始まりの世界Ⅳ
「パラレル…ダイバー?」
「そう。さまざまな平行世界に行くことができる能力。その力で私たちはこの世界に来たの」
「またもやすごい話だなぁ」
立花が話していることはただの妄想ではないか?と思った。
(でもさっき信じるって言っちゃたしな~。それに…)
あまりにも現実離れしたことを自分は体験してきた。
そして、その事情を知っているのは彼女、立花香理しかいないと思い信じることにした。
「で、そのパラレルダイバーって能力が俺にはあり俺たちはこの世界に来てしまった。ってことか?」
「簡単に言うとそのとおり」
「そうか…うん?ちょっと待てよ。なんで立花がそんなこと知っているんだよ。俺でさえ知らないことなのに。」
立花の返事を聞き、自分の持つ能力でこの世界に来てしまったことは理解したが、なぜ彼女が自分でも知らない能力のことを知っているのか疑問に思い聞いてみた。
「それは、私にもあなたのような特別な力があるから」
「特別な力?」
「簡単に言うと予知能力」
「予知能力って言うと未来が見えるっていうあれか?」
「ええ」
「…本当にゲームか漫画みたいな話だな」
普通に考えれば立花の話はただの作り話だと思う。
でも、屋上から今に至るまで信じられないような体験をしてきた自分にはあまり驚くことでもなかった。
自分がそう考えいると立花は話しを続けた。
「中学2年の冬ぐらいに見た夢が最初の予知だと思う。夢の中で私は家族と食事をしていたわ。他人から言えば普通の夢に思うけど、私は少し違和感を感じたの」
「違和感?」
「母がいなかったの。いつもは私、父、母、兄の4人揃って毎日食事しているのにその夢の中では母を除く3人で食事をしていたわ。その時はただの夢だと思って特に気にしなかったけど…」
「けど?」
「その夢を見た4日後、母は何も言わず家を出てった。最初は解らなかったけど、後で兄から夜に父と母が激しく口論していたって聞いたときは驚いたわ。それまで私は両親のそんな姿なんて見たことなかったから。まぁ、当時は母がいなくなって悲しかったけど、今思うと親の離婚ってよくある話だから気にしてないけどね」
そう言って立花はこちらの顔を見て微笑んでいた。
「…」
彼女のそんな表情を見て何か言わなければならないと思ったが、こんな時なんて言ったらいいのかわからずで黙って聞くことにした。
「そして、母が出てってから一週間後3人で食事をしていたらなんだか見たことある光景だと思った。気になって思い出していたら、前に見た夢と全く同じ光景だった。父と兄が話している内容、その日のおかずやテレビの番組もすべて夢で見たとおりだったの。それからというもの、夢で見た光景と全く同じ光景を何度も見てきたわ。最初はこんなふうに日常で起きる些細なことだった。けど…」
これまで淡々と話していた立花だったが、なんだか悲しいそうな表情をしながら地面の方を見るように下を向いてしまった。
「どうした?」
立花の様子が少し気になり声をかけたが「大丈夫」と言って続きを話してくれた。
「けど、高校生になって一ヶ月ぐらいたった5月、正確に言うと5月6日から今まで自分が見てきた夢が少しずつ変わっていったわ。いえ、『おかしくなっていった』の方が正しいかもしれない」
「おかしくなっていった?」
「ええ。それまでは友達と話してるところとかテストの内容とか本当に些細なことだった。でも、あの時見た夢はこれまで見てきた夢とは明らかに違っていたわ。その夢の内容は…」
これまでずっと地面の方を見ていた立花がこちらの顔を真っ直ぐに見てこう言った。
「私が死ぬ夢だったの」