キャンバス
また失敗した。
ここは黄色じゃなかった、直さないといけない。
パレットから白い絵の具を筆で取って、黄色の上から薄く重ねた。
来週の展覧会までにはまだ日がある。
前回の展覧会で僕が飾った絵はたくさんの人に見てもらえた。
今回も、皆が望む綺麗な絵を描くんだ。
ああ、まただ。
この部分が上手く描けなかった。
濃い青色で描いてしまったから、パレットから白い絵の具を筆でこんもりとたくさん取って、少し厚めに重ねた。
……やっぱりこのテーマではダメだ。
一から描き直そう、そうしないと展覧会の作品として相応しくない。
パレットに出した絵の具では足りないから、白い絵の具チューブの中身を、直接キャンバスに絞って塗り広げた。
時間が無い。展覧会は明日だぞ。
何でまだ完成してないんだ。
何で失敗ばかりするんだ。
また塗りつぶして描き直さないと。
白い絵の具……あれ、買い置きしてなかったっけ。
直せない、どうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
足がもつれて、体がキャンバスにぶつかった。
重ね過ぎて干からびた分厚い絵の具が、音を立ててパラパラと崩れ落ちた。
下からは失敗した絵が出てきた。酷い絵だった。
しかもその上には、落ち損ねた干からびた絵の具が点在していた。
汚いなんてもんじゃなかった。
そうしてそのまま、朝が来た。
展覧会の自分のスペースに何も飾らないわけにはどうしてもいかないから、震える腕でその絵を壁にかけた。
見に来た人はきっと、口々に尋ねるだろう。
どうしたの、貴方がこんな絵を飾るなんて。何かあったの。
……そうしたら僕はこう言おう。
白い絵の具が足りなくて直せなかったんです。今度はきちんと買い置きしておこうと思います。
実は少し風邪気味で。体調が悪くて上手く描けませんでした。
学業が忙しくて。少し寝付けなくて。筆が古くなっていて。お金が無くて。
でも、俯いてその絵の横に立っていた僕に声をかける人は一人もいなかった。
通りかかる人々は皆、チラリと僕の酷い絵を見て、特に足も止めず隣の絵を見に行った。
どうしてだ。僕が前回書いた風景画はとても綺麗だっただろ。
今回はとっても酷いだろ。
誰も足を止めなかった。
酷評もされなかった。
前回との違いすら、気付いてはもらえなかった。
僕の失敗は……僕の作品は……
……僕自身は、目の前を通り過ぎる人々にとって、その程度のものでしか無かった。




