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お前、捨てられたんだってな。  作者: 悠介


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13/15

引越しをして

「お荷物こちらですかー?」

「あ、ベッドはこっちにお願いします。」

 五月に入って、今日は引っ越しの日だ。

 一年ちょっとお世話になった家を離れて、新しい家に荷物を運んでる。

 浩介はバタバタと自分達で運んできた荷物を搬入してて、俺は主に業者さんが運んでくれた物をどこに置くかを指示してる。

「悠介ー、冷蔵庫ここで良いー?」

「そこで、丁度良いかな。」

 引っ越し作業はバタバタしてて、忙しいけど楽しい。

 業者さん達に荷物を搬入してもらって、段ボールだらけになって、それで足りない家具を買いに行く。


「これなんかどうだ?寸法にも合ってると思うけど。」

「うん、良いんじゃないかな。」

 軽トラをレンタルして、近場の家具屋さんに来た。

 結構広いから迷うかな、なんて思ったけど、考えてたよりはとんとん拍子に買うものが決まっていって、それが結構な量になる。

 ソファなんかは配送してもらう様に手続きをして、組み立てられる家具はバラバラのを買って、軽トラを走らせて帰る。


「さて、始めますか。」

「どれから組み立てる?」

「うーん、まずは食器棚かなぁ。」

 家に帰って来た二人は、共同作業で棚を組み立てていく。

 棚一個だけならまだしも、テレビ台も新調した、ついでの様に寝室にデスクも新しく買った、それらを全て組み立てるのには、少し時間がかかりそうだ。

「こっち、これじゃない?」

「お、そうか。」

 こういった組み立て作業は、悠介は苦手で浩介が得意だ。

 悠介は何かを組み立てたり、修理したりと言うのが生来苦手で、逆に浩介は手先が器用で、何でも自分で直す、と言った様子だ。

 浩介が先導して、二人で棚を組み立てて、あれやこれやとやっているうちに、夜になった。


「ふー。疲れた、今日は外に飯食いに行こうか。」

「良いね、晴也先輩達も呼ぼう?悠介に会いたがってたよ。」

「そか、じゃあ連絡してくれ。」

 浩介が晴也と悠治に連絡を入れ、待っていいる間に悠介は段ボールの中身を新しい棚に移していく。

 パソコンも、もう古くなってきたからと新しく買ってあって、昨日届いたのをまだ開封していなかった、それを開封して、デスクに取り付けていく。

「晴也先輩と悠治先輩、丁度一緒にいるってさ。一時間後にどうだ?って。」

「一時間後か、わかった。」

 そう言えば、と悠介は思い出す、晴也と悠治は二十歳を超えて、酒が飲める様になったのだと。

 自分達が飲むのは駄目だが、居酒屋に行ってみるのも良いかもしれない、と。

「居酒屋ってここら辺あったっけ?」

「え?えーっとね、一駅向こうのあっちにはあったよ。でも、僕達まだ十九だよ?」

「ほら、晴也先輩がさ、やっとお天道様の前で酒が飲める!って言ってただろ?だから、俺達は飲まなくても、居酒屋の方が良いのかなって。」

「あ、そう言う事か。そうだね、晴也先輩、飲むの楽しいって言ってたもんね。」

 浩介もその事は印象的だったらしく、やはり隠れて飲んでいたか、と言うのは少し怒ってしまいそうになったが、悠介に隠れて飲む分には許してやれ、と言われていて、黙っていた。

 それが、二十歳になって約八か月、今では週一で飲みに出ている、と言う話もよく聞いている、悠治が迎えに行くと、べろんべろんに酔っぱらって甘えているのだとか。

「あ、悠介、晴也先輩が悠治先輩に甘えてる所、見てみたいとか?」

「ちょっとだけな。でも、誘ってみたいって言うのは純粋な気持ちだよ。」

「そっか。じゃあ、あそこの居酒屋集合で、って伝えておくね。」

 パソコンを何とかデスクに置いて、モニターがちゃんと点く事を確認して、悠介はこれで一旦お終いとため息をつく。

 浩介は晴也へ連絡をしていて、その表情は明るい、いつもの浩介だ。

 宮本の妻の事を引きずっていないか、ずっと辛いと思っていないかと悠介は思っていたが、幸いな事に、浩介は前を向いている様子だ。

 両親の事で夜泣く事も無くなってきた、夢にうなされる事も無くなってきた。

 一年も経てば、と思うだろうが、浩介にとってこの一年は、どんな思いで過ごしてきたのか、と考えると、今の浩介の笑顔が少しだけ寂しい悠介。

 ぎこちなかった頃に比べれば、安心出来るのだが、それはきっと、浩介が色々と諦めてしまった結果なのだろう、と。


「おっす!悠介ちょい久しぶりだな!」

「悠介君、僕達に合わせて居酒屋選んでくれたんだってね?ありがとう。」

「いえいえ、ご無沙汰してました。」

 一時間経って、車で隣駅に向かって、駐車場に車をおいて晴也先輩達と合流する。

 晴也先輩はテンションが高くて、飲めるのが嬉しいみたいだ。

「晴也君、悠介君と浩介君に飲ませたら駄目だよ?まだ二人は未成年なんだから。」

「わかってるって、大丈夫だよ!」

「じゃ、入りましょうか。」

 過去に何かあったのかな、悠治先輩が晴也先輩を咎めてて、それがちょっと面白くて、浩介と顔を見合わせて笑う。

 中に入って、未成年だから飲酒はしないっていう話を店員さんにして、座敷に通される。

「ここは海鮮が美味しいのかな?悠介、食べれないのってあったっけ?」

「ん?数の子と牡蠣と内臓以外なら食べれるぞ?」

「悠介牡蠣苦手なんか?あれは酒のつまみに美味いんだぞ?」

「ちょっと味が苦手なんですよね。牡蠣小屋とかの新鮮なのは食べた事が無いので、もしかしたらそういう所のは食べられるかもしれないですけど、今の所苦手です。」

「ここはそういうのはおいて無いみたいだね。海鮮って言っても、蟹とかが良いんじゃないかな?」

 メニュー表を眺めて、久しぶりの海鮮料理にちょっと心がわくわくして来る。

「俺生で!」

「僕はカシスオレンジで。」

「コーラ下さい。」

「僕ウーロン茶でお願いします。」

 取り合えず飲み物を頼んで、後は晴也先輩達に任せる。

 あれだこれだって二人で注文して、まず最初にお通しと飲み物が来る。

「じゃ、カンパーイ!」

「乾杯。」

「お疲れ様です。」

「今日も一日お疲れ様でした。」

 晴也先輩が音頭を取って、ぐびぐび飲むもんだから、驚く。

 俺の親は酒は飲まなかった、じいちゃんがちょっと飲んでた位だから、こういう飲みっぷりの人って言うのは、初めて見た気がする。

 悠治先輩はちょっと口につけておいて、晴也先輩は一気にジョッキを空けてる。

「かーっ!これがたまんねぇんだ!」

「晴也君、そうやっていつも飲みすぎるんだから、後輩の手前ちょっとは抑えたらどう?」

「お、それもそだな。次何飲もっかな。」

 晴也先輩は次に何を飲むかを考えてて、俺はコーラを飲みながらその様子を微笑ましいと思ってた。

 良い夫婦、って言うか、良い恋人じゃないか、って。

 晴也先輩が無茶やって、それを悠治先輩が一歩引いた所で支えて、ちょっと夫婦漫才っぽくて。

「晴也先輩、顔真っ赤ですよ?」

「お?良いんだよ!後輩と飲むなんて嬉しいじゃねぇか!まだお前らは飲めねぇけどよ、それでも俺は嬉しいんだよ!」

「だからって一気飲みは駄目だよ、晴也君。ほら、お水飲んで。」

「おう!」

 俺達は、どうなっていくんだろうな。

 なんて事を考えながら、晴也先輩の酔っぱらいぶりを眺める。

 水を飲んでもテンションは変わらなくて、次のお酒を入れて飲んで、また悠治先輩に水飲まされて、それを繰り返して。

 あっという間に時間が経って行って、晴也先輩はべろべろに酔っぱらって。


「悠治ー、お前は良い奴だよー!」

「はいはい、悠介君、送ってくれてありがとうね。ちょっと晴也君、ベッドに寝かせてくるよ。」

「はい、待ってますね。」

「悠介ー!浩介の事幸せにしなかったらよー!俺怒っかんな!ぜってぇ幸せにしろよ!」

「ほら晴也君、行くよ。」

 呂律の怪しい晴也先輩を、悠治先輩が家の中に送っていく。

 ベッドに寝かせるって言ってたから、ちょっと待ちの時間だ。

「晴也先輩、凄いね。あんなに酔っぱらった人、お店でも見た事ないや。」

「結構飲んでたからな。あれ、悠治先輩が水飲ませてなかったら、急性アルコール中毒かなんかになってたんじゃないか?」

「でも、やっぱり良い人だよね、晴也先輩。」

「そうだな。」

 晴也先輩は良い人だ、それはわかってた。

 でも、酔っぱらってまで誰かの事を思いやる、それは中々出来ない事だろうな。

 悠治先輩も、なんやかんやで晴也先輩の酔っぱらいに付き合うの楽しんでそうだし、それはそれで良いのかなって。

「お待たせ、ありがとうね、悠介君。」

「いえいえ、送っていきますよ。」

 そんな話をしてるうちに、晴也先輩を寝かせてた悠治先輩が戻ってきて、車に乗る。

「晴也先輩、寝ちゃいました?」

「横になったとたん、ぐーぐー寝息立て始めちゃったよ。」

「晴也先輩、だいぶ酔っぱらってましたね。いつも、ああいう感じなんですか?僕、噂には聞いてましたけど、初めてみましたよ。」

「聞いた事はあったんだね、そうだね……。晴也君、酒癖は悪い方だと思うよ。僕がいないと、周りの人が大変だって。でも、不思議と離れるつもりにもならないんだ。依存関係……、ともちょっと違うかな。そんな晴也君でも、好きなんだと思う。ただ、僕には迷惑を掛けるのは全然良いんだけど、他の人には迷惑かけない様にね、とは思ってるけどね。」

 悠治先輩は、それだけ晴也先輩の事が好きなんだ、って話を聞いてて思う。

 俺も、もしも浩介があんな感じになったとしても、多分好きであり続けるだろうし、離れようとは思わない。

「悠治先輩の前だから、あんなに甘えられてるのかもしれないですね。晴也先輩、色々と気苦労が多いって聞きますし。」

「知ってたのかい?」

「噂程度、ですけどね。おせっかい焼きの晴也先輩、面倒くさい人、なんて言われる事もあるって、噂で聞きました。大学でも、同期がそんな事言ってたなって。でも、僕は晴也先輩の事、好きですよ。あんな風に親身になって色々と聞いてくれる人、悠介と悠治先輩の他に、晴也先輩とおじいちゃん位ですから。」

 それは初耳だ、晴也先輩は確かにおせっかい焼きって言うか、ちょっと踏み込んだ部分まで面倒見ようとする節はあるな、とは思ってたけど、大学では疎まれてたのか、って。

 見る目のない後輩達だな、なんて思うけど、確かに人によっては、うっとおしく感じる事もあるのかもしれないな。

「晴也君はね、ずっと寂しい想いをしてきたんだと思う。ほら、お父さんが早くに亡くなって、お母さんはお仕事が忙しい人でしょう?だから、ああやって誰かにおせっかいを焼く事で、寂しさを埋めてるんじゃないかなって思うんだ。僕もまだまだ、晴也君の居場所にはなりきれて無いのかなって。」

「……。あんな風に酔っぱらった所を見せて甘える人が、居場所じゃないなんて事もないと思いますけどね。俺だったら、ですけど、晴也先輩は、悠治先輩の事、心底好きなんだと思います。あの人、変な所で意地っ張りって言うか、隠したがる人だとは思ってましたけど、あんな風に甘えらえれるって事は、それだけ心を許してるって証拠じゃないですか?」

 バックミラーに見える悠治先輩の顔は、ちょっと寂しそうだった。

 だから、じゃないけど、俺は口下手なりに、晴也先輩の事を話してみる。

 晴也先輩は、悠治先輩を心底愛してる、それがよくわかるから、そんなすれ違いがあるって言うのは、悲しい。

「そうですよ。晴也先輩、悠治先輩の事大好きだってずっと言ってますよ?あいつは俺の事ちゃんとわかってくれる、ちょっと申し訳ないけど、我儘言っても良いと思える、って。だから、大丈夫ですよ。晴也先輩にとって、悠治先輩は立派な居場所ですよ。」

「そう、かな……。」

「僕達も、晴也先輩じゃないからわからない所はあります。でも、あんなにも甘えられるって事は、それだけ心を許してる、って事じゃないですか。だから、大丈夫ですよ。きっと、晴也先輩は悠治先輩の事、ずっと愛してますよ。」

 浩介も思う事があったのか、話をしてる。

 悠治先輩は、目頭を抑えて、必死に泣くのを我慢しようとしてる。

 きっと、本来涙脆い人なんだろうな、きっと、不安に思う事も沢山あるんだろう。

 でも、それでも晴也先輩を想って、行動してる、それは立派な事だと思う。


「それじゃ、今日はありがとうね。……。二人の言葉で、救われた気がするよ。ありがとう、二人のおかげで、ちょっと吹っ切れたかもしれない。」

「僕達は本心しか言ってませんよ、きっと大丈夫です。悠治先輩、素敵な人ですから。」

「……。俺も、不安に思う事もありました。浩介にふさわしいのかな、隣にいても良いのかなって。でも、それでも浩介は、俺を信じてくれたんです。だからきっと、晴也先輩だって、そうですよ。」

「うん、ありがとう、二人とも。それじゃ、今日はありがとうね。」

 悠治先輩の家の前まで送って、さよならする前に少しだけ話をした。

 悠治先輩は嬉しそうに笑いながら、家に入っていく。

「さて、帰るか。」

「うん。」

 後は家に帰るだけ、ゆっくりと話をしながら、浩介と一緒に帰る。

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