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お前、捨てられたんだってな。  作者: 悠介


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きっと、幸せだったと

「浩介が社会人って言うのは、ちょっと信じられないな。」

「子供っぽいって事?」

「違うよ、時が経つのは早いなって話だ。」

 二年が経った。

 二年間、俺達の関係って言うのは変わらなくて、浩介がとうとう社会人になって、仕事を始めるってなった。

 結局、野球選手にはなれなかったけど、外国人選手の通訳の仕事について、野球関係者の手伝い、っていう夢は叶った。

 俺もあと一年経ったら大学を卒業する、やっと相談業務の根幹に関われる様になる。

「今日は指輪取りに行くんだよ?悠介、覚えてる?」

「覚えてるよ、大丈夫。」

 指輪、きちんとした結婚指輪を、一か月前に注文した。

 今日はそれを取りに行く日、ちょっとおしゃれをして、格好つけて取りに行くんだ。

「じゃあ、七時にジュエリーショップの前でね。」

「おう。」

 お互い、仕事に向かう。

 途中までは電車が一緒だから、一緒にスーツを着て電車に乗って、乗り換え駅で一旦バイバイだ。


「お疲れ様、坂入君、あと一年の踏ん張りどころだね。論文は何書くか決めてるのかい?」

「はい、児童心理に関して書こうと思ってます。」

「手伝える事があったら、なんでも言ってね。」

「ありがとうございます、それじゃ俺、今日は予定があるので。」

 仕事が終わって、ウキウキ気分で都内のジュエリーショップに向かう。

 浩介が来るまでちょっと時間がある、少し立ち止まって待ってる。


「あのー、そこのジュエリーショップに行かれたんですか?」

「はい……?ぐ……!?」

 声をかけられた、と思ったら、後ろから強い衝撃を受ける。

 痛い、とてつもなく痛い、まるで下腹部が焼けるみたいだ。

「けっ!てめーみたいなやつが場違いなんだよ!」

「きゃー!」

 足に力が入らなくなって、倒れる。

「げふ……。」

 口の中から血が出てくる、痛覚が体中に信号を出してるみたいに、痛みが止まらない。

「悠介!?」

 声が、聞こえた気がする。

「こ……、う……。」

 浩介、どうか。

 どうか、幸せになってくれ。

 俺は、自分の運命を知った、理解してしまった、それは、ここで終わる。

 ならばせめて、最後まで。

 最期まで、浩介の幸せを願いたかった。

 どうか、どうか神様。

「悠介!悠介!」

 どうか。

 浩介が幸せでありますように、最期まで、笑って生きていけます様に。

 今際の際の願い、それをどうか、聞いてください。


「悠介!しっかりして!悠介!」

 ジュエリーショップに到着した浩介は、血にまみれて倒れている悠介を見つけ、駆け寄った。

 まだ生きているかもしれない、まだ間に合うかもしれない。

 スポーツをやっていた知識として、軽い止血方法は知っていた。

「救急車!救急車を呼んでください!」

 周りの人間に怒鳴りながら、浩介は悠介の傷口を押さえる。

 何がどうした、などと考えている暇はない、そんな事を考えていたら、悠介が死んでしまう。

 パニックになりながら、浩介は最適ともとれる選択をしていた。

「悠……、介……!」

 しかし、悠介は呼吸を止めてしまっていた。

 心肺の確認をしようにも、止血している手を離せない、自分の心臓の音で悠介の心肺を測れない。

「悠介!」

 浩介は怒鳴る。

 死ぬなと、死んではいけないと、死んでほしくないと。

 大粒の涙を溢しながら、叫び続けた。


「浩介……。悠介の事、残念だったな……。」

「晴也先輩、来てくれたんですね。」

「あったり前だろ……。ずっと、応援してたんだからよ……。」

「晴也君、僕達も辛いけど、浩介君が一番辛いんだ。今は泣いちゃだめだよ、僕も泣きたい気持ちはあるけどね。」

 二日が経ち、悠介の葬儀が執り行われた。

 浩介は喪主として挨拶をして回ったり、葬儀場関係者と打ち合わせをしたりと、忙しそうにしていた。

 晴也と悠治、昌、それに法人の代表として会長と高橋、高校の友達、中学の友達、宮本、様々な人達が悠介を送りに来ていた。

 悠介の家族は連絡がつかなかった、悠介のスマホには家族の連絡先が残っていなかったし、そもそも緊急連絡先は浩介になっていた。

 しかし、家族が来た所で、悠介は喜ばなかっただろう、と浩介は思っていた。

 こうして喪主として、悠介を送る事、それは自分にしか出来ない事なのだ、と。


「ねぇ悠介、悠介は幸せだった……?」

 浩介は独り、墓前に手を合わせて語る。

 あれから半年、悠介を刺した犯人は捕まって、現在裁判にかけられている。

 浩介は、死んでしまおうかと思った事もあったが、しかし、悠介はそれを望まないだろう、と生きる事を選んだ。

 遺品整理をしている時に、何度も心がくじけそうになった、何度も死んでしまおうと思った。

 しかし、それを悠介は望まないだろう、と。

「僕はね、ずっと幸せだったよ。悠介に助けられて、お返しは出来たのかな……。」

 あっという間だった、あっという間に四年が過ぎて、そして悠介は逝ってしまった。

 悲しみ、苦しみ、それらは一生付きまとうのだろう。

 しかし、浩介は生きる事を選んだ、生きる道を選んだ。

 いつか、悠介にまた会える日が来たら、胸を張って、誇らしく思える様に。

 いつか、きっとまた会えると信じて、天国か地獄かはわからないが、きっといつか、と。


 お前、捨てられたんだってな。

 そういった彼は、ずっと傍にいてくれた、最期まで僕の隣にいてくれた。

 だから、僕も探そうと思う。

 僕を必要としてくれる人が、まだきっといるから。

 だから……。

 だから、安心してね。

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