第三話 これは運命?!
「おい沙紀」
「はいぃぃ−!」
「沙紀ちゃん−お家に帰っていいらしいよぉ−」
「そうなんですかあ」
兎に角頑張りましょう!
お家に帰って今日はお魚を買わなくてはなりませんし…。夕飯は秋刀魚です!
お味噌汁は…何にしましょうかねえ。
「帰ろお!」
「あ…そうですね」
「先生さよ−なら−」
「また明日ね!みんな!」
内田先生は笑った。
沙紀はぺこりと軽くお辞儀をして教室を出た。
後ろからぴょいっと沙紀に飛び付いた夏樹に愁は離して自分の背中に軽く乗せた。
小動物みたいです−。
愁さんがクマさんで夏樹くんがうさぎさんです。
沙紀はふにゃあとした笑顔を浮かべた。
その顔をみた愁が軽く笑って沙紀の頭を撫でた。
「行くぞ」
「あ…はい!」
愁さんって…こんな顔で笑うんですね。
どうしてでしょう…?
胸がドキドキしてます。
可愛いからですよね!
そうですよお。
(勝手に理解した…)
沙紀は上履きから外履きに履き替えていた。
玄関を出ると太陽の光が差し込んできた。
暖かい光が気持ちよく沙紀は
「ん−っ」と伸びをしていた。
「あ、ところでえ…今日遊ばないい?」
夏樹が愁の背中でVサインをしていた。
沙紀は少し困ったような顔をして頭を下げた。
「私今日買い物に行かなくてはならないのです…」
「そ−なんだあ」
「ごめんなさい…」
「じゃ−僕らも帰ろ−」
「俺も買い物行く」
愁は夏樹を優しく下ろし沙紀の隣に立った。
沙紀は
「そうですか」と微妙な笑顔を浮かべた。
夏樹と鏡は
「また明日ね−」
「アスカ…」と言って手を振っていた。
「さようならです」
「じゃな」
あれ?
愁さんもこちらにお住まいなんですねえ。
あ!お魚屋さんに寄らなくてはなりません!
愁さんとも今日はお別れですねえ。
「なあ」
「はい?」
「今日魚屋何安い」
「あ−秋刀魚ですよ」
「秋刀魚か」
「愁さんはそのまま帰らないんですか?」
「ああ」
愁はスタスタと歩いている。それについて行くかのように沙紀は歩いていった。
愁は軽く振り向いて沙紀に
「魚屋行くんだろ」
と言った。
沙紀は頷いて愁の隣に急いでくっついてった。
周りの視線が…。
周りにいる高校生の女子が
「カッコいー!」とか
「超−イケメン−」とか喜んでいた。
愁は聞く耳を持たず無視しているようだ。
「モテモテですねえ」
「女は嫌い」
「私もですよね…」
「沙紀は平気だ…と思う」
「そうですか!」
「ああ」
愁は沙紀にデコピンをした。沙紀は
「痛!」と言いおでこをさすっていた。
通りがかりの男子校生に時々話しかけられると沙紀は
「ひっ」と言って愁の袖を引っ張った。
愁は
「何怖がってんの」と溜め息を付いていた。
「ね−彼女俺たちと遊ぼうぜ」
「ひっ!?」
「楽しもうよ−」
「愁さん〜(泣)」
沙紀は泣き出しそうに顔を歪めた。
男子校生は沙紀の肩を掴んで自分の方にくっつけた。
沙紀は
「…止め…て下さい…」と呟いた。
男子校生はケタケタと笑って沙紀の唇に自分の唇をくっつけようとした。
それには驚いた愁は
「止め…」と手を出した。
「…触れんな」
「沙紀?」
「男男男男男男男…」
沙紀は壊れたかのように呟き始めた。
そして次の瞬間三秒程の時間であったか…男たちが一気に倒れ出した。
一人の眼鏡でびびっている少年は逃げていった。
「沙紀落ち着け」
「………………………………」
「沙紀」
「また…投げちゃいました…」
「見た」
「だっ…唇…近っ」
「言葉になってねえけどなんとなく分かる」
「う−………」
沙紀は泣き出した。
さっきのキャラとは全く違うようだ。
時々嗚咽を繰り返して涙を流している。
顔は真っ赤でぐずっている。
「泣くな…」
「うえ−ん…!」
「分かったから泣くな」
「……そうですよね」
「早っ?!」
「いや…泣いてたら何か疲れてきたんで」
沙紀は溜め息を付いた。
涙はまだ少し残っていたようだが本人的にはすっかり止まったようだ。
愁がボソッと
「二重人格だな」と呟いた。
ん−そうですね。
何か自分が危険に犯されそうになった時キャラが変わります。
何て言うんでしょう…??防御みたいなものです。
「魚屋行くんだろ…」
「そうでした!」
二人はトコトコ歩いている。
さっきみたいな事が無いように愁も沙紀との距離を短くした。
沙紀は自分の手を見て首を傾げている。
「あう?!」
急に愁が止まったので沙紀は鼻をぶつけた。
痛かったのか涙目になって唸っていた。
愁は
「ごめん」と言って沙紀の顔をみた。
「着いた」
「お魚屋さんですね」
「秋刀魚一匹六十円だ」
「お−安いです」
「おや沙紀ちゃん!いらっしゃーい」
「おじさんこんにちは」
沙紀は朝出会った魚屋のおじさんに笑いかけた。
愁も
「ちは」と言って中に入っていった。
沙紀にとってこのニコニコ商店街(沙紀の家の近くの商店街)は家みたいな場所である。
「秋刀魚下さい−」
「秋刀魚かい?!いいよ−!!じゃあ二本で百円にしてあげようかね!」
「わーい」
「はい!毎度あり!兄さんは何買うかい?」
「俺も秋刀魚で」
愁は一本指を立てた。
魚屋のおじさんは沙紀と同じように二本いれてくれた。
愁は
「すいません」と恐縮したように頭を下げていた。
「沙紀ちゃんの友達かい?」
「それは…」
「そうですよ!!友達です!」
沙紀はニコニコしていた。おじさんは
「そうかい」と喜んだようにはにかんだ。
愁は
「ま…いいか」と言って頭を掻いていた。
(俺…まだ多分コイツの事苦手っぽい…)
「愁さん?」
「…ああ?帰るか?」
「そうですね」
愁は沙紀が後ろにいる事を気にせずにスタスタと歩いていってしまった。
沙紀は困り顔をしてついていった。
「お家どこですか?」
「あっち」
「私と一緒ですねえ」
「……」
「まだ苦手ですか」
「悪い…」
愁は頭を下げた。
まだ沙紀に慣れない様だ。
沙紀は
「大丈夫ですよ」と愁に笑いかけた。
沙紀の家は最初に言った様にボロアパートだ。
沙紀は小柄なので全然広い部屋らしい。
「では、さようなら!」
「お前…家ここ?」
「はい!」
「まじかよ…」
沙紀が階段を上って行くと愁も一緒にいた。
不思議に思った沙紀は愁に
「お茶しかないですよ?」と聞いた。
すると愁が
「いらん」と怒りっぽく言った。
「私のお部屋です−」
「………」
「ところで何か?」
「…名前見ろ」
愁が肩を下げて指を指した場所は沙紀の隣の部屋であった。
沙紀が見上げるとそこに書かれていた名前は
【INOGAKI】
と書かれていた。
ん−?
どっかで聞いたような…。
うーん。
「猪垣愁…校長息子だ」
「ああ!………ん?」
「隣だ…」
「いやああああ!!!?」
「叫ぶな…俺も叫びたい…」
愁はドアを開けた。
じゃあなと言って部屋に入っていった。
中から猫の鳴き声がした。
あ!ミントくん!
沙紀は愁の部屋に入って黒猫を抱いた。
愁は
「そいつお前の?」と沙紀に聞いた。
沙紀は笑って頷いた。
「ミントくんです」
「目が緑だな」
「はい!」
「で、様あんの?」
「ありません!」
沙紀は愁の部屋を出た。
黒猫のミントくんは沙紀の腕に静かに抱かれていた。
時々ペロペロと沙紀の顎を舐めていた。
「ミントくんただいまです」
「うにゃあ」
「今日は疲れました−」
「にゃ?」
「沢山男の子がいたんですよ」
「に"ゃ−」
ミントくんは沙紀の言う事が分かるのか心配そうに鳴いた。
沙紀は
「そうなんです」と軽く頷いた。
沙紀はコロンと寝転がり目を閉じた。
ミントくんは沙紀の頭の隣に座り眠った。
沙紀もスーっと鼻息を出して眠りについた。
夢のなかに愁さんが出てきました。
「沙紀」
「あれ?愁さんどうかしたんですか?」
「愁でいいよ」
「何かあったんですか」
ニコニコしている愁に対して沙紀は変に思い話しかけた。
「ん?沙紀が好きなだけだよ」
「え?!」
「そんなに驚くなよ」
「………」
愁は沙紀の肩を抱いた。
沙紀は
「はわはわわ…」と混乱気味に顔を赤くしていた。
今日の愁さん変…?!
「沙紀…」
愁が自分の唇を近づけてきた。
沙紀は逃げることが出来ないのか目を閉じた。
チュウ…は嫌です!
ペロペロ…
ペロペロ…
ん…………………?
沙紀が目を覚ますとミントくんが腹の上に乗り唇をペロペロと舐めている。
「ミントくん…でしたか…」
「うに?」
「びっくりしましたあ…」
沙紀の顔は赤らんでいた。チュウされたのが余程恥ずかしかったのだろう。
ミントくんはもごもごして沙紀にくっついている。
「あはは…どうして愁さんなんでしょうねえ」
沙紀が立ち上がるとミントくんが机の上に乗って丸まった。
沙紀はキッチンに行って秋刀魚を取り出した。
下拵えしときましょう!
上手に包丁を使い秋刀魚の下拵えをしている。
終わると冷蔵庫にいれて部屋に戻った。
「明日も楽しみですね」
「うにゃ」
「散歩にでも出かけますか」
沙紀は立ち上がった。
その頃隣の愁の部屋では何か探し物をしているようだ。
愁の家には沙紀と同じ様な黒猫が二匹いる。
一匹は瞳が赤色で二匹目は金色である。
赤色の方はイチゴちゃん
金色の方はレモンくん
という素敵な名前だ。
その二匹はぐっすり眠りについている。
「どこにあんだよ…」
愁は何を探しているのだろう?
ゴソゴソタンスのなかに手を突っ込んでいる。
パタッ
隣の部屋の沙紀が家の扉を開け閉じたようだ。
愁は頭を掻いて困り顔をしている。
聞いてみよう。
何探してるんだい?
「あ?携帯…」
携帯かよ!
タンスのなかに携帯入れるなよな!!
メール何件来てるんだよ…。
ほら…テレビの横とかにあるんじゃないの?
「ああ!あった!」
めでと−。
愁は喜んでいるのかどうか分からないので兎に角無表情という事で。
携帯の電源を入れた。
しかし付かない。多分ずっと使わなかったので自然と電源が切れたのだ。
愁は固まった。
「充電器…無え…」
愁は頭を抱えた。
携帯の充電器ぐらい家から持ってくれば良かったな…。
あの馬鹿オヤジ金だけくれて後はポイッかよ?!
ま…出ていったのは俺が自分でだけどな。
「にゃお」
「イチゴ起きたか?」
「み−」
「レモンもか」
愁の声で起きたイチゴとレモンは右足でポリポリ掻いている。
愁は動物が好きである。
この顔で。
「この顔では余計だ」
愁は二匹を抱き上げた。
イチゴとレモンは愁の顎をペロペロと舐めている。
愁は
「くすぐったい…」と言いながら笑った。
実を言うとイチゴたちは拾い猫なんだよ。
俺が中学に入った時オヤジと喧嘩して追い出されてさ…。
雨降ってたしさみいし?
兎に角橋の下に隠れて体育座りしていたらさ、猫が二匹いたんだよ。
俺動物好きだしさみいから呼んで抱いてたら朝になっててさ…
オヤジに後でガンガン怒られて出ていったわけ。
こんな喋ったの久しぶりだな。
「秋刀魚でも卸しておくか」
「みゅー」
「だーめ。これは俺の大事な夕飯なんだ」
「み」
「よし!」
愁はレモンの頭を撫でた。嬉しそうだ。
夜〜
隣の部屋にて
「ご馳走様でした」
両手を合わせて挨拶をしている少女は夕飯が美味しかったのか嬉しそうに笑っている。
片目が緑色の黒猫もご満悦そうにペロペロと皿を舐めていた。
今日の夕飯はとても美味しかったですねえ。
明日洋さんにお礼でもしましょうかねえ。
ミントくんも可愛いです?
わあ!お風呂に入る時間でしたね!
銭湯行かなくては!
少女はキャミソールとパンツなど色々袋に入れて家から出て行った。
「あ…愁さんではないですか」
「沙紀か」
「どこかにお出かけですか?」
「風呂」
愁と呼ばれた青年は銭湯の方に親指を向けた。
少女の方は
「一緒ですねえ」と喜んでいた。
だんだんとこの青年にも慣れてきたようだ。
「行くか?」
「はい!銭湯にれっつごー」
二人のアパートには風呂は付いてはいない。
だから昔から近くにある銭湯に行っているのだ。
自分のお家にお風呂が無いので毎日通わなくてはならないのですよ。
でも銭湯のおばーちゃんが優しくてタダです。
お風呂の時間が幸せの時間なんですよ。
温かくて気持ちよくて…想像してたら入りたくなってきましたよう!!
「婆ちゃん」
「おや愁くんと沙紀ちゃんじゃないか」
「お風呂借りま〜す」
「はいはい」
おばーちゃんは笑った。
私は赤い方に愁さんは青い方に入っていきました。
そして着替えて風呂に入った沙紀は一息ついた。
「ふぅ…」
気持ちいいですねえ。
ん〜誰もいないお風呂は伸びやかです。
隣には多分愁さんがいますよねえ。
声かけてみますかあ。
「愁さん〜います〜?」
少し経つと声が返って来た。
「なんだ」
「気持ちいいですねえ」
「まあな」
「いつもこの時間なんですか」
「何が」
「お風呂の時間ですよ」
「ああ」
そうなんですか。
今まで会ったこと無かったのおかしいですね。
なんか…
「なあ」
「はい?」
「お前、まだ男嫌いか?」
「少し…慣れました」
「言っておくが…俺はお前の味方だから」
少し照れているようにも聞こえますねえ。
私はまだ…少ししか慣れていませんが、愁さんが味方だと安心ですね。
私は顔を赤くしてお風呂の中に顔を沈めた。
ブクブクブク…と。
「おい沙紀」
「はぁい…………」
「早く出てこいよ。外で待っててやるから」
「はいです」
なんだかんだ言って、愁さんは優しいです。
沙紀はそう考えながらお風呂を出た。
体を洗いシャワーを浴びて風呂から出た。
「さっぱりです〜」
しかし…良いですねえ。
お風呂ってもんは。
うーん…
ああ…!!!!そうだぁ!!!
愁さん待ってるかも…。
今日は幸せだったなぁ。
初めて出来た友達。
それが男の子だなんて変です。




