始まりの世界Ⅲ
「………え?」
立花が何を言っているのわからなかった。とりあえずもう一度聞いてみることにした。
「すまん立花、もう1回言ってくれないか?」
「…なぜこんなことが起こっているのか?その理由は―」
「理由は?」
「あなたが死んだからよ」
「…」
立花の言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になり体が倒れそうになったがどうにか踏ん張った。
(俺が…死んだ?一体…どういう…。)
立花が言った言葉の意味を必死で考えていると彼女がまた何か言ってきた。
「…ごめんなさい。言い方が悪かった」
「…え?」
「正確に言うと“この世界”ではあなたは死んだってことになるわ。」
「お前、何言って…?」
立花が何を言っているのかわからず聞き返そうとしたとき彼女はポケットからケータイを取り出し画面を見てポケットに仕舞った。
「…とりあえず場所を変えましょう。確かすぐそこに公園があったよね?」
「あ、ああ」
「付いて来て」
と言って立花は公園がある方へ歩いて行った。
「おい、さっきの質問は?」
「公園に着いたら話すわ」
そう言いながら彼女は公園の方に歩き続けていった。
「おい!待てよ!」
彼女がどんどん歩いて行くので自分もすぐに彼女の後を追った。
公園に向かう途中立花に何個か質問してみたがどれも帰ってくるのがすべて「公園に着いてから話す」という答えだったので黙って付いて行くことにした。
自分の家があったところから2分ぐらい歩くと目的の公園に着いた。
公園内を見るともう夜のせいか人気が全くなくとても静かだった。俺と立花は街灯の光で照らされているひとつのベンチに座った。
「もういいだろ。ちゃんと説明してくれ」
そう言うと立花はまたポケットからケータイを取り出し画面を少し見てまたポケットに仕舞った。
「ええ、わかったわ。それで、何から知りたい?」
今日起きた不可解なことを思い出していた。
(立花がいるってこと、やっぱりあれは…。)
「立花、今日お前は学校の屋上から飛び降りたか?」
普通こんな質問をする奴は頭がおかしいと自分でも思う。だけど、自分にとってはとても重要なことのように思えた。
「ええ、飛び降りたわ」
「!!」
立花の言った言葉を聞き先ほど彼女が言っていた意味が少しわかったような気がした。
(あれが夢じゃないとしたら俺たちは…!)
自分が導き出した答えに恐怖を抱いたがもしかしたらと思い恐る恐る聞いてみた。
「俺たちは死んだのか?」
「いいえ」
「じゃあ、俺たちは生きているのか?」
「ええ」
立花の言ったことに一瞬安心したがすぐにある疑問を抱いた。
「でも、お前さっき俺が死んだって言ってたじゃねか。それに俺が目覚めたら屋上のベンチだったしお前もいなかった。どういう事なんだ?」
「確かに私たちは“あの世界”で屋上から落ちたわ。でも多少のズレはあったけど“この世界”の屋上に転移して助かったの。私はすぐに気がついたけどあなたはまだ気を失って-」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!お前は何の話をしてるんだ?あの世界とかこの世界とかって一体…?」
立花がまた訳のわからないことを言っていたので戸惑いながらその意味を聞いてみた。
「“あの世界”っていうのは私たちがいた世界で“この世界”っていうのは今私たちがいる世界」
「え~と…つまり?」
「つまり、ここはパラレルワールドなの」
「パラレルワールド?もしかしてゲームとか漫画に出てくるあれか?」
「そう。私たちが住む世界と同じに見えるけどどこかが違う世界。平行世界とも言うわ」
「い、いや、パラレルワールドの意味は知ってる。でもそれってゲームとかの話だろ。現実にそんなことあるわけないじゃん」
あまりにも現実離れした話に彼女の話を信じようとしなかった。
「…これを見ても信じられない」
そう言って立花は少し悲しい表情で彼女の鞄から何かを出して自分に渡してきた。
「新聞紙?」
渡されたのは何の変哲もない1つの新聞紙だった。日付を見ると今からちょうど1年前のものだ。
「この新聞がどうしたんだ?」
「…赤い丸で囲っている記事をよく見てみて」
「あ、ああ」
立花の言うとおり赤い丸で囲っている記事を見つけて読んでみた。
(住宅街で一家3人の遺体発見。犯人は未だ見つからず…)
記事の内容は殺人事件についてだった。
(五月十五日の午前十時半頃、常磐市の住宅から三人の遺体が発見された。その住宅に住んでいた会社員の…!)
その続きに書いてある名前を見た瞬間心臓が止まりそうになった。
(な、なんで…!?)
未だに信じられなかった。なぜならこの記事に書かれてあった名前は紛れもなく自分自身の名“暁秀哉”と父親と母親の名前がそこい書かれていたからだ。
「お、おい、これは一体どういう事なんだ!それにこの記事で書かれている俺が通ってた高校の名前が…!」
「さっき私が言っていたように“この世界”ではあなたは死んだってこと。そして、この世界のあなたは私たちが通っていた高校、常磐第一高校じゃなくて常磐第二高校だった。」
「だけどこんな新聞記事だけじゃ…!」
そう言ったとき夕方の出来事を思い出した。
(まさか、あの会話って!…でも、そう考えるとこの靴も…。)
「どうしたの?」
「いや、少し考える時間をくれないか?」
「ええ」
立花に了承を得てこれまで彼女が話してくれたことをもう一度思い出してみた。
(今日起きたことは現実であって俺と立花はどういうわけかパラレルワールドのこの世界に来てしまい、この世界の俺は誰かに家族と一緒に殺された。そしてこの世界の俺は通っている高校が違うってわけだよなぁ。普通に考えたらありえない話だ。けど、やっぱりそうとしか…。)
いくら考えても最もらしい答えが出てこなかった。
(…やめよう。)
自分で考えても何もわからなかったのでとりあえずこの場は諦めることにした。
「…わかった。お前が言うパラレルワールドって話は信じるよ」
「ありがとう」
「でも、もしここがパラレルワールドだったらどうやって来たんだ?」
次なる疑問を立花に聞いてみた。
「それはあなたの持っている“力”だと思う」
「え?」
「すべてのパラレルワールドに飛び込む存在-世界に飛び込む者」