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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?
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舞台裏:閻魔様と兼定さんの会話 その2

「……ねえ、兼定君。君達さ、もうちょっと別の手段で利用者対応できなかったのかな」


 夏のとある日。儂は天国本館から返ってきた兼定君へ苦言を呈していた。内容はもちろん、彼らが天国本館で仕出かした問題行動についてだ。


 だが……。


「おや、もしかして閻魔様は、人間電磁砲よりも人間大砲の方がお好みでしたか? さすがは閻魔様です。良い趣味をしていらっしゃる。確かに人間大砲の方には、古式ゆかしい情緒と呼べるものがありますからね。例えるのなら――そう。夜空に咲いて散る、花火のような……。人間大砲は正に日本人の心、『わびさび』を体現した素晴らしい代物です」


 ジト目で非難する儂を意に介さず、兼定君は飄々と的外れなをキチガイ発言を垂れ流しながら、淹れたてのお茶を差し出してきた。

 この男も大概面の皮が厚い。宏美君の影響を受けてか、その方面が異様に鍛えられているのかもしれないな。頭の痛い話だ。


「いや、儂が言いたいのはそこじゃないからね。利用者対応を肉体言語から始めちゃいかんでしょ、ってことを……」


「閻魔様ともあろう御方が、何をおっしゃっているのですか。この世界には、肉体言語でなければ伝わらないこともあるのですよ。痛みとか、それに伴う快感とか!」


「いやいや! それは伝える必要のないものだから。第一、そんなの伝えて君みたいなのが増えても困るから。儂が言いたいのは、もう少し言葉で意志を伝える努力をしろってことだよ!」


「確かに閻魔様がおっしゃることとも、もっともです。言葉で罵られるのには、肉体の接触では得られない精神的な刺激と快楽が――」


 この秘書官、儂の話を聞きゃしない。

 ……いや、違うか。話は聞くけど、解釈の仕方がひどすぎる。前からこういった節があったけど、宏美君が来てからは特にひどくなった気がする。

 というか兼定君、宏美君に影響されすぎだろ!


 当の宏美君に至っては「閻魔様、聞いてください。私、また不良を更生させてしまいました」とか言って、さっさと地獄分館に戻ってしまうし……。

 さすがの儂も、呆気にとられて何も言えなかったよ。

 あれ、自分の行いの正当性をまったく疑ってないね。あの子、本当にどうして天国に行けたのだろう?


 ――って、あれ? 儂の側近って、もしかしてマトモなのが一人もいないんじゃ……。


「時に閻魔様。私、地獄分館の留守番中に思ったのですよ。誰も来ない場所で完全放置プレーというのも、なかなかに心踊る好シチュエーションなのではないかと――」


 マトモでない部下その一が趣味の世界に入ってしまったので、急いで耳栓をする。趣味にかまけた彼が吐き出す言葉は、すでに精神汚染物質の域に入っている気がするんだよね。

 あと兼定君、地獄分館を『誰も来ない場所』なんて言っていると、宏美君に消されるよ。死後の世界なのに、さらに死ぬことになるよ。


 ともあれ、こうなってしまっては儂にも制御不能なので、彼の気が済むまで妄言を吐き出させておくとしよう。

 そう心に決めた儂は、手に持った湯呑へ視線を落とした。

 お茶に映った自分の顔を見つめつつ思い出すのは、昨日あった商議員会のことだ。


(昨日の商議員会は、色々とややこしかったなぁ……)


 思わず「はあ……」と深いため息を漏らす。ややこしかったのは、宏美君達に対する見解だ。

 まず菅原館長に関して言えば、何と今回の件で宏美君達をいたく気に入ったらしい。


 立場的に説教せざるを得なかったが、真面目一辺倒な草食系ばかりの黄泉国立図書館には、彼女のような型破りな司書も必要だ。

 会議が終わった後、館長は儂にそう力説してくれた。

 館長も昔は雷神として現世でブイブイ言わせていた人だから、何がしかのシンパシーを感じているのかもしれないね。彼女を『型破り』くらいのレベルで済ませていいのかは甚だ疑問ではあるけど、好意的に受け取ってもらえたこと自体は有り難い。


 とはいえ、宏美君の存在を面白く思わない方々も当然ながらたくさんいたわけで……。


「今回の件を受けて、商議員の神々が何やら不穏な動きを見せておったしなぁ~。良くないことが起こらなければよいのだが……」


 地獄分館にとって良くないことが起これば、必ず宏美君が何かやらかす。

 そうなれば必ず兼定君も一枚噛みに行くだろう。他にも子鬼君達や、最近地獄分館に入り浸っている学生君も追随するだろうし……。

 これだけの面子が本気で何か仕出かしたら、どんな災害、二次災害が起こるかわかったものじゃないよ。

 火消しをしなければならない立場としては、本当に勘弁してほしい。


 兼定君が淹れてくれた茶を啜りつつ、儂は『どうか何事も起こりませんように……』と、ここ数百年で一番必死に神へ祈るのだった。


 いや、ホント何もしないで下さい! でないと、儂の胃に穴が開くことになりそうですので……。頼みますよ、商議員の神様方!


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