妹が婚約者を取り替えたいと言ってきました。
両親以外は比較的ハッピーにおわります。
私、フィアナはエパリッツェ伯爵家長女として生まれた。
幼い頃から両親には完璧を求められた。求められたものに答えるために私は必死で生きた。
私が3歳になったとき、勉学や音楽様々な面で周りより圧倒的に優れていたこと、第一王子と婚約するにあたり年齢の合う身分の高い令嬢がいなかったことから私は2歳年上の第一王子の婚約者に選ばれた。
同じ年に妹、ミアーナが生まれた。父方の祖父に似た黒髪黒目の私と違い、母のピンクブロンドの髪に父の碧眼を受け継いだそれはそれは美しい妹だった。
妹は息をしてるだけで偉いと言われんばかりに溺愛された。欲しいものはなんでも手に入れたがった。
妹は『お願い』が得意だ。本人はお願いもをしてるつもりもなければ、わがままを言ってるつもりもないんだろうけど。
当時、第一王子とは恋愛感情はなかったもののビジネスパートナーのような形で良い関係を築けていたと思う。
私が10歳の時、男子が見込めないから、と父が養子を連れてきた。茶色い髪に緑目の目の美しい少年だった。私の1歳下で名前をウィルソンという。
私が19歳、妹が16歳の時。家族全員でご飯を食べている時に、妹のお願いが始まった。おとといは、新しいドレス、昨日は私の宝石、さて今日はなんだろうか。
「私、第一王子のイーアス様と結婚したい。昨日のお茶会でイーアス様をお見かけして、私運命を感じてしまったの。深い海のような青い目、絹のように美しい髪、あぁ、もう一度お会いしたいわ」
流石に耳を疑った。私の妹はこんなにも愚かだったか。王家と我が家との約束だ。人を入れ替えればいいという話ではない。
だが、ミアーナをすっかり溺愛している両親は、名案だとばかりに私にいう。
「ミアーナが婚約者の方がイーアス様も幸せだろう。ちょうど明日イーアス様と会う日だろう。ミアーナも連れて行き提案してきなさい」
流石に頭が痛くなった。何を言ってるんだこの父親は。深くため息をつき、
「お言葉ですが、第一王子の婚約者としての外交が昨年から始まっています。ミアーナがこれから、職務も並行して王妃教育を行うのは難しいかと…」
難しい、なんてレベルじゃなく、おそらく無理だ。愛嬌でどうにかしている、本当にどうにかなっているかを私は知らないが、だけでミアーナはマナーも礼儀作法も一般の貴族令嬢レベルほども身に付いていない。
「ミアーナがお勉強で頑張っているのだもの。あなたが外交を代わりに行えばいいのではなくって?」
母親が衝撃発言だ。なぜ王家から婚約破棄された女が国家の外交を続けることができると思っているのだ?
どうしよっかとちらっと義弟を見るが綺麗な作法で無言で夕食を食べ続けている。
「いささかそれには無理があるかと…」
「我が家から婚約者が出るならば、誰だって同じことだ」
同じことではないから私は言っているのだが…。もういっそのこと婚約破棄をしてしまえばいいのではないか…。
「かしこまりました。ミアーナ、明日は8:00に王宮に向かう馬車に乗るわ、遅れないでね。あと、動きやすい服装にしてちょうだい。派手すぎたり露出が多すぎたりする服装はやめてね」
「はい!お姉様!」
うん、元気で何よりだ。
「それと、あなたの想像してるお茶会じゃないわよ」
「フィアナ、うるさいぞ。ミアーナを無駄に脅かして行かせないようにするつもりか」
はぁ、私は警告したからね。
もう一度チラッと義弟を見る。もう用は終わりとばかりに口をぬぐい
「自分は明日のための準備があるのでこれで失礼致します」
と言って食堂を出て行った。
◆◇◆
翌日、ミアーナと共に王宮へ向かう。
「フィアナ、ミアーナに嫉妬してないでちゃんと婚約者の取り替えの話をするんだぞ」
「ミアーナは、フィアナが話に出さなかったら、自分から伝えなさい。大丈夫よ。イーアス様もきっとあなたを受け入れてくださるから」
何を根拠に…。まぁでも、この両親を見るのも今日で最後だから、この頭痛も我慢できる。
露出もありつつ、オシャレな妹に対して私はシックな落ち着いたドレスだ。
「ミアーナ、私は動きやすい格好をしてきてと言ったのだけれど」
「愛する人の前にそんな地味な服装してられないわ」
ミアーナはまるで自分が正しいかのような口ぶりでいう。
まぁいっか。私は忠告した。
王宮に着くと、第一王子が迎えにきた。
「今日は遅かったね、フィアナ」
「ごめんなさい。ちょっと思いがけないことがあってね」
「イーアス様ぁ、私、ミアーナと申しますぅ、お姉様が私とイーアス様を会わせたくないと思ってしまう気持ち、わかってしまいましたわ。イーアス様はとても麗しくいらっしゃるのですね」
伯爵令嬢が王族に名前も聞かれずに名乗るなど本来あってはならないことだ。先が思いやられる。
「はは、ありがとうございます。それでは行きましょうか」
どちらをエスコートすることもなく第一王子は歩き始めた。
「本日はどこから?」
「どこがいいかなぁ、ミアーナ嬢もいることだし、宝石商のところに行こうか」
「かしこまりました」
「嬉しいですわ」
きっとイーアスに宝石を買ってもらえると浮かれているのだろう。そんな妹はこの後訪れる時間に愕然とするだろう。
流石に知らないで行くのはかわいそうかと思い
「ミアーナこれからい行くのはビジネスであって宝石の購入が目的ではないのよ?どうやったら商売が広まるかを考え、その商法を…」
そこまで言ってミアーナに遮られた。
「そう言ってお姉様は自分だけ宝石を買ってもらえなかった時の保険をかけているのですか?」
頭痛を堪えながら、宝石商のところへと向かった。
「商品はこちらとこちらとこちらになります」
宝石商が並べたのは、青・赤・黄色の宝石だ。
「ふむふむ、ミアーナ嬢には考える時間が必要だね」
「いえいえ、私はあおが…」
ミアーナが最後まで言い終わる前に、イーアスは私に話しかける。
「フィアナならどうする?フィアナは…」
「あ、あの、私…」
自分の発言を遮られたからか、戸惑っているミアーナがイーアスの発言を遮ろうとしている。
王族の発言を遮るなんて…はぁ、とため息を向きつつ、
「そうですね。最初は定番の恋人の瞳の色に合わせて、というのがいいかと思いましたが…、それでは定番すぎて他との差別化がつきませんね」
んー、と悩みつつ
「宝石商さん他にも色はありますか?」
「へい、あるにはありやすが、売れるかどうか…」
「見せてちょうだい」
「わぁ、綺麗ですね。私このピンクの宝石とか好きですよ。すごい欲しくなっちゃいますぅ」
ミアーナがイーアスに媚びたような口調で言う。イーアスは「そうだねぇ」とニコニコしながら相槌を打つ。
「やはり、たくさん色があるならば『願いが叶うかもしれないストーン』として売るのはいかがでしょうか?ピンクは恋愛運、黄色は金運、赤は情熱のある仲間に巡り会える運、緑は健康運、のような感じで」
「あぁ、なるほどね、パワーストーンってことか」
「はい、ただ、石自体にそのようなパワーが宿っているわけではないので、商品名をパワーストーンにすることは避けるべきかと」
「なるほど、ミアーナ嬢はどうかな?この商品売り出すとしたらどう売り出す?」
「う、売り出す…?買うのではなく…?」
「あれ?フィアナ伝えてなかったの?」
「申し訳ありません」
伝えなかったんじゃなくて、伝えようとして遮られたんだけどまぁそれをわざわざ伝えるのもめんどくさい。
「あぁじゃぁ、次からにしようか。ごめんごめん僕はてっきりフィアナが伝えたのかと思ってたよ。そうだよね。伝えてたらあんな発言でないもんね。ミアーナ嬢、僕らは今日、商売や領地経営で行き詰まった貴族や商人と話してその解決策を考えることをするんだ。それが将来の商人や貴族からの信頼、僕らの実績に繋がるからね。普段の勉強が実になるって言う実感もできるしね」
その後、天候不順によるの不作に悩む貴族、流通ルートの減少に悩まされる商人、争いが絶えない地域の騎士団など様々な人からの相談を受けた。
その中でミアーナが答えられたものは一つもなかった。
もちろん、ミアーナに最初から全てを答えさせるのは酷だと、一般常識程度の内容から導出できるように話を導いた、が、難しかったらしい。
相談がひと段落して、ティータイムになった。ティータイムになって、自分の言いたいことを言うタイミングが見つからずにうずうずしていた妹が口を開く。
イーアスに何かを伝えにきた従者が下がると、待ってましたとばかりに、ミアーナが口を開く。
「イーアス様、お姉様との婚約を破棄して、私と婚約してくださいませんか?」
イーアスはニコニコと聞き返す。
「んー、フィアナはどう思う?」
「イーアス様が望むなら婚約者を入れ替えるのもありかと」
「うーん、ちなみになんで君は婚約者を入れ替えたいの?」
「わ、わたし、昨日のお茶会でイーアス様に一目惚れしてしまい…両親もお姉様と結婚するより私と結婚した方が幸せだろうといってくれて、それで」
「はぁ、それ僕にメリットは?」
「え?」
「僕にはさ、いま聡明で美しい婚約者がいるんだよ。それを君に乗り換えるメリットが君にはあるの?僕は今日の君の受け答えを見た感じメリットは感じなかったな、8歳の時のフィアナでも君より受け答えが立派にできてたよ。もう伯爵ですらなくなった君の両親からの太鼓判だなんてゴミに等しいよ」
あぁ、義弟はどうやら我が家の乗っ取りに成功したらしい。
領地の民のことを考えずに、領民からの税をミアーナのためだけに注ぎ込む両親。私もウィルソンも何度も何度も忠告してきたが、治る気配もなかった。そのため、王家に両親の不正を訴えた。もちろん、私も力を貸している。
両親はこの後、領民が一人もいない領地を経営する子爵になる。国税は納めなくてはいけないため、自分たちで稼ぐしかない。
今まで贅沢三昧してきた両親には、いい罰であろう。
「もう、伯爵で…ない…?」
「うん、今報告を受けた。エパリッツェ家は当主がウィルソンになったんだよ」
「え…?」
「君はどうしたい?ウィルソンは君をあまり受け入れる気がないらしくてね、何度忠告してもやめない贅沢癖が治らない限りは、今の伯爵家の財政状況じゃ受け入れられないと言ってるよ。ここで君に出される選択肢は二つだ。両親と一緒に子爵家にいくこと、修道院で三年間みっちりと修行すること。どっちがいい?」
「え、あ、」
口をぱくぱくさせて戸惑う妹。流石にかわいそうだとも思う。彼女はお願いしたら与えられることが当たり前だったのだ。彼女の常識を歪めたのは間違いなく両親だ。でも、お茶会など他の貴族との交流を通して、自分の思いが通らないこともあると学ぶべきだった。
領地に共に行ったこともあった。その時に何度も伝えたつもりだった。私たちの生活は彼らのおかげで成り立ってると、でも私の言葉は妹には届かなかった。
修道院の提案は私なりの贖罪だ。妹の常識が両親によって歪められていると気がつかせてあげられなかった、1番近くにいたのに妹が歪められていくのを止められなかった、私なりの。
妹は、その後修道院を選んだ。
◆◇◆
後日
「イーアス様、ありがとうございました。我が家のことで多大な迷惑をかけてしまいすみません」
「いいんだよ、他でもない可愛い可愛い愛しい婚約者の頼みだからね」
婚約が決まった時、彼が最初興味を持ったのは私の知識だった。私は彼の観点に興味を持った。お互いいいビジネスパートナーになれる、そう思っていた。だが、長年一緒にいるにつれて、だんだんと気持ちは愛情へと変わった。
「だいすきだよ、イーアス」
「知ってる、だから、二度と他の人と婚約してもいいなんて言わないでね」
拗ねたような、イーアスの頭をごめんと言いながら撫でた。
◆◇◆
その後、こっそりミアーナの様子を見に行くと、修道院で出会ったお節介な友人と仲良さそうにしていた。意中の男性もできたようだった。たくさんたくさん、歪められた分、幸せに生きてほしい。
あの日から3年後、私は自分で稼いだお金で修道院を卒業して、愛する人と結婚したミアーナに祝いの品を贈った。
『いつか、笑って会える日が来たら、教えて欲しい』と言う言葉を添えて。
ハイファンタジー短編で日間8位、日間総合、すべてで67位にランクインしました!この作品を見かけ、読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございます!
誤字脱字報告、本当に助かります!気づいて報告してくださった方、ありがとうございます(*゜▽゜*)
ウィルソン視点の物語「養子の俺が伯爵家の当主を追い出すまで」
この作品では少しクールめに写っているウィルソン。そんな彼が無言の夕食の間に考えていたことは…
もしかしたら,ウィルソンの印象がちょっと変わる物語です