新たなる出会い
「浩介ー、今日飯行こうぜー?バイト代、入ったんだろ?入ってなかったって言っても、俺が奢るからよ!」
「晴也先輩、ありがとうございます。今日は……、そうだ、バイトはないんだった。悠介に連絡だけ入れても良いですか?」
「おうよ!」
月曜日、浩介は部活の終わりに晴也に誘われていた。
食事を一緒に、と言う話で、まだ未成年同士だから酒は無し、と言う事で、浩介は悠介に一報を入れて、晴也についていく。
「やっぱよ、浩介がキャッチしてくんねぇと、俺のボールが活かせねぇって言うか、やっぱ俺ら、バッテリー組んで正解だったんだな。」
「あはは……。でも、晴也先輩より上手な人のボールって受けた事無いですから、やっぱりやりやすいですよ。僕が構えた場所に、ちゃんと入れてくれるんですもん。」
「そりゃ、コントロールが売りの晴也先輩だからな!体がちっけぇから球速は出ねぇ、変化球もそんなに投げられねぇ。なら、コントロールで勝負するっきゃないだろ?」
晴也は、昔は背が小さい事がコンプレックスだった、と話を聞いた事が浩介はあった。
体を大きくしたくて野球部に入った、しかし身長は伸びなかった、でもその頃には野球に夢中になっていて、楽しくて続けているのだ、と。
今では胸を張って野球をやっているが、昔は野球部でもチビ扱いされていて、恥ずかしさと悔しさがあった、と。
「晴也先輩、本当に上手ですよ。僕も、晴也先輩以外とバッテリー組んだりもしましたけど、やっぱり一番良かったのは晴也先輩ですから。」
「はっはっは!そうだろうそうだろう?俺も頑張ってきたつもりだからな、でかい奴らに負けてたまるか!ってな。」
浩介も身長は大きい方ではない、百七十前半で、周りが百八十から百九十センチ程度なのを考えると、小柄な方だ。
まだチビ扱いされる程小さくはないが、晴也はそれよりも小さい、顔は整っているが身長が、と付き合いを断られた事もある、と話は聞いていた。
ゲイである事を公表しているのは晴也と浩介、悠介だけだと思っていたが、浩介が知らないだけで、晴也は知っているゲイもいるのだろう。
興味はあった、ゲイと言う人種が自分達以外いないと認識していた浩介は、同種の存在がどんな人間なのか、どんな性格をしていて、どんな人生を送っているのか、興味はあった。
ただ、無理に聞くのは駄目だ、と悠介に言われて以来、誰かにゲイ?と聞く事も無くなった。
「そだ、俺のツレ連れてきても良いか?良い奴なんだよ。」
「はい、大丈夫ですよ。」
「サンキュな。」
晴也はそう言うと、誰かに電話をかける。
「もしもーし、悠治か?例の俺の女房、飯行くんだけどよ、一緒にどうだ?」
ツレ、と言っているからには、恋人か何かなのだろうか、晴也にも良いめぐり逢いがあると良いな、と思っていた浩介は、それを聞いて驚くとともに安心する。
ずっと好いていてくれるのは嬉しいが、新しい恋愛に踏み出してほしい、と願っていたからだ。
それは過ぎた想いかもしれない、出過ぎた感情なのかもしれない。
だが、浩介は優しいと悠介が言っていた様に、フッた後も晴也の事は気にかけていた。
「おん、じゃいつもの場所で待ってっから。来るってよ、浩介に紹介したいと思ってんだ。」
「どんな人なんです?」
「ここ入ってからよ、同じ学部になって、んで去年の十一月に付き合い始めたんだよ。悠治ってんだけどな、身長は浩介よりちょいでかい位の、可愛い奴だよ。」
「会うの、楽しみです。」
浩介は人見知りをしない、むしろ他人と積極的に関わりたい、と思っているタイプだ。
新しい友達が出来るかもしれない、先輩が出来るかもしれない、それは浩介にとってはわくわくする事なのだろう。
「おーい、晴也くーん!」
「お、悠治!先ついてたんか!」
「さっきね。それで、君が後輩君かな?」
「はい、坂崎浩介って言います。初めまして、悠治先輩。」
晴也の恋人、国枝悠治が、集合場所である飲食店に先についていた様子だ。
晴也に手を振って、浩介に挨拶をする。
「うん。晴也君が言うだけあって、良い子そうだね。高校時代に晴也君とひと悶着あったって聞いたけど、大丈夫なのかい?」
「悠治、それ言わねぇ約束だったろ……。」
「あはは、興味があったからね。浩介君って話はよく聞いてたから、どんな子なのかなって。」
「そうだったんですか?」
「うん。高校時代、悠介君って子と喧嘩してた、浩介君を取り合ってたんだって。でも、最後には二人を認めたんだぞ!ってね。」
筋肉お兄さん、と言う優し気な顔をしている悠治は、浩介を見て笑っている。
晴也は恥ずかしそうにしていて、浩介は少し照れていた。
「可愛い子だね、晴也君が惚れるのもわかるよ。悠介君って言う子は、一緒じゃないのかい?」
「そだ、悠介呼んでみたらどうだ?もう仕事は終わってるだろ?」
「良いんですか?」
「うん、会ってみたい。」
悠治と晴也の言葉を聞いて、浩介はスマホを取り出して、悠介に連絡を入れる。
「もしもし?悠介?」
「あれ、晴也先輩と飯じゃなかったのか?」
「うん、そうなんだけどね。晴也先輩が今お付き合いしてる、悠治先輩がね、悠介に会いたいって。晴也先輩も、悠介に会いたがってるんだ。仕事終わってるなら、一緒にご飯どうかなって。」
「そうか、それは嬉しいな。どこだ?」
「えっとね、駅前のファミレス、場所わかる?」
「あぁ、わかる。じゃ、すぐに準備して行くな。」
「うん、待ってる。」
電話が切れる、悠介は人見知りが激しい方だと思っていたが、それは昔の話だった様だ。
それもそうだろう、今では非営利法人の相談窓口にいるのだから、人見知りだとは言っていられない、嫌でも鍛えられるだろう。
「悠介、来るって?」
「はい、来てくれるって言ってました。多分、に十分位で着くんじゃないかと思います。」
「お、そっか。じゃ、先入ってようぜ。悠治、それで良いか?」
「僕は良いよ、浩介君もそれで良い?」
「はい。」
三人は、店に入って悠介を待つ。
晴也と悠治は色々と話を聞きたい、色々と気になる事もある、と話していて、浩介はこれは長くなりそうだと感じていた。
「初めまして、悠治先輩。坂入悠介です。」
「初めまして、国枝悠治だよ。悠介君、よろしくね。」
「よろしくお願いします。浩介がお世話になります。」
家に帰って来て、浩介が外食なら俺もピザでも頼んで食べようか、なんて思ってたら、浩介からお誘いが来て、車を走らせて浩介達の通う大学の駅前のファミレスで合流する。
悠治先輩、って言う人は、この人文化部っぽいな、って言う雰囲気って言うか、優しい柔らかい印象を持つ顔をしてるんだけど、体が浩介達以上にガッチガチに鍛えてて、周りがパーカーとかを着てる中、半袖だ。
「悠介君は、晴也君の恋敵だったんでしょ?そういうエピソードとか、無い?」
「悠治、それハズイって……。」
「良いじゃん、晴也君の高校時代の話、聞きたいなって。」
席について、メニューを眺めながら、有事先輩はニコニコと笑いながら、中々にえげつない質問をしてくる。
この人、ちょっと腹黒いなって言うか、天然だとしたらあっぱれって言うか、そんな感じの性格の人なんだろうなって、そう思う。
ある意味、探求心が強いんだろうか、恋人の事をよく知っておきたいって言う気持ちは、わからなくはない。
「うーん……。高校一年の頃だったかな、教室で浩介と話してたら、いきなり晴也先輩がやってきて、お前が恋敵かー!って言われたりしましたね。それからも、何かと恋敵恋敵って言われて……。でも、ちょっと嬉しかったです。」
「嬉しかったの?」
「だって、俺の恋人は、こんなに良い人にも愛されてるんだって思うと、誇らしいじゃないですか。横から攫われるとか考えてなかったですし、それはそれで有難いなって。」
「不思議な考えだね……。普通、取られたら嫌だ!って思うものじゃない?」
確かに、俺の考えは変わってると思う。
恋敵だー!なんて言われたら、構えると思うし、とられない様にって準備したり、何かしらの考えを巡らせる、と思う。
でも俺は、自信があったって言うか、浩介がそれを選ぶのなら応援したい、って思ってた部分もあって、不思議と晴也先輩の事をすんなりと受け入れられた。
「俺が暖簾に腕押しなもんなんで、晴也先輩も毒気を抜かれた様な顔してて……。懐かしい、あれがもう二年以上前だなんて、信じられないですよ。……。ホントに、時が経つのは早いですね。」
「浩介君は、晴也君に告白された時、どう思ったの?困るとか、嫌だとか無かったの?」
「嬉しかったですよ。ただ、悠介とお付き合いしてるから、って断りましたけど……。でも、ゲイって言うのが自分達だけだと思ってたので、晴也先輩もそうなんだ、って知った時には、少しホッとしました。」
「浩介、ずっと悩んでたって言ってたもんな。悠介と付き合えんのは嬉しいけど、ゲイっていねぇって。」
俺と浩介の話を、悠治先輩はうんうん言いながら聞いてる。
晴也先輩は、ここまで来たら開き直っているのか、恥ずかしさよりも話をする事を選んだみたいだ。
まだちょっと顔が赤いけど、それは置いておこう。
「ゲイを公表してる人って、まだ少ないからね。中々仲間が見つからない、って言うのはあるかもしれないね。僕も、晴也君に出会うまではゲイの人って見た事が無かったから、びっくりしたんだよ。SNSでゲイだって言ってたんだけど、それを晴也君が見つけてさ。それで、僕に告白してくれたんだ。」
「SNSって、やってなかったっけ?あれ、浩介はやってるんだっけか。びっくりするぞ?ゲイだって話してる人がいっぱいいてよ、俺達だけじゃねぇんだって、ちょっと安心すんだ。」
「俺はSNSには触った事ないですね。浩介は野球用にやってたっけ。あんまり発信する事もないけど、仲間探しでやってみるのはありかもな。」
SNSはやった事がない、噂程度には色々と聞いた事はあるけど、なんだか合わないだろうな、って敬遠してた。
でも、ゲイだって言う人達と交流をする、って言うのは、一つ良いことかもしれない。
「えーっと、アプリを入れれば良いんですかね?」
「そうそう、これを入れて……。」
早速やってみよう、って事で、飯が来るまでにアプリを入れて、起動してみる。
メルアドと電話番号を登録して、ユーザー名を入れて、ユーザーIDを入れて、写真を適当に選べばこれで完了だ。
「僕達の事試しにフォローしてみてよ、慣れる為にも、ここをタップして、ユーザーIDを入れて……。」
「ほー、こうなってるんですね。あ、浩介の写真だ。」
物は試し、浩介と晴也先輩と、悠治先輩をフォローして、フォローバック?されて、試しに一言書き込んでみる。
「プロフィール、って所にゲイだって書いた方が良いんですかね?その方が、相手も探しやすいとか。」
「そだな。その方が良いな。ただ、個人情報なんかは言いすぎるなよ?特定班、って言ってよ、人の個人情報を晒す奴らもいるから。」
特定班、って言葉は聞いた事がある気がする。
掲示板なんかで、人の個人情報を晒して、それが問題になってる、って前テレビで言ってた。
なる程塩梅が大切なんだな、って考えながら、そう言えば俺の所属してる法人もSNSを使わないか、なんて話になってる、呼びかけをするかしないか、みたいな話が挙がってたっけか。
「お待たせしました、こちらリゾットでございます。」
「はーい、僕です。」
そんな話をしてるうちに、注文した飯が届けられる。
悠治先輩はドリア、俺はハンバーグとパスタ、浩介はチキンステーキ、晴也先輩はピザだ。
「悠介君はいっぱい食べるんだね、浩介君も晴也君もそうだけど、悠介君は何か部活はうやってたの?」
「俺ですか?漫研でしたよ?って言っても、そこで小説書いてたんですけどね。絵は描けない、でもそういった創作はしたい、って話を当時の部長にしたら、表紙は書いてやるからやってみろ!って言ってくれたんです。バイトであんまり顔は出して無かったですけどね。」
「漫研で小説書いてたの?俺も今漫画サークル入ってるけど、不思議だなぁ。そういう子は個人でやってる事が多いけど、悠介君は運が良かったんだね。」
「悠治先輩は漫画書いてるんですか?」
「へたくそだけどね。最近は筋トレが楽しくて、あんまり顔出してないんだ。先輩には、筋トレする時間があったら絵を描け!なんて言われてるよ。でも、鍛えるのが性に合ってる見たいでね、止める気にはならないんだ。」
あ、やっぱりこの人、文系だったんだ。
体育会系独特な雰囲気は無いんだよな、とは思ったけど、予想が当たってちょっとびっくりだ。
それ位、悠治先輩は筋肉質で、多分腹とかも割れてるんじゃないかな、って位鍛えてるのがよくわかる。
「良かったらさ、悠介君の作品読ませてよ。なんだか、興味があるな。」
「下手の横好きですよ?」
「それでも良いんだ。誰かの作品って、見てると勇気をもらえるって言うか、なんだか励まされる様な気がするんだよ。」
「悠介の小説、面白いですよ?僕はあんまり小説とか読んでこなかったので、技巧とかはわからないですけど、それでも楽しめる位には楽しいです。」
「それは楽しみだ。」
飯を食べながら、悠治先輩の作品はどうだ俺の作品はどうだ、って話になる。
お互い、自分がへたくそだとは思ってるけど、こだわりはあるらしい、創作論って程じゃないけど、そういう話をするのも新鮮だ。
浩介と晴也先輩は二人で笑ってる、俺達が真剣に話してるのが面白いんだろう。
「今日は楽しかったよ。」
「会計、俺が出しますよ?」
「良いんだよ!誘ったの俺らなんだから、先輩を立てると思ってくれよ。確かに悠介は社会人になってっから、金俺達より持ってっかもしれねぇけどさ、先輩の見栄、ってのがあんだよ。」
「あはは……。ありがとうございます、ごちそうさまです。」
食事が終わり、話を暫くしていたが、明日があるから、と悠介が言い出して、解散の流れになった。
悠介は、社会人である自分が会計を、と言ったが、晴也と悠治の顔を立てて、と言う話で纏まり、そこは払ってもらった。
「帰り、送っていきますよ。」
「お、悠介車買ったんか?」
「はい、四人なら乗れますから。悠治先輩も送っていきますよ。」
「ありがとう。」
四人で車に乗り、まずは家が遠いと言う悠治の家に向かう。
「悠介君、凄いんだね。高校卒業したばっかりだって言うのに、車買えたなんて。」
「貯金ばっかりしてましたから。高校卒業したら、即家を出ようと思ってたので、その為に貯金してました。」
「そういやそんな事も言ってたな。結局、家族とは仲違いしたまんまか?」
「……。仲違いも何も、最初から無かったんだと思います。俺、いらない子って扱いでしたし、義務だから育ててる、そうしないとじいちゃんの遺産相続の対象から外される、って理由で育てられてた人間ですから。」
悠介は、三人兄弟の真ん中、男男女で生まれた家系の次男だ。
二人目には女の子が欲しかった、と周囲に隠す事もなく言っていた両親は、そもそも悠介を育てると言う選択肢が無かったのだろう。
祖父の脅し、多額の遺産の対象外にするぞ、と言う言葉が怖く手悠介を育てていた、それが事実だと、本人達も認めている。
だから、高校卒業をしたその日に引っ越しをして、家族のもとを去ったのだ。
「なんだか複雑そうな家庭なんだね……。悠介君、苦労が多かったんじゃない?」
「高校入学はだいぶごねられましたね。周囲の目が厳しくなる、って言う親戚の言葉で、やっと入れた感じです。三者面談とか、家庭訪問とか、授業参観とか、入学式卒業式、何にも来なかった人達ですよ。俺にとっても、家族って言うのはじいちゃんだけだったのかなって。」
「悠介ってさ、自分の事変わり者だ、変人だって言うけどさ、それって、お父さん達に愛されたかったのかもね。ほら、問題行動をする子供って、親に振り向かれたいから、って言う事あるじゃない?悠介は問題行動なんてしてなかったけど、そうなのかなって。」
浩介も、そこまで突っ込んだ話は聞いた事が無かった。
ただ、家族との折り合いが悪い、家族だとは思っていないから、高校卒業と同時に出ていくつもりだ、と言う事は聞いていたが、確かに、悠介の両親は、中学の入学式や小学校中学校の卒業式には来ていなかった、と思い出す。
「……。悠介ってさ、不器用なのな。ってのは知ってたけどよ、悲しいな。」
「今更何を思う事も無いですけどね。ただ、生まれてほしくなかったのなら、手放す選択をして欲しかった、ってだけで。」
生まれた事を後悔している訳ではない、産んだ選択をした両親を恨んでいる訳でもない。
ただ、そこまで言ってしまう程だったのなら、産まない選択をして欲しかった、と言う話だ。
「暗い話はよしましょう。せっかく悠治先輩に出会えたのに、こんな話で水を差したくないですから。」
「悠介君……。」
後部座席に座っている晴也と悠治には、悠介の表情は見えていなかった。
浩介だけが見えた、街灯に映し出されている悠介の顔が、とても悲し気だという事に。
ただ、その想いを無碍にしたくない、悠介の気遣いを無かった事にするのは違うだろうな、と黙っていた。
「それじゃ、晴也君、また明日ね。悠介君、浩介君、またご飯行こうね。」
「おう、明日な。」
「お疲れさまでした、悠治先輩。」
「ごちそうさまです。ゆっくり休まれてください。」
悠治先輩の実家の前まで車を走らせて、ここから晴也先輩の家に送っていく。
悠治先輩は、また会おうね、って言ってくれて、それでバイバイした。
「あ、そこ左な。」
「はーい。」
「悠介、緊張して無かった?」
「ん?そうだな、ちょっとだけ緊張した。でも、流石に人と関わるのも慣れてきたからな、緊張する度合が減って来たよ。」
晴也先輩は、今でも浩介の事が好きなんだろうか。
悠治先輩と付き合ってるって言っても、浩介への想いが全部無くなったのかと聞かれると、違う気がする。
今では後輩としてみてる、とは思うんだけど、好きって言う感情の種類が変わったのかな、って。
「悠治先輩、良い人ですね。晴也先輩、良い人と巡り合えて良かったです。俺、ちょっとホッとしてますよ。」
「なんだなんだ?浩介とられると思ったんか?」
「それは無いですよ、浩介は一途だって知ってますし、自信はありましたから。ただ、新しい学び舎に行って、新しい恋人を選んだら、なんて弱気になった時期はありましたけどね。」
「らしくねぇな。悠介はもっと厚顔不遜っちゅうか、自信があった奴だと思ってたぞ?」
「厚顔不遜は悪口でしょうに……。でも、あの頃なんでそんな事思ったのか、って言われると、ちょっとナイーブにでもなってたのかなって、思うんです。浩介と別々の場所に行くって言うのが、信じられなくて、自分の中で折り合いがついてなかったんじゃないかって、思うんです。」
「今は違うんか?」
晴也の問いに、悠介がどう答えるか、浩介にはなんとなくわかった。
厚顔不遜、ではないが、浩介の中では、悠介は恋愛に関しては自信があって、いつも自分を引っ張ってくれる人、と言う認識だったからだ。
「今では思いませんよ。俺以外に、浩介の隣は務まりませんし、任せるつもりもありません。誰が相手だったとしても、負ける気はしないです。」
「そだそだ、それが悠介らしいぞ?そんな感じで、周りなんて関係ねぇってか、己の信念を貫き通すって言うか、そんな感じ。」
「悠介、本当に自分の想いは貫くもんね。信念を曲げない、とっても素敵な事だと思うなぁ。」
あの頃の自分はどうかしていた、と悠介は笑う。
自信が無くなっていた、と言うより、浩介の足を引っ張りたくなかった、と言うのが本音なのだろうが、悠介らしくない、と言うのには違いがないだろう。
それ位、悠介は浩介と付き合っている事を自信に思っていて、誰にも渡さない自信があった、と言う風に晴也からは見えていたのだ。
それがどうして、一旦別れると言う話になったのか、と興味はあったがつつくと嫌な思い出を想いださせる事になりそうだな、と聞くのを遠慮していた。
「まあでもよ、浩介と悠介はくっついてて一人みたいなとこあるからよ、安心したぞ?」
「晴也先輩……。ありがとうございます、僕達の事を想ってくれて。」
「そりゃ、大事なバッテリーだからな。」
大事な想い人、と言うのは言わないでおこう、と晴也は考えた。
今でも大切に想っている、好きと言う感情が無くなった訳ではない、しかし、今の二人の邪魔をしたくはない、と。
「それじゃ、浩介また明日なー。悠介、送ってくれてありがとな。」
「はい、また明日!」
「また飯行きましょう。」
晴也先輩を家まで送って、ここから十五分位で家に着く。
車をゆっくりと走らせながら、浩介と二人で、悠治先輩に会えて良かったな、なんて話をする。
「悠治先輩、元々文系だったんだって。昔はぽっちゃりしてて、それがコンプレックスだったんだって。それで、筋トレ始めたら、あんなになるまで夢中になっちゃった、って言ってたよ?」
「そうだったのか。うーん、俺は体型コンプレックスじゃないからなぁ……。少しは痩せなきゃ健康に悪い、とは思うけど、それ以上でも無いしな。」
「人によりけりなんだろうね。僕は、悠介のお腹好きだよ?ムニムニしてて、触ると安心するんだ。」
そう言えば、浩介は俺の腹を良く揉んでる。
最近はしなくなったから、興味でも無くなったのかと思ったけど、多分精神的に余裕が無かったからしなかったんだろうな。
些細な事、小さな違いかもしれないけど、これからはそういう事にも反応出来る様にならないといけないし、そう言う所を目指してる訳だし、もうちょっと敏感にならないとな。
「帰ったら揉むか?」
「良いの?」
「浩介の手ってあったかいからさ、心地良いんだよ。揉まれると、ちょっとホッとするって言うかさ。」
本心なんだけど、ちょっと恥ずかしくもある。
元々、本心を語るのが苦手な方だったのは自覚してる、それを無理して、浩介が立ち直れる様にって話してる訳だけど、まだまだ慣れないな。
浩介もそれを理解してるのか、くすくす笑ってる。
「じゃあ、帰ったらいっぱい揉もうかな。悠介のぷにぷにお腹、大好きだから。」
「久しぶりだな、そう言う事するのも。」
もうちょっとで家に着く、まだ運転には慣れてない部分があるけど、もう車の通りも少ない場所だし、安心だ。
後は駐車だけど、まあバックカメラついてるし大丈夫だろ、って考えて、ハンドルを握り直す。
「ふー、疲れたな。」
「お疲れ様、運転ありがとうね、悠介。」
「良いんだよ、俺も運転慣れておきたいし。」
家について、ちょっとため息。
ベッドに座って、運転と緊張の疲れを取ってると、浩介が後ろに回ってきて、抱き着いてくる。
そのまま腹を揉まれて、浩介の手があったっかくて、懐かしい気持ちになる。
昔から、よくこうやって腹を揉まれてた、浩介が後ろから抱き着いてきて、学校なんかでもやられて。
皆がいろいろ言ってきた事もあったけど、それも時間と共に無くなっていって。
いつからかそれが当たり前になって、学校の休み時間なんかは浩介は俺の腹を揉んでずっと過ごしてたりして。
「懐かしいな。半年位してなかっただけなのに、ずっと前に感じるよ。浩介の手の温もりが、懐かしい。」
「僕も、悠介のお腹が懐かしいよ。……。ずっと、こうしたかった。ずっと、ずっと一緒だと思ってたから。」
浩介は、時々泣いてたり、泣きそうになったりする。
今もそうだ、必死に堪えてるんだろうけど、声が涙声になってて、今にでも泣き出しそうだ。
「俺はここにいるよ。どこにもいかない、ここにいる。ここにいるんだ、浩介。浩介の隣に、浩介と一緒に。ずっとここにいる。」
「約束、だよ……?離れ離れにならないって、ずっと一緒にいるって……。」
「約束だ。」
浩介の手に手を重ねて、さすりながら話をする。
浩介は、涙声なのをばれたくないんだろう、必死に堪えながら、きっと泣いてるんだろう。
「ずっと一緒だ。俺達は、死ぬ時まで一緒だ。たとえどっちかが死んだとしても、想いは残る。だから、ずっと一緒だ。」
「うん……。」
背中が濡れてる、浩介は俺の背中に顔をつけながら、泣いてる。
涙、それは悲しいだけじゃない、きっと、悲しいだけじゃない。
そう信じて、俺は浩介に想いを告げた。




