二人の誕生日
「誕生日おめでとう、浩介。」
「そっか、今日僕誕生日だっけ。ありがとう、悠介。」
季節はあっという間に過ぎて行って、冬になった。
今の家もだいぶ慣れてきた、広くなったから、昌とか高校時代の友達も呼んだりしてて、時々散らかるけど、綺麗に使ってる。
そんな中、今日は十二月十二日、浩介の二十歳の誕生日だ。
「今日は一日休みだろ?俺も休みとってあるからさ、デートしようか。」
「ありがとう、悠介。」
今日は月曜日、本来なら俺は出社なんだけど、有給を貰って休みだ。
今日は一日浩介と一緒にいる日、って言うのは決めてて、何から始めようか、って感じだ。
「まずはプレゼント買いに行くか。浩介、そろそろグローブ変えなきゃだろ?」
「え?うん、そろそろ傷んできたから、新しくしなきゃなーとは思ってたけど……。良いの?」
「良いんだよ。買いに行こう、スポーツ専門店でいいか?」
パーカーを着て、上着を着て、取り合えずプレゼントのグローブを買いに出かける。
浩介は、自分でお金を貯めてグローブを買うつもりだったらしくて、少し驚きながら、俺についてきてくれる。
「こういうのって、どういうのが良いんだ?」
「うーん……。人それぞれだからなぁ。」
スポーツ用品店に来て、グローブを眺めている悠介と浩介。
悠介はグローブの差がわからない、と唸っていて、浩介は欲しかったモデルを探していた。
「あ、あった。」
「これ欲しいのか?」
「うん。」
有名野球選手が使っている!と言う触れ込みのモデルを探した浩介は、本当に買ってもらっていいのか?と言う顔をしている。
悠介はそれを持つと、値段を見てうんと言って、買う気満々の様だ。
「他に必要な物ないか?練習着とか、ボロボロになってきてないか?」
「うーん……。今は大丈夫、最近買い替えたから。」
「そっか。じゃあ、これ買っていこう。」
それ以外に買い物はないか、と悠介が確認をして、レジに向かう。
浩介は、その後ろをついて行きながら、明日は何を買ってあげようか、と考えていた。
「ケーキ、何が良い?」
「えーっとね、チョコケーキが良いかな。」
「じゃあ、このホールの下さい。」
グローブを買って、ケーキ屋に足を運んだ俺達、浩介はチョコケーキが好きだったな、って一年に一回の思い出を振り返りながら、ホールケーキを買う。
まだまだ二十歳、に俺は明日なるんだけど、胃袋は若いつもりだ、ホールケーキ位二人で食べきれる。
夕飯はデパ地下ででも何か良いものを買っていこうか、なんて思いながら、店を出てデパートの中を散策する。
「ねぇ悠介、悠介は何か欲しいもの無いの?」
「ん?俺か?うーん……。思い浮かばないな……。物欲は無い方だとは自覚してるけど、今のままでも十分だからな。」
「でもさ、僕も貰ってばっかりじゃ嫌なんだ。何か、お返しさせてよ。」
お返し、って言われても、本当に何も思いつかないから困ったもんだ。
デパートの中をウィンドウショッピングしながら、何か思いつかないかな、って必死担って考える。
「……。お揃いのパーカーが良いな。ペアルック、今着てるやつは、だいぶ古くなって来ただろ?だから、新しくペアルックで欲しいな。」
「わかった、じゃあ、お店行こうよ。」
「今からか?」
「だって、明日は悠介お仕事入れちゃってるでしょ?なら、今日のうちに買っておきたいなって。」
浩介に手を繋がれて、大きい服が置いてある店まで行く。
普通の服の店だと、俺のサイズがないから、そういう大きいサイズ専門店に行って、一緒に買うのが俺達の普段だ。
「これ良いんじゃない?」
「こっちのデザインも良いな……。」
「悠介、パーカーはこだわるもんね。」
「あんまり買い替えないからな、長く着る物って悩むんだよ。」
大きいサイズ専門店に来て、浩介とお揃いのパーカーを選ぶ。
って言っても、結構店自体が広いし、パーカーも種類が多くて、デザインで悩む。
「これかなぁ……。」
「灰色って良いよね、悠介似合うし、良いんじゃない?」
「そうだな、じゃあこれにしよう。浩介はそれで良いのか?」
「うん。悠介とお揃い、って言うだけで十分だよ。」
結局、灰色にコーヒーカップのプリントがされたパーカーを選んで、浩介のサイズを探して、俺のサイズを探して、それを浩介がレジに持っていく。
「結構いい値段するな……。」
「良いんだよ。僕だって、お金貯めてるんだよ?」
「そっか。じゃあ、ありがとう。」
二着で一万五千円くらいしてて、結構高いの選んじゃったな、と思ったんだけど、浩介がそう言うのなら、たまには甘えよう。
パーカーを買った後、デパ地下に行ってしこたま食べ物買って、家に帰る。
「ふー、お腹いっぱい。」
「美味しかったな。」
「悠介のご飯も美味しいよ?」
「そうか?でも、浩介も少しずつ料理覚えて来たし、そろそろ味で抜かれるかもな。」
浩介の誕生日を祝って、今はお揃いのパーカーを着て散歩をしてる。
夜九時過ぎだから、ちょっとパーカー一枚じゃ寒いけど、まだ堪えられるかな。
「ねぇ悠介、僕からのプレゼント、受け取ってくれる?」
「ん?プレゼントって、パーカーだけじゃなくてか?」
「うん。これ、買ってみたんだ。これからの事を考えると、ちょっと安すぎるかもしれないけど、それはまた改めて買えれば良いかなって。」
そう言って、浩介はポケットから何かを取り出す。
それは手のひらより小さい小さな箱で、中に何かが入ってるみたいだ。
「開けても良いか?」
「うん。」
何かな、って思って開ける。
「指輪?」
「うん、ペアリングって言うんだって。晴也先輩が教えてくれたんだ。悠介の指のサイズ図るの、ちょっと大変だったんだよ?」
飾り気のない、シルバーの指輪。
内側に俺達の名前が刻印してあって、シンプルだけど付けやすい、と思ったのかな。
「ありがとう、浩介。俺はこういうのに気が回らないから。ホントに、ありがとう。今度は俺が買わないとな。」
「つけてみてよ、ピッタリだと思うから。」
浩介は、自分の分って言って、左手の薬指に指輪をはめる。
俺もそれに倣って、左手の薬指に指輪をはめてみる、それはピッタリ合うサイズで、いつの間に浩介は俺の指のサイズを図ってたんだ、って感心する。
「ありがとう、大事にするよ。」
「喜んでもらえて嬉しいよ。悠介、これからもよろしくね。」
「おう。」
ちょっと照れくさいけど、嬉しい。
お揃いの指輪、いつかちゃんとした結婚指輪を買いたいなと思うけど、今はこれで良い。
今はこれが良い、浩介が選んでくれた、浩介が俺の為に買ってくれた、この指輪が良い。
「坂入君、おはよう。」
「おはようございます、高橋さん。」
「今日誕生日なんだって?二十歳になったんだねぇ、おめでとう。」
「あはは、ありがとうございます。」
十二月十三日、今日は普通に出勤で、いつもの如く朝一番に来てた高橋さんに挨拶をする。
「ん?指輪してるの?」
「はい、浩介が、昨日くれたんです。」
「あらあらまあまあ、良いねぇ、甘酸っぱいねぇ。良いじゃない!ずっと一緒にいようって、そう約束してるんだろう?」
指輪に気づかれて、ちょっと恥ずかしいと思ったけど、でも、浩介がくれた物なんだから、恥ずかしがる事もないのか。
堂々としてればいい、と思い直して、高橋さんと話をして始業時間を待つ。
「じゃあ、お疲れさまでした。」
「今日はゆっくり誕生日お祝いするんだよー?お酒飲める様になったからって、羽目を外しすぎない様にねー?」
「わかってますよ、ありがとうございます。」
あっという間に退勤時間になって、俺は帰り道で浩介に頼まれてた買い物を済ませて、家に帰る。
「誕生日おめでとー!」
「おめでとー!」
「おめでとう。」
「あれ、昌に晴也先輩、悠治先輩まで。」
家について、疲れたーなんて思って休もうと思ったら、クラッカーの音に驚かされる。
浩介に始まって、昌に悠治先輩、晴也先輩がクラッカーを鳴らして俺をお祝いしてくれた、って言う事に気づくまで、数秒かかった。
「あ、そっか。ありがとうございます。」
「悠介、やっと一緒に酒飲めるな!」
「悠介が最後だったもんなぁ。晴也先輩に呼ばれた時はびっくりしたけどよ、今でも付き合いあったんだな!俺の事呼んでくれなかったら、拗ねてたぞー?」
「昌……。ありがとう、お祝いしてくれて。」
「さ、悠介、主役なんだから、真ん中に座らないと。」
浩介に誘われて、リビングのソファの真ん中に座る。
ケーキは浩介が注文してくれたのを俺が持ってきた、それは渡して冷蔵庫の中だ。
「じゃあ、改めて悠介二十歳の誕生日おめでとう。」
「酒飲むか?シャンパン買ってきたんだぞぉ?」
「ありがとう、皆……。」
ちょっと泣きそうになる、こんな風に誕生日を祝われた事が今まで無かったから、あったとしても浩介と二人だったから、こんなにたくさんの人に囲まれて誕生日を祝う、っていう経験がなかった。
「悠介君、僕達からのお祝い。受け取ってくれる?」
「ありがとうございます、悠治先輩、晴也先輩。」
悠治先輩から、何か箱を渡される。
開けてみてよ、って唆されて、開けてみる。
「万年筆、ですか?」
「浩介にも買ったんだぜ?二十歳の祝いって言ってよ、何がいっかなー、って話してたら、悠治が万年筆が良いんじゃねぇか、って言われてよ。刻印もしてあるんだぜ?」
「ホントだ……。」
万年筆の持ち手の部分には、俺の名前がローマ字で書いてあって、浩介も同じ様なのを貰ったよー、って見せてくる。
「俺からも誕プレあるぞ?ほれ、これ。」
「ありがとう、昌。」
昌からの誕生日プレゼントは、ネックレスだった。
ちょっと洒落たネックレスで、浩介とペアになってるらしい。
「ホントに、こんな風にお祝いしてもらうのなんて、初めてだよ……。ありがとう。」
「飯は浩介お手製だぜ?」
「浩介が?こんなに作れたっけ?」
「練習、してたんだよ?悠介に振舞える様にって、昌君と晴也先輩に特訓してもらってたんだ。」
今日の夕飯はハンバーグとカレーで、浩介がこれを作ったって言うのが驚きだ。
まだチャーハンとか、そういう簡単な物しか教えてこなかったから、いつの間にこんなに作れる様になってたのか、って。
「さ、飲もうぜ?初の酒、感想聞かせてくれよ。」
「はい。じゃあ、乾杯。」
「カンパーイ。」
シャンパンを一口飲んで、ウエーって言う顔になってると思う。
苦い、って言うか、渋いって言うか、ビールなんかは苦みが良いって話は聞いた事があったから、苦いんだろうなとは思ってたけど、これ多分アルコールが苦いんだな。
「苦いですね……。あんまり味がわからないです。」
「そうか?美味ぇんだけどなぁ。」
「晴也君、無理やり飲ませるのは駄目、って言っておいたでしょ?」
「わかってるよ、悠治。なら悠介、こっちならどうだ?カルーアミルク、甘いから飲めると思うぞ?」
シャンパンの他にも用意してくれてたらしくて、コーヒーみたいな見た目のお酒を注がれて、それを飲んでみる。
こっちは甘くて美味しい、アルコールの苦さも感じない、でも飲みすぎたら酔っちゃいそうだな、っていう予感はある。
「美味しいです、こっちなら飲めますね。」
「悠介はアルコールが苦手なんだね。僕はシャンパンが美味しいよ。」
「浩介にそう言われるとちょっとショックだな。俺の方が子供舌って事か。」
浩介も初めての飲酒だろうけど、ほんのり顔を赤くさせながら、シャンパンを美味しい美味しいって飲んでる。
昌もそんな感じで、晴也先輩はいつもの調子で飲み始めない様にって、悠治先輩が釘をさしてて、でも悠治先輩もちょっと顔が赤くなってて。
楽しい、こんなに楽しい誕生日は初めてだ。
「じゃ、俺ら帰るなー。」
「おう、またな。」
三人が帰って、浩介と二人っきりになる。
「悠介ー。」
「どうした?」
「酔っぱらっちゃったかなぁ。ゆうすけー。」
二人なったとたん、浩介が甘えてくる。
酔っぱらったっていうのはホントだろう、顔が真っ赤になってて、少しふにゃっとしてる。
「ぎゅーしてー?」
「はいはい。」
ハグをして、頭を撫でる。
俺より幾分か小さい浩介の頭は、撫でるのに丁度良い高さだ。
「えへへー。」
「寝ようか。」
「うんー。」
寝室に行って、ベッドに入って、抱きしめ合って。
浩介は甘えたそうにしてたけど、眠気が強かったのか、すぐに寝ちゃって。
「まったく……。」
可愛い子だとは思ってたけど、酔っぱらうとまた違う可愛さがあるな、とは思った。
まだまだ守ってやらなきゃな、とも。
そんな事を考えながら、俺も眠りに落ちていった。




