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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
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ゲストさん、大活躍です。

 ドスンドスンという大きな足音を響かせ、ゲストがコースを走っていきます。社蓄共に続き、ゲスト達の姿を見送った私は、「よしよし」と頷きながら次の行動に移りました。


「さて、それでは彼らを追いかけるとしましょう。皆さん、準備は良いですか?」


「ししょー、きんとうん、おーるぐりーん!」


「いつでもとべる~!」


「ご~、ご~!」


「わかりました。では、いきましょうか」


 用意してあった筋斗雲(中国天国仙人(せんにん)公司(カンパニー)製、輸入品)に乗り込み、すぐに離陸。もはや地平線の彼方へ走り去った職員達とゲストを追います。


 それにしても快適な乗り物ですね、これ。

 静かで揺れず、何より速い。最高です。


 さて、飛び立ってしばらくすると、このような声が聞こえてきました。


「何だ、この地響きは!」


「お、おい! 後ろを見ろ!」


「あ……あれは……」


 どうやらゲストが社蓄達の下位グループを捉えたようです。

 ドスンドスンと地鳴りを起こしながら近づいてくる二頭のゲストを目に留め、社蓄共がまるでギャグマンガのように目を見開き、顎を落としました。


「「グルルルルルルァッ!」」


「「「ティラノサウルスだーっ!」」」


 諸手を上げ、全力疾走で逃げ出す社蓄共。

 彼らを後ろから、歓喜の雄叫びを上げて追いかけるティラノサウルス。

 アハハ。愉快、愉快。


「いや~、驚いてる、驚いてる」


 追いかけっこを筋斗雲の上から眺め、私は『ドッキリ大成功!』のプラカードを掲げながらほくそ笑みました。

 そう。これこそが、私の仕掛けたサプライズ。皆さんに大ハッスルしてもらうために画策した、スリル満点の粋な計らいというやつです。

 まあ、油断するとガチで食われますが……。


「皆さーん、驚いてくれましたかー?」


 持参した拡声器を使い、全力疾走で逃げる職員達に声を掛けます。

 上空にいる私に気付いた社蓄共は、一斉に騒ぎ始めました。


「てめーっ! やっぱりこれ、てめえの仕業か!」


「なんつうもん連れて来てやがんだ! 殺す気か!」


「つうか、俺もそれに乗せてください、マジで!」


 皆さん楽しんでくれているようで何よりです。

 なお、今回のコースですが、ほぼすべて崖道、もしくは谷底の道です。

 地滑り・崖崩れの心配はなく、道幅自体もそれなりにありますが、ゴールまでの全行程において逃げ道なし。余すことなくこのスリルを味わい尽くせる仕様となっています。


 ――おや? そうこうしている内に最初のチェックポイントが見えてきましたね。


 チェックポイント付近は、まだクイズに正解できていない百名近い社蓄共でごった返しています。

 その端にいる羅刹さん数名が、視界の片隅にティラノサウルスの姿を捉えました。


「うぉ! 何だあれ、ティラノサウルス?」


「お、おい、やべえぞ! さっさと問題解かねえと――リアルに食われる!」


「ちくしょう! シンデレラは一体何を城に落としていったんだ!」


 皆さん、クイズに苦労しているみたいですね。

 あいつら、職場をシンデレラ城に改装したくせに、何で元ネタの童話を知らないのでしょう……。


 ただ、この集団に子鬼さん達の姿は見受けられません。皆さん、無事に正解したようですね。

 あの愛くるしく素直な子鬼さん達がいないなら、残りはどうなろうと知ったことではありません。良かった、良かった。


「ちょっ! 宏美君、何てものコースに放ってるの! ――ていうか、もしかしなくても儂が一番ピンチ!」


 職員達に交じって、チェックポイントの監視員である閻魔様も何か喚いていますね。

 全員が通過しないと監視員は撤収できませんから、ある意味当然ですけど。


「閻魔様、ファイト~」


「うわっ! 心にもない応援!」


 なお、チェックポイントの前には特殊な装置が設置されていて、クイズを正解せずに通ろうとすると、高圧電流が流れる仕掛けとなっています。

 これもメイド・イン・兼定さんです。どういう仕掛けか聞いたら何やらオーバーテクノロジーじみたことを言っていましたが、あの変態がすることですから今更驚きません。


「おい、全員で手分けして正解を探すぞ!」


「おう! じゃあ俺は一ページを読む!」


「なら、オレは二ページだ」


「いや! もうこの際だから、儂が正解を教え――ぎゃああああああああああ!」


 ウフフ。閻魔様ったら、ダメですよ。ズルをしようとしたら、装置から監視員の腕章に雷が落ちてしまいますからね。


「あった! みんな、五十六ページだ!」


「よくやった、同士よ! ――では諸君、いくぞ! せーの……」


「「「ガラスの靴!」」」


「せ……正解……」


 真っ黒こげになった閻魔様が、這う這うの体で丸印のプラカードを上げます。

 にしても、野太い声で『ガラスの靴』と合唱する鬼達って、シュールですね~。


「よし! 全員、全速前進!」


「「「オーッ!」」」


「ぎゃああああああああああ! 儂を踏んでいくな~!」


 鬼達に踏まれて蹴られて、ズタボロのボロ雑巾になった閻魔様がコースに転がります。

 私、リアルに踏んだり蹴ったりな人、初めて見ました。


 ――ん? おやおや?


「閻魔様~、後ろ、危ないですよ」


「へ? ――ほぎゃ!」


 私の忠告を聞いた閻魔様が、音速の壁を越えて後退ります。

 直後、閻魔様が元いた場所をティラノサウルスの牙が通り過ぎました。


「お~た~す~け~!」


「閻魔様~、頑張って~」


 閻魔様って、ブタみたいに肥えている割には素早いですよね。ティラノサウルス達の牙を機敏に躱しています。

 まあ、この分なら食われることはないでしょう。

 筋斗雲の上からハッスルする上司へエールを送り、私は先を急ぐことにします。


「ちょっ! 宏美君、儂も乗せてよ! ――うぉ! 牙かすった!」


「ダイエットですよ~、閻魔様。では、私達は先を急ぎますので~」


「この人でなしーっ! ――うぎゃああああああああああ! た~べ~ら~れ~る~っ!!」


 ティラノサウルスとじゃれる閻魔様を微笑ましく見守りつつ、私達は筋斗雲のスピードを上げました。


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