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お前、捨てられたんだってな。  作者: 悠介


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6/15

先輩との再会

「今日から大学か、行ってらっしゃい、浩介。」

「うん、行ってきます。」

 四月六日、今日は浩介が大学に入学するひだ。

 天気は良い、ちょっと花粉症の人は辛そうな位天気が良くて、晴れの日は丁度良い。

 玄関でキスをして、浩介を送り出す。

「さて、俺も準備して行かないと。」

 今日は月曜日、土日を休んでちょっと気が緩んでるけど、頑張らないと。


「緊張するなぁ……。」

 学び舎を変える、新しい学び舎になる、と言うのも何度目か、三年ぶりの入学式に来ていた浩介は、緊張した面持ちで学長の話を聞いていた。

 この後はキャンパスの中を見学しながら、部活動などの勧誘を受ける、と言う認識だったが、浩介は部活に入るかどうかを悩んでいた。

 悠介は、プロ野球選手になるのなら頑張ってほしい、と言っていたが、実際の所、バイトもあり、これからの事もあり、という事で、浩介は少し悩んでいたのだ。


「君、ラグビー部入らないかい!」

「えっと、あはは……。」

 入学式が終わって、各々部活動の部員達が、新入生を勧誘しようと熱意を出している。

 浩介は若干人ごみに酔いながら、野球部の応募を探す。

「お、浩介じゃん!」

「あ、晴也先輩!」

「待ってたぞー!」

 一個上の先輩である、晴也が浩介を見つけて、声をかける。

 晴也は高校では野球部の先輩にあたり、この大学を選んだのが去年の話だ。

 浩介は、それを追う様に、と言うと少し語弊がありそうだが、晴也の背中を追って、この大学を選んだのだ。

 学力的には問題ない、と言うより浩介はそもそも頭がいい方で、高校の偏差値が四十の所を、模試で偏差値五十七を叩き出す程度には、賢かった。

 この大学の偏差値が大体五十程度、難なく入学出来る程度の賢さ、と言えば伝わるだろうか、浩介は文武両道をモットーにしていて、学業を疎かにする事をしなかった。

「晴也先輩も野球部なんですか?」

「そうだぞ!約束通り、来てくれたな!」

「はい、でも……。ちょっと悩んでるんです、これからも野球を続けても良いのかなって。」

「なんだなんだ?なんかあったのか?」

 晴也に説明を始める浩介、親に捨てられた事、今は悠介と一緒に暮らしている事、悠介には野球を続けてほしいと言われているが、自分はバイトを増やして家計を支えるべきなのではないか、と考えている事。

「……。そっかぁ、そんな事があったんだな。辛かったな、浩介。お前は元気で親と仲が良いやつだったから、余計に辛かっただろうな。でも、悠介は続けてほしいって言ってるんだろ?あいつ、稼ぐ事は得意です、なんて言ってたしな。だから、甘えても良いんじゃないか?俺とバッテリー組むの、他にやれるやつもいないしな。」

「晴也先輩……。」

「俺は続けてほしいって言う、悠介の言葉を信じても良いと思うぞ?きっと、あいつは浩介に本心からそう思ってるんだろうさ。だってよ、俺が認めた奴だぞ?」

「……。本当に、続けても良いんですかね……。迷惑じゃ、無いですかね……?」

 道の端、少し縁になっていて座れる場所に座って、浩介は暗い顔をしている。

 今までも、これからも、悠介に迷惑を掛けて生きていく事になってしまわないか、もしも、それが悠介の負担になってしまったら、と考えているのだろう。

 晴也は、そんな浩介の感情を慮りつつ、しかし悠介はそれを望まないであろう事も理解していた。

 晴也は、高校に入ってから浩介と出会い、恋に落ち、告白をした。

 それが晴也が二年の頃、悠介と浩介はもう付き合っていた。

 それを知ってから、敵情視察とでも言えば良いのだろうか、悠介の事をよく観察していた晴也が導いた答え、それは悠介の心の優しさには勝てない、だった。

「悠介はさ、ホントに優しい奴だから。だから、浩介に対して本音しか言ってないと思うんだ。だって、ずっと付き合ってたんだろ?」

「一回、別れたんですけどね……。でも、悠介は僕を好きでいてくれる、って。でも……。それは、僕が捨てられたから、気を使ってるだけなんじゃないかなって……。」

 この話は、悠介にはしていない、出来ないだろう。

 悠介が同情心で浩介を引き取ったとは思っていない、だけれど、心のどこかでその考えが拭えない、そんな複雑な感情を、浩介は抱いていた。

「なんだよ、別れた時期があったのか?」

「別々の道を行く事になるんだから、一回お別れしようって、言われたんです……。でも、僕は悠介以外の人とお付き合いって言うのも……。」

「そうだよな、浩介はそういう子だったもんな。悠介の奴、浩介と別れるなんて馬鹿な事したもんだなぁ。別れた後に、誰かに取られたらどうするつもりだったんだろうな?」

「きっと、悠介は僕が幸せになる為に、って言ってくれたんだと思います。僕は、悠介と一緒にいられる事が幸せだって、ずっと思ってたのに……。だから本当は、今もそう思ってるんじゃないかって、僕とお別れを選びたかったんじゃないかって……。」

 話をしながら、ぽつぽつと涙が出てきてしまう浩介。

 晴也は、浩介が泣いている所を見た事がなかった、いつもニコニコと笑って、元気でいるのが浩介だと認識していた。

 それが、こう泣いていると言うのは、少し信じがたい事でもあった。

「……。あのな、浩介。悠介はそんな奴じゃない、それはお前が一番わかってる事だろ?一番信じてやらないといけない事だろ?他の後輩から噂は聞いた事あるぞ?浩介が、悠介の為に中学時代頑張ってたんだって、それで、悠介の誤解が解けて皆と仲良くなったんだって。だから、悠介は本心では浩介と別れたがってなんてないさ。だってよ、お前らお似合いのカップルじゃねぇか。俺も妬いてた時期もあったけどよ、悠介になら、お前を任せられるって思ったんだぞ?それが、一回別れた位で絆が無くなっちまう程、お前らはうっすい関係だったんのか?」

「晴也先輩……。」

「俺は思ったんだ。浩介の事好きになってよ、恋人がいるってんで、奪ってやろうってさ。でもよ、悠介見てるとよ、そんな気持ちもなくなっちまう位、浩介の事が好きなんだって、俺にもわかる感じだったぞ?そんな悠介が、同情とか哀れみで浩介と付き合うと思うか?」

 晴也は、浩介の涙を拭いながら、その立場に自分がいられたら、もしもそうなっていたら、どうしていたかを考える。

 晴也は実家暮らしだ、浩介との仲を親に認めてもらっていたとしても、一緒に住んで養うと言う考えには至らなかっただろう。

 浩介が自立するまでを何とか支援する、程度は考えたかもしれないが、きっと何も出来なかっただろう、とも考える。

 それが出来る悠介が、そんな事をしてまで浩介に生きてほしいと願った悠介が、憐憫や同情でそうしている、とはどうしても思えなかった。

「浩介、お前は幸せだよ。確かに、親と離れ離れってのは、俺も信じらんねぇ。なんかの冗談だったら、って思うさ。でもな、浩介。お前には、悠介がいてくれるだろう?悠介がどこにもいかない、って言ったら、あいつは絶対にどこにもいかない。それは、俺が保証する。」

「でも……。」

「恋敵の事、これでもよく分析してるんだぜ?あいつは本心から、浩介の幸せを願ってる。それが、どういう形になったとしても、それは変わんないんだろうさ。妬けるな、そんだけ愛されてるってのも、そんだけ愛してるってのも。」

「……。僕、不安だったんです……。悠介が、もしかしたら遠くに行っちゃうんじゃないか、って……。」

「あいつはどこにも行かないよ。あいつは、生涯浩介の隣にいてくれる、そんな奴だ。」

 浩介の不安を拭っていく晴也、それは悠介を信頼していなければ出てこない言葉だろう。

 恋敵として、悠介をそれだけ認めているから、浩介に対して、そういう言葉を言えるのだろう。

「ありがとう……、ございます……。僕……、僕……。」

「不安になるのも無理はねぇけどさ、悠介の事は信じてやろうぜ。あいつは、不器用な奴かもしれない、ちょっと言葉が足りない奴かもしれない。でも、浩介に対する愛情ってのは、誰よりも深いんだ。俺が認めてる位だぞ?あいつ、ホントにすげぇよ。」

 晴也は、そこまで浩介が悠介を愛していて、悠介が浩介を愛していて、と言うのが羨ましかった。

 自分がそこにいられたら、と願う事もあったが、今ではその気持ちも落ち着いている、純粋に浩介達を応援しようと考えていた。

 それは間違っていなかった、と晴也は考える、もし自分が今の悠介の立場だったら、抱えきれなかっただろう、と。

「あいつは良い奴だよ。ホントに、あいつになら浩介を任せても良いと思えるんだ。だから、甘えたって良いんじゃないか?あいつ、本気で言ってると思うぞ?」

「そう、ですかね……。僕、迷惑、掛けてないですかね……?」

「そんな考え、あいつの中には無いんだろうさ。俺が保証する、あいつはそういう奴だ。」

 涙が引いていく、浩介は少しだけでも安心したのだろう。

 晴也の事は先輩として尊敬していた、それこそ想いを伝えられた時、悠介がいなかったら付き合っていただろう、とも思っていた。

 そんな晴也の言葉だから、浩介は受け入れれられるのだろう、それだけの信頼関係、と言うものを、きちんと築いて来たからだろう。

「僕、野球部入ります。バイトもあるので、毎日は出来ないかもしれないですけど……。でも、悠介の為にも、僕の為にも、頑張ります。」

「そうだ、その調子だ浩介。お前は優しいし、気立てが良い子だからな、皆気に入ると思うぞ?」

「そう言ってくれるの、先輩と悠介位ですよ?」

「皆言わないだけだよ。言って惚れた腫れたは悠介がおっかないから言わないだけだ。」

 浩介は、涙の跡を残しながら、ぎこちなく笑う。

 きっと、それが二人にとって良い選択肢なのだろう、きっと二人が喜べる選択肢なのだろう、と信じて。


「ただいまー。」

「お帰り、浩介。入学式、どうだった?」

「うん、なんともなかった。晴也先輩に会ってさ、野球部入る事にしたよ。」

「そっか。晴也先輩かぁ、懐かしいな。あの頃、恋敵だなんだってむっちゃ睨まれてたけど、別に怖くはなかったな。ちっちゃ可愛い人が睨んでら、位にしか思ってなかったよ。」

 今日は俺の方が先に帰ってきてて、夕飯を準備しながら浩介を待ってたんだけど、そうかあの人もあの大学行ってるんだっけか。

 晴也先輩、って言うのは、俺達の一個上の先輩で、身長が確か百六十なんぼかしかなくて、俺が百八十超えてるもんだから、ちっちゃい人って印象だ。

 悔しいけど認めてやるー!なんて怒鳴られた時には、何事かって思ったけど、浩介の事が好きなんだって聞いて、なんとなくその言葉の意味を納得して。

 浩介がキャッチャー、晴也先輩はピッチャーで、バッテリーを組んでて。

「最初に悠介に合わせろって言われた時さ、友達を紹介して欲しいのかな?って思ってたんだけど、まさか恋敵の視察、って言い出すとは思わなかったなぁ。でも、今でも僕達の事、応援してくれてるよ?」

「それは嬉しいな。恋敵ー!って怒鳴られた時は、ホントにどうするべかなって思ったぞ?あの頃はあの人も若かったからな、俺はびっくりした、でも嬉しかったな。」

「嬉しかったの?」

「浩介を想ってくれる人が、こんな所にもいるんだ、って思うと、ちょっと安心したんだ。俺の恋人は、こんなに色んな人に好かれる程、魅力的な人なんだなって。浩介の魅力が、正しく周りに伝わってるんだなって、ちょっと安心したんだよ。」

 あはは、って浩介は笑ってる、それを当時は伝えてなかった、ただ晴也先輩とひと悶着あった、とは話したけど、嬉しいと思った事に関しては内緒にしてた。

 それをなんで今になって言うのか?って聞かれたら、今の浩介には、一人でも多くの理解者とか、仲間がいた方が良いだろう、って思うからだ。

 そう、今の浩介は、崖に立ってる。

 崖から俺だけが手を引っ張ったって、重力に逆らえなくて、逆らう気になれなくて、落ちちゃう事があるかもしれない。

 だから、一人でも多くの人が、浩介の手を握って、落ちない様にしてくれる事が、ありがたい。

「……。晴也先輩、今でも僕の事好きだって、言ってくれたんだ。でも、僕には悠介しか考えられないから、任せた、って。」

「そっか。それは嬉しいな、恋敵って怒鳴られた甲斐があるってもんだ。」

 今の立ち位置、浩介の恋人っていう場所を譲る気は無い、それはもう吹っ切れたって言うか、そんな気にはならない。

 でも、晴也先輩みたいな人がいてくれたら、助かる部分もある。

 利用する訳じゃないけど、浩介にとって何が良いのか、何が最善か、そう考えると、あの人の感情は無碍には出来ないな。

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