【公式キャンペーン・5巻非売特典】行列が出来る魔神兵相談所
魔神兵とは、魔神バビロンに仕える魔族の兵隊にして、魔界領土の治安を守る警備兵である。
「うぉーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
「むぅーーーーーーーーーん!!!!!!!!」
多分、そのはずである。この男、魔神兵のクーガーは超人的肉体を持ち、あらゆる事象を筋肉で解決しようとする脳筋である。
「うぅむ、左右のバランスだな! 左右のバランスが完璧に取れていない! 右側が太いのに気がついているか?」
「え、そうですかい?」
「ああ! 君は、右利きだね? 知らず知らずのうちに右に偏っているんだ。些細な差だが、肉体美を追求するならそこも直さねばならない!! 俺のように、両利きになるんだ!!」
「肉体美のために、両方の手を……なるほど……!!」
だが、とりわけ筋肉については詳しい。筋肉のためなら両利きになるよう左手での生活のトレーニングも欠かさないし、どちらかに偏った姿勢を続けるということもしない。
彼は肉体を鍛えるためならありとあらゆる面から生活を見直すし、筋肉相談を受けたのであれば親身になって寄り添ってくれる。そんな彼の周囲には、当然のようにマッチョ達が群がっている。マッチョがマッチョに、マッチョになるための相談をしているのだ。これが割と人気のコンテンツであり、彼の周囲はいつも筋肉で埋め尽くされている。
「君も、筋肉を鍛えれば輝くぞ! 輝きの先にはそう、ビーム!! 鍛え抜かれて輝く偉大な筋肉からは、ビームが出せるようになるんだ!!」
「そうかな……」
「ああ、そうだとも!!」
「そうかも……」
「実際出るからな!! わっはっはっはっは!! ビィイイイイイイイイイイイイイムッ!!!!!!」
「うお、急にビームが!!」
「わっはっはっはっはっは!!」
鍛え抜かれた筋肉はビームが出るようになる……。全く意味不明な理由だが、実際にビームが出ているので誰も否定出来ない。このビームが出る理由を研究しようとした者は数多く存在し、同じく魔神兵のサリーも彼の強さの秘訣を知ろうとしたが、最終的に全員が辿り着いた答えは『鍛えているから』という、ただそれだけだった。
「よし! 食事の時間なんでね、ここまでにしよう! 君たちもどうだい!!」
「え、いいんですかい?」
「もちろん奢らない!! 俺は、筋肉しか持っていないから!! わっはっはっはっは!!」
「いやそれはマズいんじゃ……」
「魔神殿の食事は美味いぞ!! 魔神兵は無料なんだ!! いやぁ、本当に助かる!! なんせ、通貨が未だに覚えられないのでね!!」
彼は筋肉と戦闘以外ではあまり役に立たない。なんならほぼ役に立たない。だが、それでも彼には人望がある。マッチョのみならず、彼の豪快な生き様は多くの人に希望を与え、希望を糧に新たなるマッチョが……生まれるのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「踏み込みが足りねえ!! おらぁ!!」
「うわああ!!」
魔神殿の訓練場では、魔神兵グスタフによる対人戦指導が行われていることで有名だ。
「どうして負けたと思う?」
「俺が、弱いから……?」
「いいや、気持ちだ。ビビってんだよ、お前は。これが通用しなかったらどうしようとか、相手がこれをしてきたらどうしようとか、まだ起きてもいねえことをネチネチと考えながら突っ込んでくる。中途半端なんだ、心構えがよ」
「心構え……。でも、俺はグスタフさんみたいに豪快な性格じゃないし……」
「馬鹿が、俺だって考えなしに戦ってんじゃねえ。戦いながら考えているが、行動を起こしてから考えてんだよ。やりもしねえことにビビったりはしねえ。やってから、次を考えてんだ」
クーガーよりも一回り小さいが、それでも十分に巨漢な彼は、クーガー同様に考えることが苦手……と思いきや、意外にも戦闘IQが高いのだ。それを言語化することにも長けており、異界人ことプレイヤーの『思い切りのなさ』を指摘し、それを改善させるという取り組みを行っている。
「いいかー!! お前ら異界人はほぼ全員がビビリだ。お前達の世界じゃ、暴力ってのは人生終了クラスの犯罪だって聞いたぜ。だが、こっちの世界じゃやらなきゃやられる。まるで正反対の世界に来たお前らは、頭ではわかっていても体のほうがやっちゃダメだと記憶しているせいで、いざって時に手が出ねえ!! おらぁ!!」
「うわっ……!?」
「ほら見ろ!! 反撃より先に防御が出る。ぶっ殺しにかかってきたやつなんざ、逆にぶっ殺してやるって気合いが足りねえ!! だからまずお前らは、考えるのをやめろ!! 自分に害を及ぼすやつが現れたら、まずは考える前に反撃出来るようになれ!! 意識を変えるんだ!!」
今日もグスタフの指導により、異界人達の戦闘スキルが向上し続けている。本来なら全員が彼の指導を受けるべきなのだが、残念ながら彼の風貌の厳つさが原因で、そもそも近付く勇気が出せない者が割と多い。
だが、グスタフはそんな奴らには手を差し伸べたりはしない。そもそも自分に挑んでくる勇気すらない者は、戦場に出るべきではないと考えているからだ。彼は今日も、勇敢な若者が現れることに期待して指導を続ける。あの日の宮殿のように。自分のような足手まといになる者が、もう二度と現れないように。
◆ ◆ ◆
「っしゃぁああああああああああ!!」
強烈な衝撃音と共に、鋼鉄の数百倍は硬いと言われているアダマンタイトの板に穴が空く。毒々しいピンク色の液体がズラリと並んだ、彼女以外に誰も居ない地下の実験室。ここに居るのは魔神兵の1人、サリーという女性である。
「……クーガーの足元にも及ばない威力。グスタフみたいな瞬発力もない。カヨコみたいな射程もない。ほんっと、サリーちゃんってばなぁ~んにも持ってないじゃん」
彼女は生前からこうなのだ。誰にも努力を見せることなく、仲間達に置いていかれないように自己改造を繰り返し、女性としての限界、人間としての限界、生物としての限界に挑戦し続けている。
「あ~あ、そのうちめるめるめーちゃんにも、師匠~弱いですねぇ~って置いていかれちゃうんだろうな~。なんせあの、リンネちゃぁんの従者だしぃ? てかあの子ヤバくない? 覚悟ガンギマリって感じ、サリーちゃんみたいにさぁ、これ以上はヤバいからやめておこうって考えがまったくないわけ。脳みそのリミッター外れちゃってるんじゃなぁい? あれは絶対、左手に毒を受けたら迷いなく左手を斬り落とすタイプ。サリーちゃんはどうにかして解毒しようって考えるタイプ。ここなんだよね、絶対的な差? 偽物の狂人は、本物の狂人が現れた時に勝てないわけ。はぁ~~~…………」
弱音を吐くのは誰も居ない時だけ。誰かに聞いて欲しいなどという感情はサラサラなく、ただただ吐き出したいだけのタイプ。それはそうと、自分が抱えている感情に気がついて欲しいし、それについて寄り添ってくれるなら嬉しくて感動してしまうタイプ。サリーは面倒くさい女なのだ。
「…………どうして、得体の知れない超人薬をさ? 副作用も顧みずに使えんだろ。どうして、サリーちゃんなんかを信じて薬を使ってくれるんだろ。胡散臭いし、騙してるかもしれないし、実は裏でこっそり嫌ってて、破滅を願ってる悪い女かもしれないじゃん。リンネちゃんさぁ、サリーちゃんのこと信用しすぎじゃなぁい? はぁ、好き……」
サリーは自分のことを心から信頼してくれる相手であれば、男性であろうとも女性であろうとも、人外であろうとも関係なく好きになるタイプである。しかし、自分から好きだということを伝えることはない。いつもおちゃらけて、好き好き~とは言うものの、本心だと悟らせたりはしない。サリーは面倒くさい女なのだ。
「いい子だよなぁ~リンネちゃん。それに、めるめるめーちゃんもさぁ、いい子過ぎ。汚してぇ~……。悪いことい~っぱい教えてさ、堕落してくんないかなぁ~……。あ~あ、なんかムラムラしてきたなぁ!! クソッ!! クソッ!! このっ!!」
アダマンタイトの板に穴が増える。サリーはあまりにも面倒くさい女である。あまりにも過激で、あまりにも繊細で、あまりにも――――乙女なのだ。
世間一般には、蠍の猛毒を持つ女として恐れられているが、実のところその猛毒は自分自身を侵している。解毒方法は存在せず、年中発散出来ない感情を自己改造と破壊衝動に変換して発散した気になっている。それが、蠍座のサリー。フリオニールの居た騎士団の元団員内どころか、恐らく魔界の全女性の中でトップクラスに面倒くさい女なのである……。
◆ ◆ ◆
「ほら、見てください。リンネさんが活躍していますよ。可愛いですねぇ……」
「そう、ね?」
「ああ、見てください。リンネさんが怪我を……。ちょっとぐらい……」
「だめ、ね?」
魔神兵のカヨコは吸血姫である。最愛の弟子リンネの一挙手一投足を観察するのが大好きで、リンネが怪我をする度に舌なめずりをしている悪い女である。
それをたしなめているのが、同じくリンネの師匠である葬儀屋のミーシャ。落ち着いた雰囲気で、独特の喋り方をする女性なのだが、その実はなかなかに激しめの感情を持った貴婦人である。
「まあ、なんてこと……。見てください、あれは……! 父の……」
「…………胸の話?」
「え? いえ、父上の話ですよ。下心が隠しきれていませんよ、ミーシャ」
「え? ああ、そっちの、父……ね?」
「はい。リンネさんの胸の話ではなく。今リンネさんが使ったのは、私の父が使った、あの忌々しき禁呪……!!」
「嬉しそう、ね?」
「はい。嬉しいですよ……。だって、あの禁呪を何処で覚えたのか、どう言い訳するのか、後で問い詰めるのが楽しみですからねぇ……」
「イジメちゃだめ、ね?」
「そんな、リンネさんの困った表情を見るのが好きなのはお互い様でしょう? ミーシャも好きなくせに」
「あら、あらあら、まあまあ」
大人の女性代表、アダルティ部門代表というような外見をしていて、立ち振舞もまさしくそれであるにもかかわらず、彼女達の中身は『好きな子をイジメたい悪ガキ』のそれである。こんな師匠を2人も持ってしまったリンネには、ご愁傷さまとしか言いようがない。
「……リンネさんの、何処が好きですか?」
「一生懸命、即断即決、道なき道を切り拓く、困難に立ち向かう意思……。それと、ね?」
「困った顔、ですね?」
「あらあら、うふふふ…………」
「いいですよねぇ……」
「いいわ、ね……」
リンネは今後とも、この師匠達に悩まされ、振り回されることだろう。なお、リンネにとっては非常に悲しいお知らせであるが、今後は振り回される師匠が2人も増えることとなる。その2人もこのアダルティ組の性格と非常に似ているので、4人仲良くリンネを困らせるに違いない。
こんな悪い師匠達に溺愛されてしまったのが運の尽き。本当に、ご愁傷さまである……。




