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足掻く

〈ふと思ひ泳ぎを止めてたゞ浮かぶ 涙次〉



【ⅰ】


 君繪がテオに話し掛けた。(テオちやん、* もう少しでわたしの一歳の誕生日だわ。と云ふ事は、あの忌まはしい「契約」の日が訪れるつて事。わたしの成長は止まる)テオ(...)←特にいゝファクターが見付からないので、沈黙。君繪(わたしね、最後迄足掻いてみやうと思ふの)テオ(足掻く?)君繪(何でもいゝから、やつてみやうと思つてゐるのよ。大人になれないなんて、わたし...)テオ(絶句)



* 当該シリーズ第9話參照。



【ⅱ】


 テオ「なにかいゝ知恵ありませんか、一蝶齋先生」尾崎「さうねえ... 君繪ちやんはエスパー。念冩も出來るつて事かな?」テオ「恐らく、出來るでせう。彼女に『能力』の點で、不可能はない」尾崎「自分の成長してからのポートレイトを念冩してみれば... つまり、念冩は嘘で、安保氏に頼んでAIで画像を合成する」‐「ふむふむ」‐「それを、魔界の、ホンモノの大物に見せる。こりやこのコにや『契約』なんて通用しなかつたな、と思ひ、『契約』を解除する」‐「そんなに上手く行くかなあ」‐「彼女が足掻く、と云つてるからには、足掻いて見せる迄の事」‐「う~ん。ぢや取り敢へず安保さんにナシ付けて來ます」



【ⅲ】


 安保さんにとつてはAI合成など容易いご用だ。まづ、君繪の現在から、成長(15歳ぐらいか)してからの彼女の顔を割り出す。そしてそれに似た冩眞を見付けて來て、それに加工を施す。はい、出來上がり。問題はこれを見せる、「ホンモノの大物」探しである。



【ⅳ】


「シュー・シャイン」の話では(涙坐を煩はせる迄もなく)、偽サン=ジュスト、まだ生きてゐる、と云ふ。カンテラ「可笑しいな、確かに脾臓を突いたのだが‐」‐「まあ彼は【魔】ですから、普通の動物と一緒くたには出來ないのかな、などゝ」‐「なる程。* 田螺谷末吉も脾臓一撃ぢや死なゝかつたな」



* 前シリーズ第35話參照。



【ⅴ】


 ぢや、出來上がりの、パチもん念冩を見せるのは、偽サン=ジュストにしやう。奴なら、魔界では重きをなしてゐるから、間違いなく、「契約」についての権限も持つてゐる...

 こゝで、涙坐。透明になり、偽サン=ジュストに接近した。「サン=ジュストさん、見て貰ひたいものが」‐偽サン=ジュスト、呻吟しつゝ「何だ、何処から聲がしてるんだ?」‐「まあそれはいゝから。これ、神田君繪が自分の將來を念冩したもの」‐「なにい!?」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈平假名に開いてみたら詰まらぬ名貴方の全てをその名が決める 平手みき〉



【ⅵ】


 偽サン=ジュスト、冩眞をちら、と見てから‐「『契約』、解除せよと...?」‐「あら、物分かりがいゝわね」‐「それは、出來んな」‐「何ですつて!?」‐「まづ第一に、この念冩、怪しいと踏まねばならぬ。現代人間界にはAIと云ふものがある、と聞いてゐる」‐「第二に、俺にはその権限は、ない」‐(くそつ←涙坐らしからぬ、はしたない言葉を‐)‐「ぢや、カンテラがあんたを斬りに來るわ。直に」‐「もう人間界も魔界もこりごりだ。俺は早く死にたい」‐「最後に訊くわ。あの『契約』について、一番の権限を持つてゐるのは、誰?」‐「知らん。早く殺せ」



【ⅶ】


 じろさんを露払ひにして、カンテラが魔界を訪れた。「魔界も直に俺たちが來るのは、久し振りだなあ」‐「そんな暢気な事、云つてゝいゝのか」‐偽サン=ジュストの聲である。だが、もう掠れてしまつて、元の(弁舌爽やかだつた頃の)面影はとゞめない。

 じろさん「君繪が足掻いた結果、お前に踏みにじられて終はり、とはな」‐偽サン=ジュスト「踏みにじつたつもりはない。私は彼女の事には、同情を禁じ得ぬ、と思つてゐる」‐じろ「今更、お為ごかしは利かん。カンさん、さ」‐カンテラ「偽サン=ジュスト、お主を斬るよ」‐「あゝ、勝手にしてくれ。死んだらせいせいするだらう」



【ⅷ】


「しええええええいつ!!」偽サン=ジュスト、絶命。しかし、君繪の問題は何一つ片付いてゐない。


(わたし、充分に足掻いたわ。パパ、これ迄、よ)‐(濟まん。パパの力が及ばなかつた)‐(パパが謝る事ないわ。つてか、誰も謝る事なんか、ないのよ。わたしが我が儘云つたゞけ)



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈不思議なり八月一日(いつぴ)秋隣 涙次〉



 さう、誰もが努力しての結果が、これなのだ。君繪はもう精一杯足掻いた。彼女の一見我が儘とも取れる望みを、讀者諸兄姉、許してやつて慾しい。これ以外にない、のは、假に明白ではないとしても、この場合の唯一の答へなのだから...


 お仕舞ひ。


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