書評 『傾いた家』を読んでの報告書
「傾いた家」を読んでの報告書
―神田さよさんに―
「傾いた家」を読んで
私は私なりにこの詩集を解剖し分析してみた
するとこの詩集にはいくつもの仕掛けがしてある
例えば
―後から来る者が読み取れるように
廃家は棺―
のように作者独自の思考や意味を
言葉に埋め込んでいる
―光と熱が溢れた箱のような家
死と不明を足し算した日
魂の目はうっすらと開き
未来の子供どもたちへ
向けられる―
このフレーズは福島第一原発が
メルトダウンした後の近辺の風景で
この恐ろしい事実を風化させるなよ
と言って警告し未来の子供達に
伝達しようとしている
詩は伝達の手段としてとらえられている
詩は食料品にも
衣服にもならないが
心に衝撃の銃弾を撃ち込むことにより
人の記憶として鮮明に残る
この詩集「傾いた家」と言う拳銃の銃口を
読者に照射し弾を撃ち込んでいる
そして的確に読者の心臓を
撃ち抜くのである
ここに記した例文は一例であって
この詩集の中の詩には言葉巧みにレトリックを駆使し
取り入られている
さらに魂の荒野で直接神田さよが
傷つき
血の滲んだ包帯を巻き
震災地を彷徨っている姿が
見えてくるのだ
―夕焼けだけが東北訛で沈んでいくー
てなフレーズを読まされると
ウーム!
と唸ってしまうのだ
神田さよの震災に対して向き合う姿勢が
阪神淡路大震災と
東北大震災のはざまで揺れ動き
客観的に眺めてみたり
主観的にのめり込んでいったりして
確かないち詩集として
秀逸な作品が紅の小石のように
並んでいる
※
詩集「傾いた家」のⅡを読むと
切れの良い把握小説のようであり
大人が読む童話のようであり
不思議な感覚に落とし込まれる
レトリックを駆使しながら
書かれている散文詩は
―教科書をもらったけれどー
では
※草の匂い昼の匂いに似ている
宿題は永遠に終わらない※
と表現されると もう少年時代に帰り
あの胸苦しいような夏休みの
昼下がりが青くよみがえるのだ
―暗証番号は誰も教えていませんー
では
雨の日の海岸沿いに走るタクシーと言う
密室の中で
運転手とわたしのやりとりが
灰色の哀愁を帯び海の苦い匂いがする
物語になっている
とまぁ
このような状態で語られて
各散文詩はストーリーテイラーになっていて
密度の高いもの語りに仕上げている
久しぶり食べる良質なミツバチの蜜のように
美味しくて栄養もたっぷり吹くんでいる
美形の大人の物語である
詩集を読むとその人の個性が見える
傷つき曲がりくねった性格の私から見れば
羨ましい程真っ直ぐな生き方をされている
最後に述べておきたいことは
「傾いた家」は
神田さよ自身で在り
神田さよから未来の人達に向けた
震災遺言状でもある
二〇一五年六月十四日