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黒騎士と私  作者: みあ
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エプロンを付けて

「私の分まですみません」 

「いいよ。一人分も二人分もそんなに変わらないし(性的な意味で)」  

 

 パンケーキの焼ける音と共に甘い匂いが流れてくる。 

 今はお昼時。 

 執務室の炊事場で准将はその腕をふるっている。 

 さすがに調理時には黒騎士の象徴たる全身鎧は脱いでいるようだ。 

 まとまりのない長髪が背中で動いているのを見ていると引っ張りたくなってくる。 

 

「ダメだよ?(性的な意味で)」  

「何がですか?」 

「今、何か悪いこと考えてた(性的な意味で)」  

「……ちょっと引っ張りたくなっただけですよ」 

 

 何て勘の鋭い。 

 エプロンを付けて鼻歌を歌いながらフライパンを振る女顔の男性。 

 この人を見て、あの英雄と同一人物だと気付ける人間はいるのだろうか? 

 ボーッと後ろ姿を眺めていると、やがて調理が終わったのか皿の音がする。 

 

「はい、出来上がり(性的な意味で)」  

 

 目の前に置かれた皿には出来立てホカホカのパンケーキ。 

 既に食べやすい大きさに切り分けられたそれの傍らには生クリームが添えられている。 

 フォークは包帯の隙間に突っ込んで何とか使えるが、そのせいでナイフに持ち替えるのは意外と難しかったのでこれは有難い。 

 

「ありがとうございます」 

「いえいえ(性的な意味で)」  

 

 准将が席に着いた所で食べ始める。 

 やはり准将は大量のシロップを掛けてから召し上がるらしい。 

 しかも今回はそこにこれまた大量の生クリーム付き。 

 クリームがシロップの海に溶け込んでえも言われぬ様相になっているのだが本人は満足そうだ。 

 

「シロップいる?(性的な意味で)」  

「いえ、クリームだけで充分です」 

 

 そう、と言って再び溶けかけたパンケーキを切り分ける作業に没頭する准将。  

 作った本人がしていることに文句は言うまい。 

 同じ物を食べている私にシロップの海を無理強いしてくるならともかくとして。 

 

「甘い物、好きなんですか?」 

「うん、昔はそうでもなかったんだけど(性的な意味で)」  

 

 なんでも、甘いもの嫌いの妹さんの代わりに食べていたら癖になってしまったのだそう。 

 ってあれ? 


「妹?」 

「あー……うん、昔はいたんだ。血はつながってないけど(性的な意味で)」  

 

 どこか遠い目をする准将。 

 まずい。つい聞いてしまった。 

 あまりそういう事には突っ込まないでおこうと思ってたのに。 

 何か、別の話題、別の話題……あっ、あれがあった。 

 

「あの、准将、私の友人のことですけどどう思いました?」 

 

 朝方のネリへの剣の譲渡のことを話題にする。 

 准将は少し考えると真っ直ぐにこちらを見て告げた。 

 

「変な子だね(性的な意味で)」  

「いえ、そういうことではなく」 

 

 断言する准将の姿をネリに伝えたら泣くだろうなー。 

 あの時の奇行を見られた時点で泣いてた記憶もあるが。 

 

「剣の腕はまあまあだね。最初の奇策には驚かされたけど、逆に言えばそれだけ?(性的な意味で)」  

 

 意外と辛辣な評価。 

 普段は甘々で食べる物も甘々だが戦闘においては辛口なようだ。 

 実際に命も掛かっているわけだし当然ではあるけれど。 

 

「じゃあ、どうして剣を渡したんですか?」 

「だって戦場で化けるかもしれないし。何より、君の紹介だったからね(性的な意味で)」  

 

 とりあえず無難に礼だけ言っておく。 

 ここまで買い被られるような心当たりは無いんだけど。 

 どこか気落ちしたような准将を前に不思議に思う。 

 

「ところで、あの子の名前を聞いてないんだけど?(性的な意味で)」  

「あれ、言いませんでしたっけ? マリーネリア=ルクセンです」 

 

 その名を告げた瞬間、准将の笑顔が凍る。 

 何か問題でもあったのだろうか? 

 

「あー、えーっと。……よく聞こえなかった。もう一度(性的な意味で)」  

「マリーネリア=ルクセン、ルクセン中将の娘さんですよ」 

 

 もう一度分かりやすく伝えると、准将の表情は完全に凍りついたのだった。

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