表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前、捨てられたんだってな。  作者: 悠介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

泣かない理由

「さて、俺も大学生か。浩介とは一年違いになったな。」

「頑張ろうね、悠介。」

 春が来た。

 悠介と浩介は十九歳、今年で二十歳になる。

 悠介は大学一年になり、浩介は大学二年になり、それぞれ忙しそうにしていた。

「今日は仕事でしょ?行ってらっしゃい。」

「あぁ、行ってくる。」

 悠介は一年勤めて、だいぶ仕事も増えてきた。

 最初は電話番だけだったのが、今では相談窓口の入口の聞き取りをしていて、これが大学を卒業して、心理士の資格を得たら、本格的に相談業務を任される事になる。

 まだ四年後、されど四年後、と悠介は考えていて、あっという間に過ぎていくだろう、と思っていた。

「さて、頑張りますか。」

 家を出て、いつもの様に電車に乗って、職場に向かう。

 電車に揺られながら、そう言えばもう一年経ったのか、と少しだけ驚く。


「さて、僕も準備しなきゃな。」

 悠介を見送って、朝食の皿洗いを済ませて、洗濯物を回して、浩介は部活に出ようと準備をする。

「ん、電話?」

 そんな事をしていると、電話がなる。

 電話の主は宮本で、こんな朝早くにかけてくる事は無かったけれど、と浩介は疑問符を浮かべながら電話に出る。

「もしもーし。」

「あ、浩ちゃんかい……?」

「どうしたの?おじいちゃん元気ない?」

「それがな……。かみさん、死んじまったんだ。今日の朝、急性肺炎って言われてな……。それで、今日から暫くお店休みだから、浩ちゃんに電話しなきゃって……。」

 衝撃的な言葉に、言葉を失う浩介。

 宮本の妻が亡くなった、それは理解出来たが、あの人を置いていくつもりは無いのよ、と言って入院しながらも元気そうだった宮本の妻が亡くなった、と言う事実が認識しきれない。

「ごめんよ、浩ちゃん。こういう時、どういう言葉を言えば良いかがわからないんだ。爺になったのに、面目ないねぇ。」

「……。ううん、おじいちゃん、僕も今から病院に行っていい?」

「構いやしないけど、なんでだい?」

「おじいちゃん独りで、放っておけないよ。確かに、僕達は関わってから一年位しか経ってないけど、おじいちゃんの孫だって言ってくれてたのに、おばあちゃんだって僕の事可愛がってくれてたのに、独りにしておけない。」

 浩介は、悠介と晴也に一言ずつ連絡を入れると、総合病院に走って行った。


「おじいちゃん!」

「浩ちゃん、本当に、来てくれたんだね……?」

「当たり前だよ。大丈夫……、じゃないよね。ずっと一緒にいたんだもんね……。ご愁傷様、おばあちゃんは?」

「安置所に置かれているよ。安らかな顔をしてる。……、俺を置いていくつもりはない、って言葉を、信じてたんだけどねぇ……。でも、仕方のない事なのかも知れない、神様って言うのは、残酷なんだね……。」

「おじいちゃん……。」

 病院について、廊下で椅子に座っていた宮本を見つけると、浩介は駆け寄って声を掛ける。

 宮本は、涙の跡を残しながら、乾いた笑い声を出す。

 神とはかくも残酷で、慈悲もなく、と、ずっと一緒にいるはずだった、逝く時は一緒に、と言っていた妻が、浩もあっけなく死んでしまった、それがショックなのだろう。

「……。僕が傍にいるよ、おじいちゃん。」

「浩ちゃん……。」

「おばあちゃんはずっと、頑張ってたんだ。僕はあんまり見てなかった、見れなかったけど、ずっと一緒に頑張ってきたんでしょ?だから、きっとおじいちゃんを見ていてくれるよ。だから……。一緒に生きていこう?おじいちゃんまでいなくなっちゃったら、僕寂しいよ。」

「浩ちゃん……。いつの間に、こんなに大きくなったんだね……。一年前、浩ちゃんを見た時、良い子だなとは思ったけれど……。こんなにも優しい子だとは、わからなかったなぁ……。」

 宮本の手に手を重ねて、浩介は真剣な眼差しで告げる。

 宮本は、こんな事を大学生が言う、という事に驚いていたが、しかし、浩介は優しい子だというのはよくわかっていた、それを再認識した、と言う事だろう。

 寂しそうに笑うと、浩介の手を握って、そして。

「浩ちゃん、こんな爺で良ければ、これからもお店手伝ってくれるかい?」

「うん、そうしたい、僕の方からお願い、おじいちゃんと、一緒にいたい。」

「ありがとう、浩ちゃん。」


「お通夜が明日で葬式が明後日か。わかった、有給申請して行くよ。」

「でも、おばあちゃんも、急に亡くなっちゃったね。おじいちゃんを置いていくつもりはないのよ?って言ってたのに……。」

「人がいつ死ぬか、いつまで生きられるかなんてのは誰にもわからないからな。……。きっと、おばあちゃんは精一杯生きたんだ。浩介達が、その生きた証になってやれば良い。」

 昼休み、浩介からの連絡に気づいて、ちょっと離席して電話。

 宮本のおばあちゃんとは、小学四年の頃に会ったっきりだったけど、確か宮本のおじいちゃんより五つ位年上で、もう九十歳にはなるだろう、とは認識してた。

 だから、なのかな。

 死んじゃった事は悲しいけれど、それもそうかって言う感情の方が大きい。

 九十まで生きたのなら、大往生だろう、生き抜いたんだろう、って。

「それじゃ、俺有給のお願いしてくるな。」

「うん、わかった。」

 電話を切って、会長の所に行く。

「会長、今大丈夫ですか?」

「はいはい、坂入君の方から僕の所に来るって言うのは、ちょっと珍しいね。何かあったのかい?」

「お世話になった方の奥さんが亡くなった見たいで、有給の申請をしたいんですけど、大丈夫ですか?」

 会長は五十ちょいの初老の男性で、この法人を立ち上げただけあって優しい人だ。

 会長は、ちょっと考える様子を見せてるけど、多分申請自体は通るだろうな。

「いつからいつまでだい?」

「明日がお通夜で、明後日がお葬式だそうです。」

「そっか、じゃあ五日位は有給を取ると良いよ。坂入君も、それ位は見送りたいだろう?」「そんなに良いんですか?二日程頂ければと思ってたんですけど。」

「大丈夫だよ。思う存分、見送って上げなさい。」

 五日間も有給を貰えるとは思ってなかった、二日位なら貰えるだろうなとは思ってたけど、そこまでは想定外だ。

 でも、そう言って貰えるのは有難い、浩介もちょっと不安定になるだろうし、宮本のおじいちゃんも心配っちゃ心配だし、それ位の時間があれば、色々出来るだろう。

「ありがとうございます、会長。」

「今日も午後休を取ると良いよ。会いに行って上げなさい。」

「はい、ありがとうございます。」

 俺はそれを聞いて、急いで帰る支度をする。

「坂入君、何かあったのかな?」

「お世話になってた人の奥さんが亡くなったって連絡貰って、会長に葬儀の有給申請しに行ったら、今日午後休とって、五日間有給にしてくれました。心配でもあるので、有難く受け取ろうと思いました。」

「そっか。ご愁傷様、葬儀は大変だろうけど、手伝ってあげるんだよ?」

「はい、ありがとうございます、高橋さん。」

 帰り支度をしてると、隣のデスクで飯を食べてた高橋さんに何事かと聞かれて、そのまま答える。

 そうか、葬儀の手伝いをする、って言うのも大事だな、宮本のおじいちゃんも高齢だし、回らない部分もあるあろうから。

「それじゃ、お疲れ様でした。」

「はい、気を付けてね。」

 高橋さんに他の人への説明を任せて、俺は会社を出て家に帰る。

 宮本のおじいちゃんもそうだけど、浩介の事が心配で、足早になった。


「浩介、宮本のおじいちゃん、お待たせ。」

「悠介、来てくれたんだね。」

「悠ちゃん、良かったのかい?お仕事あったんだろう?」

「有給貰って来たよ、宮本のおじいちゃんが心配でさ。おばあちゃん、残念だったね。」

 葬儀場の方に行ってた浩介と宮本のおじいちゃんの所に着く、おばあちゃんは今霊安室にいて、会えそうにはない。

 宮本のおじいちゃんは,少し落ち着いてるのか、寂しそうに笑ってる、浩介はショックだって言う顔をしてるけど、それを隠してる様にも見える。

「葬儀は明日なんだけど、悠ちゃんも来てくれるかい?かみさんは悠ちゃんの事、気に入ってたんだ。送ってくれると、嬉しいよ。」

「勿論、その為に有給取ったからね。準備、手伝う事ある?」

「じゃあ、常連さん達への連絡を手分けしてお願いしようかな。うちは常連が多くてね、それで、皆に送ってほしいんだ。」

「わかった、電話番号教えて?」

 浩介と二人で、手分けして常連さん達に連絡を入れていく。

 宮本のおじいちゃんは葬儀場の人と話をしてて、ちょっとバタバタする。


「これで全員かな。」

「そうだね、皆さん、来てくれるって言ってたね。」

「おばあちゃんの人望だろうな。……。浩介、泣かないんだな。お世話になってたんだろう?」

「うん……。一年間だけど、とってもお世話になった。でも……。でも、なんだか今泣くのは違う気がするんだ。なんでだろう、一番悲しいのはおじいちゃんだし、僕まで泣いちゃったら、駄目な気がするんだ。」

 浩介はこういう時泣きそうなものだが、と悠介は考えていて、そうではない浩介に少し疑問符を浮かべていた。

 良くも悪くも直情的だった浩介が、こうして大人びだ発現をする、という事に、驚く。

 しかし、人を思いやる事に関しては誰にも負けない浩介だ、そういった発言や思考は、当たり前なのかもしれない。

 悠介は、そう考え直し、話を聞いている。

「僕も辛い、それは変わらないよ。でも、僕まで泣いちゃったら、きっとおばあちゃんは安心して逝けないと思うんだ。だから、僕は泣かない。」

「……。そっか。」

 本当は泣きたい、と悠介はその言葉を受け取った。

 しかし、浩介がそう決めたのであれば、それに従うだけだ、その意思を尊重したい、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ