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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?
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私の犬笛はとんでもないものを呼び寄せました。

 昼休みを挟んで実習再開です。

 午後の実習その一は、書庫で出納・配架業務。この実習は午前とは別の意味――具体的には肉体的な意味で大変な業務でした。


 備え付けられたプリンターから次々と吐き出される、利用申請書のコピー。本専用の運搬機から続々と運ばれてくる、利用済みの本入りコンテナ。これらが休みなく、次々と私達がいる書庫に届くのです。


 申請書を片手に本を取ってきたら、次は返ってきた本を台車に乗せて配架。それが終わったら、また申請書を持って本の出納……。そんな具合に、私達は実習時間中ずっと書庫内を走り回る羽目になりました。


 私のような華奢(きゃしゃ)で非力な女性には、実に酷な仕事でしたね。明日は筋肉痛確定ですよ。シクシク……。


 加えて、今日は普段以上に利用依頼が多い(石上さん談)ということもあって、途中からはいよいよ業務が回し切れなくなってしまいました。

 私達A班、最大のピンチです。


「……やむを得ません。ここは最後の手段です!」


 研修とはいえ、私がいながら業務が回らなくなったとあっては、末代までの恥。

 私は懐から特別製の犬笛を取り出し、思いきり吹きました。


 すると――。


「お呼びですか、宏美さん」


 みんなの頼れるドM犬、兼定さんが登場しました。

 どういう理屈で彼が私の吹いた犬笛の音を聞き付けたのかは秘密です。と言いますか、私も知りません。知りたくもありません。思念さえもキャッチする彼のドMセンサーに、不可能はないというところなのでしょう。


 ちなみに、私が犬笛を吹いてから彼が現れるまでおよそ十秒でした。その間に地獄分館の戸締りまで済ませてきたそうですから、いよいよ時空間を超越し出しましたね、この変態。


 まあ、どんな超常現象を使ったにせよ、今大事なのは兼定さんがここにいるということ。彼の力があれば、勝ったも同然。百人力です。


「兼定さん、よく来てくれましたね。さあ、お仕事ですよ。馬車馬も土下座する勢いで、そこの本を片付けてきてくださいな」


「わかりました。お任せ下さい! ――ですが……できればもっと傲岸不遜に、虫けらを見るような目でお願いします!」


「あれ? 何でまだここにいるのですか? 目が汚れるので、さっさと私の視界から消えてください」


「イエス、女王様! 行って参ります!」


 ご褒美をもらった変態駄馬が、残像を残す勢いで書架の間に消えていきました。

 最近ちょくちょくこき使っていた所為か、もう軽い言葉だと刺激が足りなくなってきたようですね。クズ執事の分際で、何と生意気な……。今度嫌がらせで、思いっきり褒め殺してやることにしましょう。


 ともあれ、最終兵器を手に入れたことで、私達の負担は一気に軽減されました。

 目が回る忙しさから解放され、優雅に書庫での実習を終えた私達は、最後の業務体験である閲覧室の巡回へ向かいます。


 そこで、ストレス解消用のカモがネギを背負って――あ、やばっ! 間違いました。言い直し、言い直し。

 ええと、そこで実に厄介極まりないトラブルが、私達を待ち構えているとも知らずに。ウフフフフ……。


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