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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
第一話 ~春~ 再就職先は地獄でした。――いえ、比喩ではなく本当に。
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お片づけをしましょう。

「みなさーん、もうちょっと左ですよ!」


「「「いえっさー!」」」


「ああ、行き過ぎです。少し右へ戻ってください。――はい、そこです。そこで下してください!」


「「「よっこいせ!」」」


 私の声を合図に、とまとさん、ちーずさん、ばじるさんが重たい木製の閲覧机を床に下ろします。ズーンという地響きと共に、最後の机が閲覧スペースに置かれました。


「はーい、みなさん。これで、片付けは終わりですよ。ご苦労様でした」


「わ~い!」


「おわった~!」


「いいしごとしたった~!」


 片付けが終わった記念か、子鬼さん達が小躍りを始めました。

 この子達は、本当に体を動かすのが好きですね。ちなみに今日は、阿波踊りな気分のようです。


「最初ここに来た時とは、随分見栄えが変わりましたね。これでこそ図書館です」


 整然と並んだ本棚と机を眺め、私は満ち足りた気分で何度も頷きました。

 さすが、私が指揮を執っただけのことはあります。ばじるさんではありませんが、良い仕事をしたという気分ですね。




 私が地獄分館に就職して、早くも一カ月弱が過ぎました。

 あ、そうそう。あの世にも現世と同じ暦があるのだそうです。

 一年十二カ月。年度も四月に始まり三月の終わる方式だそうで、感覚的にわかりやすくて助かりますね。


 ――おっと、話が逸れてしまいました。


 ともあれこの一カ月弱、私と子鬼三兄弟は図書館の片付けに勤しみ続けてきました。

 私達が真っ先に取り掛かったのは、ドミノ倒し状態だった本棚を立て直しです。

 私、初日に閻魔様へ「この子達を馬車馬のように働かせて~」などと言っていましたが、馬車馬なんてとんでもなかったですね。

 私の愛すべき部下である子鬼三兄弟は、馬車馬なんて目じゃない程の体力&力自慢でした。

 彼ら、重たい本棚を容易くポンポンと立て直していくんですよね。おかげで、私はただ指示を出しているだけで済みました。

 いやはや、持つべきものは、優秀で可愛い部下達ですね。メルヘン趣味のゴリラやドMなど、吐き気を催す変態しかいないこの地獄で、彼らは私の心のオアシスです。


 子鬼さん達を頼もしく思っている間に本棚も立て直し終わり、私達は次に本の片付けへ取り掛かりました。

 本は破損の度合いによって、配架・要修理・廃棄の三種類に分類しながら片付けていきます。

 配架の本はそのまま棚に戻し、廃棄が決まった本は図書館の入り口付近に集積。要修理の図書は地下二階の書庫へ退避させ、後で修理です。(ピタゴラ装置化されたのが地下一階だけで助かりました)


 ちなみに、地下二階の書庫は全面的に移動式の集密書架となっているため、収容能力は開架である地下一階の比ではありません。それに、元々この集密書架は三割近くが空きスペースとなっていましたので、退避させた本を無理なく収めることができました。

 現世の図書館が軒並み慢性的なスペース不足に陥っている中、地獄分館は実に恵まれていますね。


 この行程では私が分類担当、子鬼三兄弟が本の移動担当です。私が本の破損度合いを判断して、子鬼さん達に本を運んでもらうという形ですね。

 この本の分類と片付けも、ようやく昨日で終わりました。


 本をすべて分類した結果、地下一階にあった本の一割近くが要修理、三百冊程が修復不能で廃棄決定となってしまいました。

 おかげで地下一階の書架は、部分的に隙間が目立っています。早々に要修理の本を直して、本棚に戻さないといけませんね。


 で、本の片付けが終わるタイミングと合わせたかのように、今朝、閲覧スペース用の机と椅子の修理も完了しました。

 余談ですがこの机や椅子の修理、何と兼定さんがすべて行ってくれたそうです。机と椅子はただ修理されていただけでなく、妙に凝った彫刻なども施されていて、出来栄えは正に一級品と呼べるレベルのものでした。

 聞けば、仕事の合間を見つけて修理してくれたのだとか。変態であることを除けば、本当に優秀且つ気の利く人――いえ、鬼です。

 ところで以下は、先程兼定さんがこの机を持ってきた際のやり取りです。



 * * *



「ふう……。これが最後の机です。では、あとのことをお任せします」


「兼定さん、本当に何でもできるのですね。こんなに立派な家具に仕立て直していただいて、どうもありがとうございます」


 図書館の入り口へ机を運び終えた兼定さんへ、私は深々と頭を下げました。

 修理が必要になった発端はどうであれ、忙しい合間を縫って修理してくれたのです。

 私も地獄分館の司書として、兼定さんに誠意を持って感謝の言葉を申し上げるのは当然と言えるでしょう。

 そう思っての行動だったのですが……。


「ひ、宏美さんが……お、お礼? もしかして、疲れのあまり頭がおかしくなってしまわれたのですか? す、すぐに腕の良い脳外科をお呼びします。何、心配はいりませんよ。すぐに元の性悪女王様に戻して差し上げます」


 この下種野郎、とんでもないことを宣いやがりました。それも、労わり気味の爽やかイケメンスマイルで。

 アハハ、これは愉快です。こんなにも清廉潔白な天使に向かって性悪女王とは……。

 さすが、腕の良い脳外科でも手に負えない変態は、ギャグのセンスが違います。

 もう魂ごと消滅すればいいのに……。


「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん」


「は~い!」


「および~?」


「なんぞや~?」


 一声呼ぶと、私の愛しい部下達がコンマ一秒で集結しました。

 ウフフ。呼べば飛んでくるなんて、本当に可愛い子達です。

 さて、それでは……。


「ロメロ・スペシャル」


「「「はい!」」」


「ああ! 背骨からバキボキと小気味良い不協和音が! この容赦のないお仕置き! やはり最高です、ご主人様!」


「私には優秀で可愛い部下が三人もいますので、あなたのようなスペック以外見どころのない下僕はいりません。ちゃんと分を弁えてくださいね、この精神的ろくでなし」


「ぐはっ! 最高の笑顔で心を抉る辛辣なお言葉! 心身ともにお元気なようで何よりです! ――あっ! 背骨がそろそろ限界! あ、あ、ああ~!」



 * * *


 

 と、ご褒美を十分にもらった兼定さんは、背骨を粉砕させたまま喜色満面で仕事へ戻っていきました。

 背骨バキバキでも動けるなんて、鬼とはすさまじい生き物(?)ですね。もしくは、Mを極めた兼定さんの固有スキルでしょうか。どちらにしても、性癖を含めてゴキブリ並に厄介な生き物ですね、あの変態執事。


 まあ、あの歩く精神汚染物質のことは横に置いておきましょう。考えるだけ時間の無駄です。


 何はともあれ、これで使用済みピタゴラ装置化していた地獄分館の片付けは完了しました。

 ただ、図書館の財産である本の内、開架にあるような超現役の本を三百冊近くも廃棄することになったのは、かなりの痛手ですね。

 加えて、修理が必要な本も多数……。さすがにこれは由々しき事態です。

 となれば、仕方がありません。ここは、原因の元締めに責任を取らせてあげることにいたしましょう。


「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん、ちょっとお出かけしますよ」


「「「あい、あい、さ~!」」」


 元締めのところに行くのなら、粗相がないように万全の武装――ではなく準備をしなければなりません。

 私は子鬼三兄弟を引き連れ、準備を整えるために自分の城を後にしました。


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