告白
目が覚めるとロウソクの炎に照らされた天井が見えた。
全身がだるい。
右手を上げるだけでも重労働、長い時間を掛けて布団からようやく手を引き抜く。
手のひらを広げたり閉じたり、目の前で繰り返すうちに思い出した。
「さっきの人は……? 助かった、のかな?」
「君の頑張りのおかげで助かったよ。さっきまで娘さんが来て一言お礼が言いたいって大変だったんだ(性的な意味で)」
独り言のつもりが声が返ってきて驚く。
「准将……」
「僕は怒ってるんだよ。君に紋章術を教えたのは失敗だったかもって思った(性的な意味で)」
私も無茶なことをやったとは思っている。
でも、准将の教えてくれた紋章術で人を救ったことは間違いではないと思う。
「でも……」
「君の言いたいことは分かる。でも、君は死ぬところだった。あの人を助けても君が死んだなら意味は無い(性的な意味で)」
准将が私の右手を握る。
その温かさに懐かしいものを感じたのは何故だろう?
自然に、本当に自然に涙が溢れてくる。
「ごめんなさい」
私の口が謝罪の言葉を紡ぐ。
意識して言ったわけではない。
まるで准将が鎧の下で泣いているように見えて。
ただ、それだけで。
「准将、私の話を聞いてくれますか?」
准将に支えられて起き上がり、私はただ話し続けた。
故郷のこと、顔も覚えていない父のこと、ずっと育ててくれた母のこと、ずっとそばに居てくれた友人のこと、そしてあの日確かに存在していたはずの私を受け止めてくれた人のこと。
准将は静かに私の話を聞いてくれた。
時々うなずき、私の手をギュッと握り締める。
「きっと、私はあの父娘に自分を重ね合わせてたんだと思います」
目の前で失われていく父を、それに縋りつくことさえ出来なかった自分を、私は受け入れることが出来なかった。
正直言うと羨ましかったんだと思う。
父の最期を看取る娘の姿に憧れるなんて自分の浅ましさが嫌になる。
だからこそ、私は父を救おうとした。
悪夢の中で、自分に力があったのならきっと父は救えただろうなどと思うことは何度もあった。
だからこそ、紋章術という力で父娘を救おうとした。
いや違う。そんなのは後付だ。本当の願いは違う。
「私は、あの娘から父の死に目を看取ることを奪い去りたかった……」
私は自分と同じ境遇の人間を作りたかっただけだ。
手の届かないところで父を亡くした娘というレッテルを貼りたかっただけだ。
そんなことは許されることではない。
「私は……人間、失格ですね」
「そんなことない! そんなことはないんだ……(性的な意味で)」
想いはどうあれ、助けたことには間違いない。
君はあの父娘を救ったんだ。
そう口にしながら抱きしめてくる准将の首元に顔を埋めて、私は泣き続けた。
「ごめんなさい」
「もう、こんなことしちゃダメですからね」
お姉さんがいたらこんな感じだったのだろう。
ミラ少尉は咎めるように言うとそれだけで許してくれた。
あの後、意識を失った私と怪我人を連れて商人街に向かったそうだ。
術力の消耗で体温が低下していた私をミラ少尉が抱きしめたままで。
話を聞いて、恥ずかしさで再び倒れそうになった。
「それにしても、あんな准将は初めて見ました。ふふふっ」
思い出し笑いが溢れる彼女に聞いてみたがはぐらかされる。
「本人に聞いてみては?」
……今さら聞けない。
あの時の私はどうかしてたに違いない。
さんざん胸の内を語って、あまつさえ准将に抱き締められたまま泣き疲れて眠ってしまうとは何たる不覚!
何事も無く普通に目が覚めて、翌朝にこうしてミラ少尉の見舞いを受けているわけだが。
「いえ、その、ちょっと不都合がございまして……」
しかも当時の私の服装は下着も脱がされ、薄い衣服しか着てない状態。
ほぼ裸とも言うべき姿で准将に抱きついていたかと思うとどんな顔をして会えばいいのやら!
「今日はゆっくり休んで、明日から復帰してね」
「あっちょっと待ってください」
立ち上がろうとする少尉の手を掴む。
剣を扱っている手だな、と思った。
全体的に柔らかいのに所々にゴツゴツとした部分がある。
「どうしたの?」
「その……准将を呼んで頂けないかと……」
私ばかり恥ずかしい思いをするのは気に入らない。
准将にも恥ずかしい思いをしてもらわなければ気が済まない。
きっと私は熱に浮かされていたのだろう。
「何かあったの?(性的な意味で)」
少尉に代わって部屋に入ってきた真っ黒鎧にこう告げた。
「午後からデートしましょう」と。




