紙袋をかぶって 3
ポプラ組は、最近、笑い声が絶えない。その中心は美子ちゃんだ。
今も彼女を囲んでみんなが笑ってる。
「ねえ、美子ちゃん、関西じゃ誰もが漫才が出来るってホントな
の?」
「うん。漫才の基本はボケと突っ込みって言うんやけど、ボケたら
知らん人でもたいがいは突っ込んでくれはるわ。大人でも子供でも
な」
「へ~、すごいんだ」
「だからうちがした挨拶なんて、もう突っ込みがいがあるやろな」
「え? あの最初にしたヤツでしょ?」
「うん。もう一度やってみよか?」
そう言うと美子ちゃんは立ち上がった。
「あの~、私は親の仕事の関係で、この町に引っ越してきました。
名前は美子、美しい子と書いて【よしこ】と言います」
「その顔でか!」
すかさず、一人の子が突っ込みを入れる。
「そうそう、うまいうまい。そんな感じや」
みんなは一斉に吹き出した。笑顔で一杯になる。
みいちゃんはと言えば、いつものように机に突っ伏して腕を組み、
その中に顔を入れていた。最近のみいちゃんの定番スタイルだ。そ
して彼女はその時、まさに美子ちゃんの事を考えていた。
【あの美子ちゃんていう子は他の子とは違う。自分でも言ってる通
りにあの子は美人じゃない。ううん、ハッキリ言えば、ブスの方だ。
でも、見ていてイヤな気持ちはしない。それにいつも笑ってる。こ
れはどうしてだろう?】
最近、みいちゃんの中には三人のみいちゃんがいた。一人は悪魔
のみいちゃん。自分を否定し、何でも悪い方に考えるネガティブみ
いちゃんだ。
そしてもう一人は天使のみいちゃん。昔からいる素直なみいちゃ
ん。心優しい、善良なみいちゃんでもある。
そしてもう一人はその二人を見ている、ジャッジのみいちゃんだ。
悪魔のみいちゃんがささやく。
「あいつはね、自分がブスっていうコトにホントは気づいていない
んだよ。だから平気で自分のコトがブスって言えるのさ。そうでな
けりゃ…」
「そうだよね。あの子も自分のブスから逃げているんだ。きっとそ
うだ。無いコトにしちゃえば、それは無いコトと同じなんだから。
でもあるんだ。いくら紙袋をかぶっても…ホントはあるんだ。その
事実から目を逸らしているんだ」
ジャッジのみいちゃんもそう思う。
「そうだよ。そっちの方が幸せかもね。でもみいちゃん、お前は知
ってしまったんだ。だからこんな思いをすることになるのさ」
悪魔のみいちゃんが含み笑いをしながらそう答える。
「彼女が笑えるのは、知らないから?」
「そうだよ。もし知ってしまったら、笑えないね。今のみいちゃん
と同じ様にさ」
あ! とジャッジのみいちゃんは合点がいったような気になる。
と、突然天使のみいちゃんが反論した。
「そうかな? もし彼女がすべてを悟った上で笑えていたら? み
いちゃんはどうするの?」
「なんだ、アンタまだここにいたの? 随分おとなしかったから消
えちゃったのかと思った。で?」
悪魔のみいちゃんが、あくびをかみ殺しながらそう言った。
「だから! 美子ちゃんがすべてを悟った上で笑えていたらどうす
るのって聞いたのよ」
天使のみいちゃんの声は真剣だ。
「もしそうなら…教えて欲しいよ。あの笑顔の秘密を…」
ジャッジのみいちゃんはそう思う。
「バカだな、そんな訳無いって」
「そんなのわからないわ!」
悪魔と天使の二人のみいちゃんが言い争いになる。
「もう! 二人ともちょっと黙っててよ! お願いだから…」
ジャッジのみいちゃんは両手で耳をふさぐ。
「みいちゃんてば…バカな子」
「みいちゃん、自分で考えるのよ。考えることから逃げちゃダ
メ…」
「ねえ、アンタ、みいちゃんていうんやろ?」
突然声をかけられたみいちゃんは、現実に引き戻された。顔を上
げると美子ちゃんがニコニコしながらみいちゃんを見つめてた。暫
くそうしていたかと思ったら、目を輝かせながら
「うん! 立派なブスや! 関西の友達が知ったらうらやましがる
わ!」
そういってみいちゃんの肩を叩いた。
美子ちゃんの出現によって、みいちゃんの心は激しく揺れ動きます。みいちゃんはどうなってしまうの? 4に続きます…