始まりの世界
「…退屈だ。」
授業が終わり生徒の大半が部活動に励む頃、1.5メートルぐらいのフェンスに囲まれた学校の屋上で、一人ベンチに座ってつぶやいている高校2年生、暁秀哉の姿がそこにはあった。
彼は溜息を吐きながらまた同じ言葉を言った。
「はぁ~。退屈だなぁ~。」
なぜこんな気持ちになったのか、自分でもよくわからない。別に友達がいないわけでもないし、授業が全然つまらないわけでもない。
むしろ、放課後や休日にはクラスの友達とカラオケやボウリングなどをしによく遊びに行ったりして、まわりから見れば楽しい高校生活を送っているように見える。
だけど、それはまわりから見た姿で、自分の中では満足感や充実しているという感情は湧いてこなかった。
「高校に入れば楽しい生活ができると思ったのにな~。はぁ~。」
と、つぶやきながらまた溜息を吐いた。
その時、ドアから扉の開く音が聞こえてきた。
「?」
誰かが入ってきたと思い、なんとなくドアの方を向いた。入ってきたのは女子だった。
その女子を見て、最初は誰なのかわからなかったが、数秒かかって思い出した。
(たしか、同じクラスの立花香理だっけ?あんまり友達もいなく、いつも教室の片隅で本をよく読んでいて、話しかけてもあまり話さない人だったような。)
同じクラスの女子について思い出していると、立花は一瞬こっちを見て驚いたが、何事もなかったかのようにフェンスの方に歩いていき、景色を眺めていた。
「…」
そんな彼女を見て、ふとある疑問を抱いた。
(こんな時間に俺以外の生徒が来るなんて珍しいな。しかも、あまり教室から出ずに本を読み、授業が終わればすぐに帰る立花がなんで屋上に来てるんだ?)
ちょっとした疑問を抱いたが、別に気にすることでもないと思った。
(さーて、そろそろ家に帰るか。)
時計を見たら、17時00分だった。
ベンチに置ていた鞄を持って立ち上がり、屋上のドアの方へ歩いていると
「………」
後ろの方から立花が何かを言っている声がかすかに聞こえてきた。
気になって振り向くと立花は景色を見ながらまだ何かを言っている。
「………よし!」
立花は何かを決意した顔になり次の瞬間、目の前のフェンスを跨いでいた。
「…!?」
最初、自分が何を見ているのかわからなかったが、次に何が起こるのか大体予想できた。
(まさか、自殺する気か!)
そう思ったとき、口が勝手に動いていた。
「おい!何やってんだ!?」
「………」
「そこにいたら落ちるぞ!」
そう言ったとき、彼女はこちらに体ごと振返り自分の目をまっすぐに見て言った。
「大丈夫。信じてるから。」
「は?」
わけのわからない言葉を言った瞬間、彼女は背中から落ちた。
「おい!!」
この先はあまり覚えていない。立花が落ちた瞬間、なぜか体が動いて気がついたら自分も落ちていた。
「あれ?、なん…で?」
なぜ自分も落ちているのかわからなかったが、とにかく立花を助けきゃと思った。
(くそ!、どうすれば!)
助ける方法を考えていたとき、立花がこちらへ手を差し出していた。
「!?」
意味がわからなかったが、落ちたことを後悔して助かりたいと思ったのかわからないが、自分も立花に手を差し伸べ手を掴み抱きしめた。
「やっぱり、来てくれた。」
「は?」
立花はまたわけのわからないこと言っていた。
(こいつは一体何がしたいんだ?)
そう思っていたら、あと少しで地面に激突するところまで来ていた。
(…これはダメだな。)
死を覚悟した。
(普通に考えて4階建ての学校のしかも屋上から落ちて助かる確率はとても低い。助かるわけがない。でも、彼女だけでも…!)
なんとかして立花が助かる方法を考えていると、彼女がまたわけのわからないことを言った。
「多分大丈夫だよ。だってこの後は…」
「え?」
最初にこの言葉を聞いたときは意味がわからなかった。でも、今思うとこの言葉からすべてが始まったと思う。これから続く無限にも近い旅が…。そして、知ることになる。これから先、退屈しない出来事に関わっていくことを。
そして、二人は地面に衝突した。