表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
33/63

おはなし会を始めましょう。

 10月27日。読書週間の一日目。


「これより黄泉国立図書館地獄分館主催の読書週間企画、おはなし会を始めます」


 ――パチパチパチ……。


 おはなし会の会場、地獄裁判所の多目的室にまばらな拍手が響きました。

 読書週間の前半、27日から31日までの平日五日間は、おはなし会の開催期間となっています。この期間は終業後に毎日、おはなし会を開く予定です。


 以前も話した通り、地獄の住人はとことん本と縁遠い生活を送っていますからね。いきなり「本を読め!」と言っても、読書の下地がない彼らにそれは無理な話です。せいぜい本を枕にして、居眠りし始めるのが関の山でしょう。時々、聖良布夢(せらふぃむ)さんもやっていますし。


 そこで、このおはなし会の出番です。自分で本を読めない人でも、おはなしを聞くことならできますからね。――ええ、できるはずです。私、獄卒の皆さんを信じています。あなた達は、やればできる子です。……裏切らないでくださいね、私の期待。

 まあ、仮に「できない」と言われても聞かせますけど……。そのために、実行委員の皆さんにあれやこれや準備してもらったのですからね♪


 ――と、それは置いといて……。


 要するにこのおはなし会は、獄卒方が本や物語と触れ合う機会を作ることが目的なのです。正に千里の道も一歩からですね。

 できないなんて諦めずに、小さなことからコツコツ積み上げる。大事なことです。私は天才肌なので、こんな面倒くさい努力をしたことはありませんが。


 本日の参加者は、大体六十人。無作為抽出された職員の、およそ五分の一です。

 兼定さんや元不良コンビと同じ人間タイプ、とまとさん達と同じ子鬼タイプ、他にもステレオタイプの赤鬼・青鬼など、色んな鬼が一堂に会しています。おかげで会場は、鬼の博覧会といった様相ですね。ある意味、壮観です。


 ちなみに今回の読書週間へ参加することになった職員は、この五日間のどこかで必ず一回、おはなし会に来てもらう予定です。

 なお、おはなし会の欠席は許されません。というか、許しません。万が一サボりが発覚した日には……ウフフフフ……。


 ――おっと、いけない。


 今は、おはなし会に集中しなければいけませんね。

 私は、本日の参加者である社蓄の皆さんへ、最高の営業スマイルでふわりと微笑みかけました。


「今回のおはなし会で朗読するのは、『こぶとり爺さん』『泣いた赤鬼』『恐山のおどり鬼』の三作品です。皆さんに親しみを持ってもらえるよう、鬼が登場する作品をチョイスしました。最後まで楽しんでくださいね」


 再び、パチパチパチ、とまばらな拍手が起こります。


 なお、拍手をしてくれているのは、もっぱら子鬼タイプの鬼さん達です。うちの子鬼三兄弟もそうですが、子鬼さん方は素直ないい子が多いようですね。今回のおはなし会も積極的に参加してくれています。


(だというのに……)


 首をめぐらせ、子鬼さん方以外に目を向けます。

 他の鬼さん達は仕事終わりに妙な催しに付き合わされて、テンションダウン状態といったところなのでしょうか。大人しく椅子には座っていますが、全員心底つまらなそうな顔をしています。


 フフフ。私を前にしていい度胸していますね、この社蓄ども。

 まあいいです。終わる頃には、涙を流しながら拍手喝采させてやります。


「では、『こぶとり爺さん』から始めましょうか。――昔々、あるところに……」


 民話集を片手に、私はよく通る素敵なソプラノボイスで朗読を始めました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ