でお返事。ああ、可愛いな~。新人研修の時も、あの変態執事ではなく、彼らに任せれば良かったです。


「宏美君、これはどういうこと? この子達は、地獄裁判所と事務局で働いている子鬼君達だよね」


「こんなこともあろうかと、予め各部署と交渉して、四週間ローテーション制で貸してもらいました。皆さん協力的で、大変助かりましたよ」


「協力的、ねぇ……」


 何か含むような言い方ですね。皆さん、本当に協力的だったんですから。

 ティラさんとダイナさんのお散歩中に頼みに行ったら、「いくらでもどうぞ!」と快く承諾してくれました。


 ちなみに何で私がティラさんとダイナさんの散歩をしているかと言いますと、あの二匹のティラノサウルスがなぜか私に隷属――いえ、懐いているからです。彼らも本能的に、従うべき相手を認識しているのでしょう。


「まあ、各部署の許可を得ているのなら、儂は何も言わないが……。ともあれ、あまり無茶はしないようにね」


「ご心配いただき、ありがとうございます。安心してください。働き過ぎないよう、ちゃんと気を付けますから」


「いや、儂が気にしているのは君の体のことではなく、君が無茶苦茶な手段で署名をもぎ取らないかということなのだが……」


 おやおや、このゴリラは一体何を心配しているのでしょうか。無理やり署名させるなんて非人道的なこと、私がするわけありませんのに。まったく、この単細胞は本当に冗談が好きなんですから。


「アハハ。大丈夫ですよ。この状況下で私がそんな無茶をするわけないじゃないですか」


「ワハハ。そうだよね。いくら君だって、署名をもらうのに、恫喝紛いのことなんかしないよね」


「ええ、そうですよ。もっと私のことを信用してください。――あ、とまとさん、ちーずさん、ばじるさん、龍旋処へ行って、ティラさんとダイナさんを連れてきてくださいな。署名活動がてら、彼らをお散歩させてあげましょう」


「「「は~い!」」」


「ダメだ! 全然信用できない!」


 ウフフ。何をおっしゃるのやら。

 私は単に、日課のティラさんとダイナさんの散歩をするだけですよ。他意なんてこれっぽっちもありませんとも。


「では、今度こそ本当に行って参ります。閻魔様も、ここの署名集めをよろしくお願いしますね。――私、信じていますから……」


「ひ、宏美君の背後で、五大明王がファイヤーダンスしてい――へぶしっ!」


 どうやら閻魔様は、過労で脳みそが退化して幻覚が見え始めたようです。古い方法ではありますが、殴られたショックで元に戻ることを祈りましょう。

 白目をむいた閻魔様を地獄分館前の廊下に捨て置き、私達は意気揚々と署名集めに向かいました。


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