聖誕祭が処刑祭になりました。
12月25日。
現世的に見ればクリスマス当日です。
「さあ皆さん、ケーキの用意ができましたよ」
「「「わ~い!」」」
現世でクリスマスが一般化した昨今、あの世にもこの文化は逆輸入されています。
というわけで、私と子鬼さん達もケーキを用意して、三時のおやつがてらミニクリスマスパーティーです。
事務室のミーティングテーブルに、天国でおいしいと評判のショートケーキを並べ、準備完了。
みんなで楽しくケーキを食べようとした――その時です。
「おーい、宏美君。今、ちょっといいかな?」
「……チッ!」
「「「……ちっ!」」」
「ちょっ! 何でまた舌打ち? しかも今日は子鬼君達まで! 儂、何かしたかな?」
私達のささやかなパーティをぶち壊しにしたゴリラが、完全アウェーな雰囲気にオロオロし始めました。
フフフ……。この愚か者は、もっと自分の罪深さを自覚すればいいのです。
「あ、あの~、宏美君。もしかして、超怒ってる? 笑顔の裏にどす黒いオーラと般若の面が見えるんだけど……」
アハハ。何のことやら。
「安心してください。怒ってなんかいませんよ。――時に閻魔様、最近面白い占いの本を購入したのですが、やってみませんか? とても好評で何度も貸出されているんですよ」
「と、唐突だね……。まあいいや。せっかくだし、やってみようかな」
「わかりました。では……」
カウンターからちょうど返却されたばかりだった占いの本を取ってきます。
さて、どの占いにしたものか……。――ああ、これにしましょう。
「では閻魔様。この占いには下準備が必要ですので、今から私の言う通りにしてくださいね」
「何だか本格的だね。わかったよ。どうすればいいのかな?」
「ええとですね……。まず頭部の皮を剥ぎ、頭蓋骨をドリルとのこぎりで取り外してください」
「はいはい。頭部の皮を剥いで、頭蓋骨を外すんだね。了解、了か…………じゃない! そんなことしたら儂、あの世なのに死んじゃうよ! 何この占い!」
「採れたて頭蓋骨の骨卜占いですよ」
「やっぱり怒ってる! というか、よく見たらその占いの本、『拷問占い大全』とか書いてあるじゃない! 君、儂を拷問する気だったの?」
私が持つ本のタイトルを覗き見て、閻魔様が喚き散らします。
ちょっとしたお茶目なのに、ピーチクパーチクとうるさい人ですね。そのままじゃんじゃん血圧を高めて、脳卒中でも起こせばいいのに。
しかし、歳の所為か全身に溜まった贅肉の所為か、閻魔様の勢いは長く続かず、すぐに息も絶え絶えになってしまいました。……残念。
「ハア……ハア……。にしてもこの本が人気って、地獄もいよいよヤバくないかな」
「いや、むしろ正常なんじゃないですか? ここは人に責め苦を与えて、現世での行いを悔い改めさせるところなわけですし」
「あ……。言われてみればそうだった」
適当に言ってみたら、妙に納得されてしまいました。
単純です、この上司。さすがエテ公と呼び慕われるだけのことはあります。
さて、閻魔様をいびるのもこのくらいにしましょう。いい加減ケーキを食べたいところですし、そろそろ本題に入ってもらいますか。
「で、今日は一体どんな御用ですか? 少しでも納得できない答えをしたら消しますから、心して答えてくださいね」
「え、笑顔が怖いよ、宏美君……」
「あまり待たせるようなら、強制的に採れたて頭蓋骨の骨卜占いを再開しますよ?」
私の言葉に合わせるようにとまとさんがバリカンとメス、ちーずさんがドリル、ばじるさんがのこぎりを構えました。なお、麻酔は用意がないので今回は無しの方向で。
それを見た閻魔様は、「すぐ言います!」と声を裏返らせながら、即座に居住まいを正しました。
「それではどうぞ」
「実は……」
何だか言いにくそうな表情で、閻魔様がまた押し黙ってしまいました。
どうしたのかと思いつつ子鬼さん達に合図を出す準備をしていたら、閻魔様は意を決したように私の目を見て、こう言いました。
「ゴメン! この間の商議員会で、地獄分館が閉館されることになっちゃった。で、それに合わせて宏美君達もクビだってさ。テヘッ☆」
おどけた様子で舌を見せる閻魔様。
ハッハッハ。
なるほど、なるほど。この地獄分館が閉館ですか。しかも、私達はクビですか。
それは何ともかんとも、大変面白い話ですね。アハハハハ。
「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん。このアホを簀巻きにして、ティラさん・ダイナさんと異文化異種族交流させてあげましょう」
「「「お~っ!」」」
「ぎゃああああああああああ! 待って、待って、待って~! お願いだから、儂の話を聞いてくれ~!」
「有罪。処刑」
満面の笑顔で、閻魔様の陳情を却下します。
この日、地獄裁判所にゴリラの野太い悲鳴が響き渡りました。




