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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?
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新人研修が開かれるそうです。

(いや~、懐かしいですね)


 聖良布夢さんとの出会いを回想し終え、私は「ほう……」と一息つきました。


 余談ですが、その後、聖良布夢さん達は尋問室へ連行。

 そこでどっぷり一日、私からの誠意溢れる物理的な説得を受けた彼らは、「図書館を汚してすみませんでした! 地獄分館バンザーイ(泣)!」と超懺悔して更生したのです。

 で、この事件の一週間後、聖良布夢さんは再びこの図書館を訪れ……、


「自分、この間の一件で目が覚めました! これからは俺、姐さんのようなちょっと性格アレだけど、ものすごくかっけえ大人を目指すッス!」


 とか言って、この図書館に通うようになったのです。

 いや~、さすがは私ですね。更生させた相手の目標になるなんて、図書館司書としてだけでなく、保護司としても超一流です。


 ちなみにこの日、地獄裁判所正門前に『地面から生える足』と名付けられた奇怪なオブジェが現れたのだとか……。

 ウフフ。口は禍の元ですね。


 ともあれ、これにて回想は本当にお終いです。


(――さてと! そろそろ仕事に戻るとしましょうか)


 カウンターの椅子から立ち上がり、「うーん……」と一つ伸びをします。


「どうせ人も来ませんし、今月分の選書作業を終わらせてしまいましょう」


 選書は私の好きな業務の一つです。今月も面白そうな本がたくさん出ていましたし、どの本を入れるか、本腰を入れて考えるとしましょう。


(ああ、これぞ正に至福の一時。これだから司書は止められません!)


 とまとさんを呼んでカウンターを任せ、胸踊らせながら奥の事務室への扉を開けます。

 いざ、月一度の楽しみへ。新刊カタログが私を待っています♪


 ――しかし……。


「おお、ちょうどよかった。宏美君、今ちょっといいかな?」


 唐突に現れたボス猿が、至福の時間に水を差してくれやがりました。


「……………………。チッ……」


「ちょっ! なぜいきなり舌打ち? 蔑んだ視線?」


「あはは、何のことでしょう。それより閻魔様、こんな真っ昼間からサボりですか? まったく、いい御身分ですね。――迅速にくたばればいいのに」


「あれ……? 何で儂、来て早々に謂れのない罪で罵倒されているんだろう……」


 原始人が一気にテンションをダウンさせて、無駄に広い肩を落としました。

 私の楽しみを邪魔したのですから、これくらいは当然の報いですね。いかに母なる海のごとく温厚な私でも、許せないことがあるのです。


「で、何の用ですか。私、閻魔様のサボタージュに付き合っていられるほど暇ではないのですが」


「儂は別にサボっているわけではないぞ。君と子鬼君達に新人研修の案内が来ていたから、それを知らせに来ただけだよ」


「新人……研修?」


 私が小首を傾げながら呟くと、閻魔様は「ほら、これだよ」とA4用紙を一枚差し出しました。どうでもいいですけど、閻魔様が持つとA4用紙もメモ用紙に見えますね。

 ともあれ閻魔様から用紙を受け取ってみると、そこには確かに『黄泉国立図書館新人研修のご案内』と書かれていました。


「ええと、何々……」


 用紙に書かれた内容を、手早く読んでいきます。

 どうやら研修は、二週間後に天国本館で行われるようですね。期間は三日間で、最初の二日間が講義、最後の一日が実務研修とのことです。


「新人は全員、参加が義務付けられているからね。子鬼君達共々、しっかり研修してくるように」


 ゴリラが偉そうな態度で御高説を垂れていますが、とりあえず無視しておきましょう。


(それにしても、新人研修ですか。ふむふむ……)


 現世では就職初日に死んでしまった所為で、研修なんて何も受けられなかったですしね。これが私の研修デビューということですか。何だか楽しみです。


「ところで閻魔様、私達がいない三日間、地獄分館はどうするのですか? 臨時休館にでもしますか?」


「それは心配いらない。色々とシフトやら仕事量やらを調整して、兼定君に君達の代わりをしてもらう手筈になっている」


 ああ、なるほど。それなら、心配――しかありませんね。あの変態執事に私の城を預けるなんて、死んでも嫌です。私、もう死んでいますが。

 彼が仕事のできる万能執事であることはわかっていますが、それとこれとは話が別です。


「失礼します。何やら私を害虫のように嫌悪する、とても素敵な思念をキャッチしたのですが……。宏美さん、今、私のことを考えていらっしゃいませんでしたか?」


 ご本人が登場してしまいました。

 この変態のドMセンサーは、どれだけ感度がいいのでしょうか。とうとう思念までキャッチし始めましたよ。


「いえ、大したことではありませんよ。あなたにこの図書館を預けるくらいなら、閻魔様にダイナマイトを巻き付けて、あなたごと地獄裁判所を木っ端微塵にしてしまった方がマシと考えていただけです」


「ぐはっ! それは(わたくし)共の業界ではご褒美です!」


「ちょっと待ちたまえ、宏美君! 何をサラリと、儂に自爆テロ紛いのことをさせようとしているのかな!」


 外野というか、野人がうるさいですね。今、大事な話をしているのですから、ゴリラはゴリラらしく黙っていてほしいものです。

 けれど私の思いも虚しく、閻魔様は話を打ち切るようにパンパンと手を叩くのでした。


「と・も・か・く、だ! 君と子鬼君達は、二週間後の新人研修に出ること。加えて、期間中の業務は兼定君に任せること。これは分館長命令だ。いいね!」


 でかい顔を思いっきり近づけて、閻魔様が念を押してきました。

 はあ……。分館長命令とまで言われては仕方ありませんね。

 とりあえず今回のパワハラはしっかりとハラスメント防止委員会に報告の上、私的かつ物理的に制裁を加えるとして……。

 研修には閻魔様の言う通り、ちゃんと参加することにしましょう。実際、興味はありますし。


 何はともあれ、こうして私の初研修兼初出張が決まったのでした。

 楽しみですね、天国本館。


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