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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
32/63

夜はこれからです。

「ふぃー……。食った、食った。あざーす、閻魔様」


「うぃー、苦しい。もう入らねえ。閻魔様、ごっそさんです!」


 閻魔様のお金で食べたいだけ食べ、決起集会という名の宴会もお開きです。

 居酒屋を出ると、聖良布夢(せらふぃむ)さんとタカシさんが、支払いを終えた閻魔様に深々と頭を下げました。

 この二人、不良というレッテルが外れたら、無茶苦茶いい子ですね。


 対して閻魔様も、「ああ、うん。いいよ、これくらいどうってことないから」とできる上司風な態度で二人に応じています。

 まあ、あのゴリラもちゃんと財布としての役目を果たしてくれましたしね。少しくらいはカッコつけさせてあげましょう。


 さてと! この二人は(﹅﹅﹅﹅﹅)ここで解散ですし、私も挨拶しておきましょうか。


「お二人とも、読書マラソンの準備と運営の手伝い、よろしくお願いいたしますね」


「任せてください! オレ、精一杯頑張るッスよ、姐さん!」


「食わせてもらった分とバイト代の分は働くさ」


 殊勝な返事を残し、二人は夜の街へと消えていきました。結構きついバイトだと思いますけど、この分なら大丈夫そうですね。

 ――と、彼らのことはいいとしまして、ここからは……大人の時間です。


「じゃあ宏美君、儂らもここで解散ということでいいかな?」


「はい? 何を言っているのですか、閻魔様。――今日は帰しませんよ。ウフフ……」


「ハッ! 今、とてつもない寒気が! ――くっ!」


 猛獣の気配に気づいた草食獣のごとく、機敏なスタートダッシュを切った閻魔様。メタボ体型なのに意外と身軽ですね、このゴリラ。

 ただ――今回は相手が悪かったですね。


「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん……捕えなさい」


「「「お~!」」」


 私がパチンと指を鳴らした瞬間、子鬼さん達が訓練された兵士の動きで閻魔様の捕獲に動きます。


「ぬおっ! き、君達、いつの間にこんなにも洗練された動きをできるようになったのだ! ――だが、儂は負けん! 儂は……生き残る!」


「生き残るも何も、ここは死者の世界ですよ、閻魔様」


「ハッ! 今世紀最大の殺気が……。――ぎゃああああああああああ!」


 子鬼三兄弟の動きに気を取られた閻魔様を、私が投げ縄で見事にキャッチ。お縄になっても「嫌だ~、行きたくない~!」と喚く閻魔様を、ズルズルと引っ立てます。


「いっそ殺せ~!」


「まあまあ落ちついてください、閻魔様。ほら、私は何もしませんよ」


 錯乱気味の閻魔様に、聖母のような笑顔を浮かべて語り掛けます。


「ほ……本当? 本当に何もしない……?」


「ええ。もちろんです」


 チワワのように目をウルウルさせた閻魔様に向かって、天使の微笑みで頷き返します。

 ええ、私は何もしませんとも。だって……。


「だって、せっかくの金づるに逃げられたら――この先の飲み歩きができなくなっちゃいますからね♪」


「ちょっ! 君、まだ儂に(たか)る気か!」


「さあ閻魔様、夜はまだ長いですよ。しっかりエスコートしてくださいね」


「ぎゃああああああああああ! 鬼! 悪魔! 儂は帰る~!」


「喚かない、喚かない。……あんまり聞き分けがないと――本当に墜としますよ?」


「…………。……さあ行こうか。たまには部下達との交流も大事だからね」


 耳元でこそりと囁いてあげたら、閻魔様は急にキリッとした表情になりました。

 縛られたままカッコつけられても、全然決まりませんね。むしろ、滑稽です。

 ですが、話はまとまりましたし、よしとしましょう。従順なのはいいことです。


「さあ皆さん、それでは二次会へ行きますよ」


「「「お~!」」」


「ああ、宏美さん。ならば私、いいお店を知っていますよ。値は張りますが、良いお酒を数多く取り揃えたお店です」


「君ら、本当に容赦ないな!」


 閻魔様の魂の叫びを、全員「アハハ」と笑って流します。

 これも地獄クォリティ。


「では、レッツゴー!」


 ガヤガヤと賑やかに騒ぎながら、私達は夜の街へと繰り出すのでした。

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