歓迎
「見ててくださいよ、ほら」
丸めた紙を投げるとポンッと軽い音とともに弾ける。
准将は少しではあるが驚いているようだ。
「そんなことも出来るんだ?(性的な意味で)」
紙相手にしか使えない、私の紋章術式。
色々と試行錯誤を繰り返した結果、紙で行なってもおかしくないことなら使えることが分かった。
さっき私が投げた紙に書かれていたのは『破裂』。
画数が多くて実に書きにくいわりに効果が期待はずれではあるが、一応は使える。
何に使うのかは全く見当もつかないが使えることは使える。
「これだけだと手品以外の何物でもないわけですが」
自虐的ではあるが、妥当な評価だと思う。
経理にノート代が出るか問い合わせたらメモ帳をもらった。
一枚ずつ千切れるようになっていたのでこれ幸いと使ってみたら大成功だった。
ちなみにノートは買えなかった。切ない。
「インクはどうしてる?(性的な意味で)」
「普通のインクじゃ発動しなかったんですよ。なので私の血を混ぜて使ってます」
おかげで『止血』などの治療系の紋章術式が豊富になってしまった。
普通に術力を込めながら書いてもいいけど、非常に疲れることに気付いて、准将が彫刻刀に髪の毛を溶かし込んでいると聞いてやってみたらこれまたうまく行った。
インクに溶かせる体液と言ったら血が一番妥当だろう。その他は効果があったとしても使いたくない。
「こうやってあらかじめ書き込んでおいて、必要になったら千切って使うんです」
いい使い方でしょう、と自慢げに言ってみる。
「本当にすごいね。僕には全然思い付かなかった(性的な意味で)」
その声色には演技はなく、素直に感心しているのが見受けられた。
元々准将はあまり嘘をついたりする人間では無いと思う。
自分の姿も含めて隠し事は多そうだけど、他人に対する賞賛を隠したりはしないだろう。
「准将に褒められるとすごく嬉しいです!」
なにせ第一人者ですから、と続けるとがっくり項垂れる准将。
「そういう意味ね……(性的な意味で)」
どういう意味?
首を傾げていると遠くに北の砦が見えてきた。
こんな会話を聞かされながら黙々と歩いてくれたお馬さんに感謝。
「じゃあ、僕は基本的には喋らないから。必要なときは耳元でね(性的な意味で)」
言葉を発すると英雄としての威厳が無くなる。
最初聞いた時はどうかと思ったが、しばらく一緒に過ごした私の中では既に英雄像は崩壊している。
これも仕方のない事だろう。
「所属と階級、命令書を示せ」
門を守っていた兵たちの中から代表者が進み出る。
後ろに黒騎士が控えているのだから分かりそうなもの。
実際に兵たちは浮き足立った様相を見せていたが、これは様式というものだ。
馬を降り、敬礼をする。
「エンテッザ准将付きの副官、アイナ=シューストー少尉であります。こちらが命令書になります」
軍務局の封蝋で閉じられた封筒を渡すと「しばし待て」と砦の中に戻っていく。
わずかに開いた門の中からこちらを見ているだろう兵士達の視線を感じた。
もちろん、門の守備兵たちもこちらをずっと窺っている。
視線の先はもちろん英雄・黒騎士……と私。
なぜ私まで見られているのだろう?
門兵の中にも女性の姿は見えるし、女性が珍しいってわけでもないだろうに。
内心で首を傾げていると、先程の兵士が現れる。
「正式な命令書と確認されました」
そして、一拍置いて声を張り上げる。
「ようこそ、おいでくださいました! 我らが英雄、エンテッザ准将!」
門が開かれ、大勢の兵士達の歓迎の声が木霊する。
「黒騎士! 黒騎士!」「英雄のお通りだ! 道を開けろ!」「我らが騎士に敬礼!」
とんでもない歓迎ぶりに一歩退く私の肩に准将が手を置く。
「いつものことだから(性的な意味で)」
そう耳元で囁く准将に「そうなんですか」と無難な返事しか出来なかった。
英雄を迎えた砦は冷めやらぬ熱気に包まれていた。
私は完全にその雰囲気に圧倒されていたのだった。




