絵画の絵葉書が贈られた時すでに僕の未来は決まっていたのかも知れない。
熊本の美術館で買ったであろう、美術の絵葉書が届いた。
エドワード・ホッパー「ケープコッドの朝」の絵葉書。
出窓で赤い服の女が、外の景色を見つめている。
少し驚いている風にも見える絵画の絵葉書だ。
誰が送って来たのかは不明だが、予想はつく。
僕は絵葉書を机に置くと、元カノが買ったインスタントコーヒーを飲んだ。
かなり高いコーヒーだ。たかがインスタントコーヒーにその値段を出すか?ってくらい高いインスタントコーヒーだ。
それにしても、僕は行き詰まってた。
時間よ止まれ!
と思ったからと言って、未来から猫型ロボットが助けに来てくれる事はない。どうしよう、時間がただ過ぎていく。
何もすることもなく。
この加速感、半端ない。
さあ偉大な才能がある我よ!
偉大なアイデアを出せ!
そんな事言ったって、言霊なんて起動しない。
はあ。
そんな事を考えていると元カノから電話があった。
面白いアイデアに繋がる事を話してくれると期待したが、そんな事はなかった。彼女はシャーロック・ホームズタイプで、自分で解決する事には優れているけど、どうでもない事から閃きに導くワトソンのような事はしてくれない。
常に理論的な話をする彼女との電話をしつつ、僕は寝落ちしてしまった。
彼女の正しい話は、いつだって眠りを誘う。
「起きてる?ねえ、起きてる?」
そんな声を聞いた気がした。
朝目覚めると、目玉焼きが焼かれていた。
元カノの仕業だ。
「なぜ?」
「だってわたし彼女だし」
別れたのに往生際が悪い。
別れようと言ったのは彼女のなのに。
彼女は僕に抱き着くと、
「解ったことがある、わたしはあなたの事がすごく好きなんだって、九州を一周して気づいたの、本当は地球を一周したかったんだけど、予算的に無理でね」
「一周したら気づくもの?」
「一周もしないで、結論を出すのは愚かでしょ」
「そういうもの?」
「そういうものだよ」
と彼女が言うんもんだから、すでに切羽詰まって変になっている僕はすぐに九州を一周の旅に出た。
なのにね、何もアイデアは浮かばない。
なのにね、一緒について来た彼女は順調に企画を出し続けた。
「助かる、ワトソンみたいなあなたがいると」
☆彡
海の近くの駅で電車を待ってる時、白昼夢を見た。
箒になった僕は彼女を乗せると、彼女が世界中の色を変えていく夢を。
☆彡
真夜中に目を覚ますと、誰もいない田舎の静かな駅で、僕は彼女に抱きしめられていた。僕が目覚めたことに気づいた彼女は、
「わたしね、自分のお店持とうと思ってるの、一緒に来ない?」
彼女の抱擁はなぜか激しい悲壮感を感じられた。
彼女がそんな悲壮感を持っている事を初めて知った。
誰もいない真夜中の駅のせいもあるだろうけど。
誰もいない揵真夜中の駅に、ただきゃぴきゃぴしてた彼女は存在しなかった。
彼女は僕と距離を置いている時に、大人になったのだろう。
僕を置いて、僕の知らない大人の世界に踏み込んでいたのだ。
僕は彼女を強く抱き返した。
そして気づいた。僕には彼女の悲壮感を埋められると。
だからと言って、すぐに「良いよ」とは言いたくなかった。
夜が明けて、駅弁のお結び弁当を買ってから始発の電車に乗った。
お結び弁当を食べてる最中の彼女に、僕は言った。
「僕で良ければ」
その言葉の後、彼女の悲壮感が、すっと消えていくような気がした。
なのに彼女は、すぐに返答はしなかった。
電車の汽笛がなると、僕の耳元で、
「楽しい冒険の始まりだね」
とだけ答えた。
完




