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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
34/63

ここからは、本気の読み聞かせです♪

「こぶを付けられたいじわる爺さんは、泣きながら帰って行きましたとさ。おしまい……」


 ――パチパチパチパチ!

 こぶとり爺さんを読み終えると、これまでで一番大きな拍手が多目的室を満たしました。


 言わずもがな、子鬼さん達の拍手です。

 どうやらこのおはなし会という企画は、彼らにとってかなりツボにはまるものだったようですね。近くの仲間といっしょにワイワイキャッキャと騒ぎながら、惜しみない拍手を送ってくれています。


 いや~、称賛というものは何度浴びても気持ちが良いものですね。子鬼さん方、グッジョブです!


(それに引き換え、他の鬼共ときたら……)


 子鬼さん達が集まった区画から視線を外し、他の鬼共へ目を向けます。そこで繰り広げられている光景に、私はニッコ~と笑みを深めました。

 椅子にふんぞり返って、高いびきを掻いている赤鬼と青鬼。

 おはなし会そっちのけで、ゲームの通信対戦を始めた天邪鬼達。

 こちらには一瞥もくれず、スマホを一心不乱にいじり続けるサラリーマン風人型鬼。

 etc.etc.……。


(ウフフフフ……)


 最初は様子を見ようかと思いましたが、連中の度胸を買うことにしましょう。

 ここからは……こちらも本気で行きます。


「ええ~、それでは次のお話に――といきたいところですが、退屈されている方も多々いらっしゃるご様子……」


 朗読にまったく耳を傾けていなかった連中が、私の言葉に耳を傾け始めます。

 アハハ! 連中の顔、揃いも揃って『わかっているなら帰らせてくれ』と書いてありますね。

 おや、ブーイングを始めた輩もいますか。

 ウフフ。皆さん、元気ですね。……反省の色、まったくなしです。


「そこで、ここからは趣向を凝らしまして……」


 言葉に合わせ、パチンと指を鳴らします。

 コンマ二秒で我が愛すべき部下、子鬼三兄弟が姿を現しました。


「……刺激に満ちた大人のおはなし会を始めましょう」


 ニヤリと三日月型の笑みを浮かべ、私はもう一度パチンと指を鳴らしました。

 それを合図に、とまとさんが手に持っていたリモコンのようなものを操作します。


「うわっ! 何だこれ!」


「椅子からベルトが!」


 子鬼さんエリア以外のところから、驚きとも悲鳴とも取れる声が上がります。

 突然椅子からベルトが伸びてきて手足を拘束されたのですから、驚くのは当然ですね。

 これぞ、子鬼三兄弟、兼定さん、元不良コンビが夜なべして製作した、おはなし会用特製リクライニングチェアです。様々な機能を搭載してあり、座っている者の意志を問わずにおはなしを聞くサポートをしてくれます。


 ――って、おや? さっきまで高いびきを掻いていた赤鬼さんが、自慢の膂力を活かしてベルトを引きちぎろうとしていますね。

 あらあら、そんな無茶をしたら……。


「あ、気をつけてくださいね。それ、無理に外そうとすると……」


「のおおおおおおおおおおっ!」


「高圧電流が流れますから。――って、遅かったですね」


 煤で赤から黒に変わった元赤鬼さんを見下しつつ、クスクスと笑います。

 今までギャーギャー騒いでいた一同も、まるで借りてきた猫のように大人しくなりました。とても良い心がけです。


「では、次のおはなしへ行きましょうか。――あ、そうそう。皆さんが座っている椅子、視線感知機能や脳波計測機能、重量感知機能、その他各種センサーが搭載されていますので、あしからず。私のおはなしから気を逸らすと、ちょっと刺激的な世界にトリップできますよ」


「「「ちょっと待て!」」」


 私の言葉に反応して、会場の中からノリの良さそうなのが三人くらいツッコミを入れてきました。……全員ご丁寧に立ち上がろうとした上で。

 あらら。重量感知機能もあると、忠告したばかりですのに。


「「「ぎゃああああああああああ!」」」


 早速、重量感知センサーが反応。立ち上ろうとした三人の椅子から針が飛び出し、彼らのお尻を突き刺しました。

 うわぁ……。見ているだけで痛そうですね。


「だから言ったじゃないですか。地獄裁判所が誇る最高の変態がプロデュースした椅子ですからね。彼が自ら実験体となって調整した甲斐あって、その椅子のセンサーは超高性能です。匠の技というやつですね。下手なことをしていると、本当に新しい世界が見えてしまいますよ」


 今度こそ、社蓄共は微動だにしなくなりました。もはや借りてきた猫というよりは、物言わぬ石像です。

 ああ、子鬼さんエリアは別ですよ。彼らは目をキラキラさせて、ドキドキワクワク状態で次のお話を待っています。これはこれでうれしいですね。


 ――って、うん?


 あらまあ! よく見れば社蓄共、背筋までピンと伸ばして、おはなしを聞く準備万端ですね。

 やっぱり皆さん、何だかんだ言ってもおはなし会に興味があったということなのでしょう。まったくここの社蓄共は、ツンデレさんばかりなんですから~♪


「では改めまして、二本目のおはなしにいってみましょう。二本目のおはなしは『泣いた赤鬼』です。――はい、拍手!」


 ――パチパチパチパチパチパチッ!!


 多目的室全体に割れんばかりの拍手が鳴り響きます。いや~、鳴り止まない拍手に心が洗われる気分です。


「はい、ありがとうございます。私、今とっても気分がいいです」


「くっ……。何なんだ、この鬼畜女。まったくぶれねえ……」


「この女、本当に半年前まで現世で人間をやっていたのか? 可愛い顔して、中身は俺達よりもよっぽど清く正しく地獄の厳しさを体現していやがるじゃねえか……」


「今の現世は、萌えと猫耳とメイドに満ちたパラダイスだと思っていたのに! こんなのが蔓延る生き地獄だなんて……あんまりじゃねえか、ちくしょう……」


「……あら、いけない。手が滑りました」


 ポチっとな。


『がふっ!』


 とまとさんから受け取ったリモコンのボタンを操作すると、会場から三つの短い悲鳴が響きました。

 見れば、三人の鬼達が頭にボーリング玉を受けて気絶しています。

 運が悪かったですね。まさか装置の誤作動が起こるなんて。


「では、今度こそ始めます。――昔々、山の中に一人の赤鬼が住んでいました……」


 まるで戦場にでもいるように張りつめた緊張感の中、私は朗々と次の読み聞かせを始めました。


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