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お前、捨てられたんだってな。  作者: 悠介


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7/14

愛し合い、助け合い

「じゃあ、バイト行ってきまーす!」

「はいよー、行ってらっしゃーい。」

 入学式があった週の土曜日、悠介は休みでのんびりしていて、浩介はバイトへと向かう。

 バイトを初めて約三週間、やっと常連の名前を覚え始めた浩介は、バイトが楽しいと感じていた。

 店主の宮本が気を使ってくれているのには気づいている、しかし今はその気遣いを受け取るべきだ、と悠介に言われていて、いつかお返しをしなきゃな、と言う言葉を信じていた。

「店長、お疲れ様です!」

「お、浩ちゃん来たねぇ。今日は団体さんが来るけど、大丈夫かい?」

「任せてください!」

 賄で食べる食事も美味しい、そろそろ店の味も覚えてきた。

 悠介の料理も美味しいと浩介は思っていたが、やはり宮本が五十年掛けて作り上げてきたレシピにはかなわない、と悠介は言っていた。

 浩介は、自宅兼休憩所になっている部屋で着替えて、前掛けと三角巾をして、準備完了だ。

「それじゃ、今日もよろしく!」

「はい!」

 浩介は元気良く返事をする、まだ陰りが無くなった訳ではない、悲しい気持ちが無いわけではない、しかし、空元気でも、元気でいれば何とかなる、と。


「ふー……。」

 浩介はバイト中、俺は夕飯を独りで食べながら、これからの事を考える。

 浩介は将来野球選手か、野球関係の仕事につきたい、って言ってた、そうなれたら安心だ、そこまでは俺が踏ん張らないと、って。

「でも、なんでなんだろな……。」

 独り言、俺は昔から独り言が多いタイプで、独りでいる時間が多かったもんだから、その癖は中々治らない。

 そういう所も、周りに不気味がられて怖がられてた部分の一因、なのはわかってるんだけど、中々癖は消えてくれない。

「浩介の両親は……。」

 疑問に想ってるのはそこだ、浩介の両親は、なんで浩介を独り置いて行ったのか。

 連れ子って言うか、お父さん方の親戚の子だって言うのは知ってる、それは浩介から聞いた。

 でも、だからって、高校卒業なんて微妙な時期を狙って、黙って引っ越す理由がわからなかった。

 それこそ、うちみたいに仲が悪かった、ならわからなくもないけど、浩介の家は、見た感じとても仲が良かった。

 ご両親とも顔見知りで、仲良くしてもらってた、良いご両親だなって言う印象があって、だから信じられないって言う部分も大きい。

 ドッキリか何かじゃないか、ホントは浩介の両親は近くにいるんじゃないか、って思わなくもないけど、浩介が嘘をつくとも思えないし、事実実家は売り出しに出されてた。

「んー……。」

 理解出来ない、それこそお母さんが血が繋がってなかったって言うのが、ネックだったんだろうけど、でもそれでも、今までは家族としてやって来ただろうに。

 いきなりいなくなって、浩介独り残して、って言うのは理解に苦しむって言うか、わからない。

 浩介は良い子なのに、とも思うし、無責任な、とも思うし。

「まあ、仕方がないのかな。」

 起こってしまった事は仕方がない、事実は変えられない。

 それはわかってる、でも納得がいかない。

 借金があって、借金取りに浩介だけ残して、って言う話の方が、まだ納得出来る位には、浩介を独り置いて行った理由がわからなかった。


「浩ちゃん、お疲れ様!今日は何食べるかな?」

「お疲れ様です!えーっと、じゃあかつ丼で!」

「かつ丼だね、了解!」

 午後十時、バイトが終わった浩介は、宮本にいつも食べさせてもらっている賄を選んでいた。

 今日は豚肉が余るかなぁ、と言う宮本の言葉を覚えていたのか、かつ丼をリクエストする。

「そうだ、生活にはもう慣れたかい?」

「はい、だいぶ慣れてきました。悠介も良くしてくれてますし、大学の方でも先輩にお世話になってます。」

「そっかそっか、それは良かったなぁ。」

「店長が雇ってくれなかったら、もうちょっと大変だったと思いますよ?」

「そうかい?俺は浩ちゃんの人柄を見て雇っただけだからね、お礼を言われる様な事じゃないよ。」

 宮本は、丁度求人を出したタイミングで浩介が見つけてくれた事に、感謝していた。

 気難しい性格、なわけではないが、悠介と言う証人がいる浩介を、たまたまとはいえ雇った、と言うのは、宮本にとっても棚から牡丹餅だったのだろう。

 厄介な性格の応募者だったらどうしようか、などと考えていたのだが、浩介を見る限りではそれもない、そこも安心していた。

「はい、かつ丼ね!」

「美味しそうです!いただきます!」

「はい、どうぞ。」

 宮本は、自分の分のちょっとした定食を食べながら、浩介を眺めている。

 浩介は口いっぱいにかつ丼を食べながら、それを見つめ返していた。

「……。どうかしましたか?」

「いやね、悠ちゃんの選んだ相手って言うのが、浩ちゃんで良かったんだねって思ってね。あの子、昔から気難しい所があっただろう?友達がいない、って嘆いてたのが懐かしいよ、それでも、浩ちゃんと出会って変わったみたいだね。」

「そうだったんですか?」

 それは悠介が小学生時代の話、浩介と知り合う前の話だ。

 悠介は、ここに来る度に、友達が出来たら良いな、宮本のおじいちゃんと友達になれたらな、と言っていた記憶がある。

 そんな悠介が、友達を超えて恋人と仲を育んでいた、それが浩介で良かった、と老婆心ながら思っていたのだろう。

 悲しい子だ、こんなにも可愛い子だったのに、と悲しい気持ちになった覚えがあったが、ちゃんと浩介と言う恋人を見つけ、仲良くしている、と言うのは、宮本にとって孫の様な存在であった悠介を思うと、安心出来る材料だ。

「悠ちゃんはね、俺を友達にって言ってくれたんだよ?でもねぇ、どうしてもおじいちゃんって言うのが抜けなくてねぇ。小学四年生の頃に最後に会った後、どうしてたかは気になってたんだよ。でも、連絡先も知らなかったし、悠ちゃんの方から訪ねてくる事もなかったしね。ずっと、忘れられたと思ってたよ。」

「そうだったんですか……。僕が会う前に、そんな事があったんですか……。他には、何か悠介のお話とか無いんです?」

「そうだねぇ。初めて会ったのはいつだったか、確か十五年前位だったかな。悠ちゃんのおじいちゃんがね、孫が可愛いんだぞって連れてきてね、その頃はおじいちゃんは自炊をしてたから、久々に来たと思ったら孫が出来てたのか!ってびっくりしてねぇ。ちょっと引っ込み思案だったけど、可愛い子だったよ?」

「悠介が引っ込み思案……。でも、ちょっとわかる気がします。悠介って、ちょっと人と関わるのが苦手だ、って言ってましたし。でも、悠介にも良い所は沢山あるんだ、って思ってたから、僕からおせっかいをして。それが、今じゃ逆になっちゃったんですもんね。」

「浩ちゃんが結んだ縁が、良かったんだろうねぇ。浩ちゃんは見る目があるね、悠ちゃんの良さを、ちゃんと理解してくれてたんだから。ありがとう、悠ちゃんと一緒になってくれて。」

「お礼を言うのは僕の方ですよ。悠介がいなかったら、今頃僕は死んでましたから。悠介が、僕に生きる場所をくれたんです。生きても良いって、生きるべきだって。だから、お礼を言うのは僕の方なんです。」

 浩介は、本当に悠介がいなかったら死んでいただろう、と思っていた。

 それだけ追いつめられていたし、実際に死のうとしていたのだ、その言葉には実感があると言うか、確信めいた物がある。

「お互い様なんだね、二人は本当に。良かったねぇ、悠ちゃんも浩ちゃんも、可愛い子達だよ。」

「褒められても何もでませんよ?」

「素直な気持ちだよ、浩ちゃん。」

 宮本はニコニコと笑いながら、二人が出会って良かった、と感じていた。

 きっと、互いに支え合って、生きていく運命だったのだろうと。


「ただいまー。」

「お帰りー。」

「悠介、もうご飯食べちゃった?」

「食べたけど、浩介は?」

 十一時、ちょっと遅くに浩介は帰ってきて、何かを手に持ってる。

「店長がね、悠ちゃんに持って行って上げて、って言って持たせてくれたんだ。」

「宮本さんが?それはありがたいな、腹は減ってないけど、いただこうか。」

 浩介が袋を渡してくる、中身は生姜焼きととんかつだった。

 美味しそうだ、ちょっと前に夕飯は食べたけど、まだ食べれるし、丁度良いかな。

「浩介は食べて来たのか?」

「うん、お腹いっぱいに賄貰ってきた。」

「了解。」

 浩介が腹いっぱいになるって事は、相当食べてきたんだろうな。

 浩介は少し細身ではあるけど、やっぱり十代の食欲って侮れないって言うか、俺は太ってるからまあ見た目通りなんだけど、二人でも結構すぐ飯が無くなる。

 食べ盛り、って言うかなんて言うか、まあそんな感じで、二人揃って食べるもんだから、飯の用意し甲斐がある。

「いただきます。」

 レンジでチンして、とんかつと生姜焼きをいただく。

 やっぱりこの味は懐かしい、昔は苦手だった味だけど、今では美味しく感じる、懐かしさすら感じる。

 とんかつも良い揚がり具合で、サクサクしてて重くない、相変わらず料理の腕は訛ってないみたいだ。

「美味しい?」

「うん、美味しい。宮本さん、もう八十にはなるだろうに、腕が衰えないってのは凄いよな。」

「店長、そんなになるんだ。七十くらいかと思ってた。」

 宮本さんの正確な年齢は知らない、でも、じいちゃんと大体一緒って言ってたから、多分八十くらいだろう。

 同世代で、戦争経験者で、って盛り上がってたのが、遠い昔みたいに思えるな。

「また悠ちゃんもおいで、って言ってたよ。会いたがってた。そうだ、悠介ってさ、店長に友達になってほしいなって言ってたんだって?」

「ん?うーん……。そうだな、昔の事だけどよく覚えてるよ。宮本のおじいちゃんが友達だったらな、なんて話をしたな。あの人、覚えてたのか。」

「なんでそういう話になったの?」

「そうだな……。俺、あの頃は友達なんてのがいなくてな、周りからは変わり者、家族からは疎まれてて、じいちゃんと仲が良かった宮本さんなら、友達になってくれるんじゃないか、って思ったんだ。あれは小学三年の頃だったかな。」

 懐かしい話だ、じいちゃんが施設に行く一年前、宮本のおじいちゃんに、友達になって欲しいな、ってせがんで、困らせて。

 それから一年経って、じいちゃんが施設に行ったっきり、縁が無かったから、なんとも言えないけど、そうか覚えててくれたのか。

「僕達が出会う前なんだね、そう言えば悠介の噂って聞いた事あったかも。友達を作ろうとしない子がいます、そういう子には手を繋いであげましょう、って先生が言ってた気がするよ。それって多分、悠介の事じゃない?」

「先生には心配されたな、そう言えば。って言っても、仲介してくれる訳でもなく、見てるだけって感じだったけど。……。あの頃、俺は友達のつくり方がわからなかったんだ。恥ずかしい話だけど、引っ込み思案でな、それで人と話すのが苦手だったんだ。だけど友達は欲しかった、憧れてた、そんな感じだ。」

「うーん……。悠介は確かに、最初の方ぎこちなかったから、なんとなくわかるなぁ。でも、先生は何もしてくれなかったんだ。僕の担任の先生は、何とかしないと、って言ってたよ?」

 懐かしい思い出、と言えば思い出なんだけど、黒歴史と言えば黒歴史。

 引っ込み思案だった俺は、友達のつくり方がわからなくて、どうすればいいのかもわからなくて、右往左往しては誰かを困らせて、怖がらせて。

 小学五年になって、浩介と出会うまでは、ホントに友達って言うのがいなかった。

「あれが悠介の事だったんだって知ったのは、中学に入った頃だったかなぁ。ほら、僕はずっと友達だったでしょ?だから、友達がいなくて困ってる子、って言うのが悠介の事だって、暫く気づかなかったんだ。」

「ホントに、浩介は怖いもの知らずみたいに俺と遊んでくれたからな。あの頃はまだ、他に友達もいなかったな。ホントに、浩介がいなかったら、俺はずっと独りぼっちだっただろうな。ずっと独りぼっちで、誰にも認識されずに、死んでいってたんだろうな。ありがとう、浩介。俺を見つけてくれて、俺と関わってくれて。」

「お礼を言われる様な事はしてないよ?ただ僕は、悠介は良い子なんだなって思ったから、遊んでただけだもん。」

「その純粋さに救われたんだよ、俺は。浩介の事を助けられたのは、浩介に助けられた経験があったから、だな。ホントに、お互い様って言うか、なんて話だ。」

 とんかつと生姜焼きを食べ終わって、俺は浩介の頭を撫でてから食器を片づけに大土井頃に立つ。

 それになんでか浩介がついてきたと思ったら、後ろからハグをされる。

「悠介の事、助けられたなら良かった。でも、僕も助けてもらってありがとう。お互い様なら、僕だって感謝の言葉を言っても良いよね?」

「そうだな。お互い様なんだから、お互いありがとうって言いあうのは問題ないな。」

「ありがとう、悠介。」

 顔は見てない、後ろを向いたまま強く抱きしめられてるから、振り向けない。

 でも、浩介は泣いてる気がした。

 なんでかはわからない、でも、浩介は泣いてる気がした。

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