表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒騎士と私  作者: みあ
6/45

想い

「申し訳ありませんでした!」 

 

 いくら呆然としていたからと言っても上司を殴って正当化するつもりはない。 

 どれだけセクハラ発言をされようとも本人には自覚が無いということを忘れてはならない。 

 

「うん……まあ気にしなくていいよ。慣れてるから(性的な意味で)」 

 

 慣れているという言葉に罪悪感を覚える。 

 おそらくは今までもこんな扱いを受けてきたのだろう。 

 兜の上から木剣で殴ったところで痛痒も感じてはいないだろうが、心を傷付けてしまったかもしれない。 

 うずくまって地面に指で何かを書いては消すという仕草が何か可哀想に思えてくる。 

 

「いえ、准将を殴ったという事実は消えません。ですので何か罰を与えてくださると……」 

 

 着任早々、謹慎でも懲罰でも受ける覚悟はある。 

 でも、将来的に近衛騎士団に行く時に障害にならない程度ならいいなあ。 

 

「じゃあ、軍服はズボンじゃなくてスカートでよろしく(性的な意味で)」 

「はい?」 

 

 基本的に戦闘時のことを考えて男女ともにズボンとされている軍服だが、女性用に限って実は礼装用や内務用のタイトスカートがあったりする。 

 男性用として半ズボンが提案されたそうだが誰も見たくないという主に女性からの意見で却下されたという事実さえある。 

 ただ、戦時中ということもあり式典の時以外はズボンを履くのが通例となっている。 

 

「やっぱり女の子はスカートを履くべきだと思うんだ。ズボンなんて味気ないよ(性的な意味で)」 

 

 下を向きながらブツブツと言い募る准将を指さしながら中佐を見ると諦めたかのように首を振る。 

 先任ですら後ろを向いて准将の方を見ないようにしている。 

 私、セクハラで憲兵隊に駆け込んでもいいですか? 

 

 

「ただいまー」 

「おかえりー、ってなに? やっぱりクビになったの?」 

 

 久々の我が家に帰るとあんまりにもあんまりな迎えの言葉が聞こえてくる。 

 言うまでもなく、私のたった一人の家族である母の言葉だ。 

 士官学校に行くと言った私に「え、料理係か何か?」と言ったことは記憶に新しい。 

 

「違うよ。卒業前に任官されたから荷物取りに来たの」 

「あんたが任官? ……給仕官とか?」 

「無いよそんなの……いいかげん現実認めてよ。准将付きの副官に任命されたの」 

 

 少しはお祝いの言葉くらい掛けてくれてもいいと思う。 

 確かに私はお手伝いもしないで本ばかり読んでるダメな子だったかもしれないけど、母のことはとても大事に想っているのだ。 

 

「そう、よかった……副官なら戦場に出なくてもいいわよね?」 

 

 その言葉で気が付いた。 

 母は私が戦場に行く事を案じていたということに。 

 ……が、私の上司は最前線に行く事の多い英雄・黒騎士。 

 戦場こそが仕事場となるのはまず間違いがない。 

 

「うん、だいたい執務室に篭ってることが多いから大丈夫だよ」 

 

 とても本当のことなど言えやしない。 

 常日頃から料理係だの言ってたのも心配の裏返しだったのだろう。 

 今になってやっとわかったが、むしろその言葉に反発したからこそ今ここにこうしているんですよお母さんとも言ってやりたい。 

 

「どんな人なの? 危ない人だったりしない?」 

「大丈夫だよ、心配しすぎ」 

 

 言動は全然大丈夫じゃないけどね。 

 態度は紳士的……思い返してみるとそうでもないかもしれないけど、私の過剰反応な部分もあったから反省すべき所は私の方が多いだろう。  

 

「あ、そうそう、物置を掃除してたら懐かしいものを見つけたのよ」 

 

 突然、そう言い出した母の手にあったのは幼い頃に読み書きの練習に使っていた小さな黒板。 

 黒板消しとチョークが紐で結わえ付けられている。 

 

「うわー懐かしい。そういえばこんなの使ってたな」 

 

 その日の晩は母と幼い頃の思い出話をしながら夜更けまでずっと話し込んだ。 

 

 

「あの、これ何?(性的な意味で)」 

 

 翌朝、初出勤した私は我が上司様にプレゼントを渡した。 

 

「私が子供の頃に使ってた黒板です。私との会話の際はそれでお願いします」 

 

 要望通り、タイトスカートで出勤したのだ。 

 私の精神衛生上、これくらいのワガママは聞いてもらおう。 

 准将はぎこちなくチョークを動かして文字を書き付ける。 

 

『喋ってもいい?』 

「ダメです」 

 

 こうして私の苦難の日々は始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ