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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
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戦術的撤退です。

「あえて言わせてもらうがね――君は総じて我々のことを侮り過ぎだ」


「…………。……と言いますと?」


「商議員会が上がってきた報告をただ聞くだけの組織だと思っているなら、それは大きな間違いだ。我々も必要と判断すれば、独自に内偵を入れるくらいのことはする。地獄分館についても開店休業となって以来、動向を随時監視し続けてきた。――故に、君達がこの一年、どのようなことをしてきたかはすべて知っているのだよ」


「な……んですって……」


 いけ好かないオヤジこと久延毘古(くえびこ)氏が、小バカにするような態度で私を嘲笑いました。


 クッ! 偉そうにふんぞり返るくらいしか能のない豚共と思っていたのは事実ですが、まさか彼ら自身、そう思われている自覚があったとは……。

 あまりにも情けない自己認識をしている神々に、さすがの私も動揺を隠せません。


 そして、私が動けなくなったこの隙をつき、久延毘古氏の反撃が始まりました。


「まず、君が用意してきた利用者数・貸出冊数の統計について。我々の調査と照らし合わせて考えれば、この増加傾向は本へ興味を持つ獄卒が増えたわけではない。君という存在に対する強迫観念によるものと見るのが妥当だ。実際、君を解雇したらどれだけの獄卒が再び図書館を訪れるだろうね?」


「それは……」


 おそらくそれでもやって来るのは、純粋に興味を持ったと思われる子鬼さんタイプの獄卒達くらいでしょうね。残念ながら……。


「黙ったところを見ると、どうやら君も答えがわかっているようだな」


「あなたの言いたいことはわかります。ですが、今は本に興味を持てていなくても、そのうち本当に本が好きになる可能性は否定できませんよ」


「なるほど。では、天国本館から定期的にブックモービル――移動図書館を送ることにしよう。それで解決だ」


 表情を変えることなく、私の論を封殺する久延毘古氏。


(これは……まずいですね。このままでは押し切られてしまいます。何か突破口を見つけなければ……)


 しかし、久延毘古氏はそんな暇を与えてくれませんでした。彼は矢継ぎ早に次の攻め手を披露し、私へ更なる追い打ちをかけてきました。


「続いて、天国本館での不祥事について。我々の調べによると、君はこの不祥事を起こす一カ月前にも、地獄分館で同じようなことをしていたようだね。これでは我々も、君の再犯率はかなりのものと考えざるを得ない」


 聖良布夢(せらふぃむ)さん一派の件ですね。

 まさかあの件まで調べているとは、恐れ入りました。動向を逐一把握していたというのは、伊達じゃないようです。


「ですが、あの時きっちりシメた――いえ、説得したおかげで、不良だった彼らを更生させることができました。これも一種の利用者教育です」


「それは結果論でしかないだろう。第一、どのような理由があろうと利用者に手を上げてはならない。利用者教育というなら、まず言葉で諭すことを考えたまえ」


「いや、手を上げたのは正当防衛でもあったわけでして……」


「記録を見る限り、君からけしかけたように見えるが?」


「『けしかけた』だなんて人聞きの悪い。ちょっと先手を取って、交渉と説得を有利に進めただけです」


「先に動いた段階で君が悪い」


 正に立て板に水。こちらが何を言っても、即答でつぶしにかかってきます。

 よくもまあ、あそこまでスラスラと一刀両断できるものです。血も涙もありませんね。神様というより悪鬼羅刹ですよ、この下種野郎。


「ダンタリオン氏の件についてもそうだ。聞けば新人研修の際に弱みを握り、それを使って脅したそうじゃないか」


「弱みなんてとんでもない。オカマメイドカフェ謹製ダンタリオン氏特別写真集『メイドな私を見て♡』(非売品)です。ダンタリオン氏の大切なメモリーですよ」


「……………………」


 おや? 今まで鉄面皮だったのに、何とも言えない微妙な表情になりましたね。

 もしかして、コスプレ写真集に興味があるのでしょうか? 興味のある先がメイドなダンタリオン氏かメイドコスそのものかは知りませんが、キチガイなのは態度だけにしてほしいものです。


「い、いや、あれはダンタリオン氏に哀悼を捧げているんだと思うよ……(ガクリ)」


 一瞬だけ復活した閻魔様が、かような言葉を残して再び倒れました。

 話すだけの余力があるのなら、「もっとまともな助言をよこせ!」と言ってやりたいところです。これだからゴリラは……。


「ゴホンッ! ――ともかく、これで君もわかっただろう。今更君が何を言ったところで、商議員会の決定を覆す程の説得力を持ち得ない。わかったら我々の決定に従って、閉館の準備でも始めたまえ」


 これ以上、茶番に付き合うつもりはない。久延毘古氏は纏った雰囲気で言外にそう語りながら、手元にある書類へ視線を落としました。


(さすがに、この状況からすべてをひっくり返すことはできそうにないですね……)


 私だって引き際くらいは弁えています。今は完全な敗北を回避するためにも一時撤退するべき時です。


「……わかりました。今日のところは大人しく引き下がります」


 いまだに気絶している閻魔様の首に縄を括り付け、さっさと帰り支度を整えます。

 撤退すると決まったら、善は急げです。


「けど、このままで終わると思わないでくださいね。私は必ず、地獄分館の閉鎖と私達のクビを撤回させてみますから」


 最後に宣戦布告とも取れる捨て台詞を残し、私は何やら苦しそうにジタバタ暴れる閻魔様を引きずって、大会議室を後にしました。


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