天国本館に到着です。
「宏美殿、着きましたよ。こちらが黄泉国立図書館天国本館です」
「これが、本館ですか……。やはり大きいですね」
石上さんが示した建物を見上げ、私は感嘆の声を上げました。
みんなでバスに揺られること十分。辿り着いた天国本館は天国庁本庁舎の裏手に位置していました。
ちょうど、国会議事堂の裏手に位置する国立国会図書館みたいな位置関係ですね。実用性を考えると、このような配置が一番ということなのでしょうか。
「天国本館は旧館と新館の二棟からなっています。旧館は地上六階地下二階建て、新館は地上四階地下二階建てです。敷地面積は、現世にある東京ドーム三個分といったところでしょうか」
旧館の職員入口に向かう道すがら、石上さんが天国本館の概要を教えてくれます。
閻魔様も地獄分館に向かう道中に地獄分館の説明をしてくれましたが、これがあの世のデフォルトなのでしょうか。
道々で暇にならないという意味では、大変有り難いですけどね。
にしても、東京ドーム三個分とは恐ろしく広い……。
「そう言えば石上さん、今回の新人研修は何人くらいの参加者がいるのですか」
「今回は宏美殿と子鬼さん達を含め、合計十三人の参加者がいますよ」
ふむ。それなりに人数がいるみたいですね。もしかしたら今回の受講者は私達だけなのでは、と思っていたのですが、いらぬ心配だったようです。
「十三人ですか……。私達以外は、皆さん天国本館の職員さんなのですか」
「いえ、今回の受講者に天国本館の職員はいません。皆さん以外の受講者はすべて、天国各地にある分室勤めの司書補達です」
石上さん曰く、天国の各地には、現世の公共図書館に当たる分室や本館に収まり切らなくなった本を収容する保存書庫があるそうです。黄泉国立図書館では天国本館と地獄分館にしか司書を置かないため、分室や保存書庫はすべて司書補と事務員で運営しているとのことでした。
ちなみに、黄泉国立図書館において司書の身分を持つ人の数だけは、定員がきっちり決まっています。本館に99人、地獄分館に1人の合計100人です。この人数を保つため、欠員が出ない限り、司書が新たに雇われることはありません。
黄泉国立図書館は事務員や司書補を含め、全体で4000人近い職員が働いており、職員総数は今なお緩やかに増加中。その中にあって、司書の数だけは開館以来まったく変わっていないとのこと。
私はそんな激レア職である司書の一人というわけですよ。欠員が出たタイミングにあの世にやって来た辺り、運命の女神に愛されているとしか言いようがありません。さすがですね、私。ウフフ♪
「今回の研修において司書の身分を持つ方は宏美殿だけです。研修では実習もありますから、宏美殿のリーダーシップに期待していますよ」
言葉通り、期待を込めた笑みで石上さんが私を見ます。
ウフフ、仕方ありませんね。すでに三名もの部下を指揮する一流の司書として、ここは彼の期待に応えてあげるとしましょう。
というところで、ようやく職員入口が見えてきました。
正面の利用者用入り口から職員入口まで、徒歩五分。外周を歩くだけで、もはや軽い散歩ですね。本当に広い……。
「では宏美殿、研修会場は五階の多目的室です。入口の右手にあるエレベーターで五階まで上がれば、すぐに見つけられるはずです」
「お忙しい中、案内までしていただいて、どうもありがとうございました」
「いえ、目的地は一緒なのですから、お気になさらず。研修では私も講師をしますから、次は研修会場でお会いしましょう」
石上さんはそう言い残し、職員入口の中へと消えていきました。
* * *
「本日はお忙しい中、あの世の各地からお集まりいただき、ありがとうございます」
研修は、黄泉国立図書館館長の挨拶から始まりました。
黄泉国立図書館の館長については、以前もお話しましたね。この図書館の館長は菅原道真公、つまりは天神様です。学問の神様として、あの世の知識の殿堂を治めていらっしゃるというわけですね。
「――では皆さん、これから三日間で一つでも多くのことを学び、今後の職務に役立ててください」
およそ十分、司書としての心構えなど有り難いお言葉をいただき、館長の挨拶が終わりました。
偉い人の挨拶って、どうしてこうも長いのにまったく面白くないのでしょうか。私、早くも過労で倒れそうです。
しかし、ここでへこたれているわけにはいきません。
これから二日間に及ぶレパートリー豊かな講義が、私達を待っているわけですから……。
ただ、講義の内容を事細かに語られても、正直なところ面白くないですよね。講義って、要は勉強なわけですし。
というわけで、ここからは私プロデュースによる愉快☆痛快なダイジェストでお送りしようと思います。
それでは、張り切ってどうぞ!




