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結城弘子と魔女

「元気そうじゃないか」

「平穏そのものよ」


 夏休みの美術室。

 結城弘子の前で1Lのコーラをがぶ飲みする女生徒。いや、制服こそ指定のものだが、明らかに十代には見えない。二十代、いやもっと・・・とても高校生には見えない。だが、年増女子高校生は堂々とそこにいる。


「その年で制服着る?」

「いいんだよ。夏休みも登校時は制服だろう」

「生徒じゃないじゃない」

「細かいことを言うな」


 そう。この年増はここの生徒でも教員でもない。全くの部外者。結城弘子の居る学校に侵入してきたのだ。

 縁は深くて長い。だが・・


「君は全てを捨てたと言うのにまた元に戻りつつある。それも全くの無欲無自覚でだ。だが記憶だけは本当に消えてしまったのだな」

「知らないわそんなこと」


 結城弘子は自分が何者か知らない。

 この年増のいう事が正しいならば、遠い世界で結城弘子は強大な力を持ちながらも身を滅ぼした。結城弘子が滅びる時世界の半分も一緒に滅びたらしい。そしてこの年増の実際の年齢は見た目より遥かに多い。そして結城弘子は力を取り戻しつつある。結城弘子は異能を手に入れても驚かず、ありのままに受け入れ、欲に暴走する事なく平穏に過ごしている。かつての結城弘子を反面教師にしたのかと思われたがその記憶すら無いのだから、全くの素の性格なのだろう。


「充分注意したまえ。君は狙われてる」

「なんとなく分かってる。迷惑よね。恨みで私を狙ってるのかしら」

「それもあった。だが本当に厄介なのはかつての君の信者だ。君を取り戻してかつての栄光を取り戻そうと都合の良い夢ばかり見ている」

「なにそれ、迷惑・・」

「あのとき全てを消し去らなかった君の落ち度だ。ああいう時は全消去がいいんだよ」

「今の私にそんなこと言われてもねえ」


「さて、来たようだな」


 美術室に3人目が現れる。

 北川みそら。


「結城、本当にするの?」

「本当よ、謝礼も用意してあるわ。終わったら渡すから。あ、今やるわ」


 結城弘子は美術用の道具入れの中からクリアファイルを取り出し、その中の茶封筒を北川みそらに手渡した。北川みそらは封筒の中に10万円あることを確認した。これはモデル代。しかも服を着たままでいいという。

 服を着たままのモデルでこの金額に北川みそらは疑心暗鬼になっていたが、実際に金はあった。しかも校内では危なくて脱げない筈。だが、以前夢に見た不思議現象が現実ならば結城弘子にだけ身体を見せる事ができる。誰かが突然入ってきても見られることはない。それより変な年増女が気になる。見たことない人が制服着てるのだ。異様である。


「もう一人はまだか?」

「呼んである」


 もう一人と聞いて北川みそらはやはりヌードになるわけにはいかないと強く思った。だが。


「北川、ブラ取って」

「えっ!」

「服は着たままでいいから。その分も込みで払ったんだから」

「まじかよ」


 北川みそらは服着てノーブラ状態になんの意味があるのかと疑問に思っていたが、10万は返したくないので従う事にした。ブラウスのボタンを外しブラのホックも外す。そしてドアを開け廊下に人がいないことを確認するとドアを閉め一気にブラだけ撤去した。


「でっか」

「でしょ」

「うるさい」


 当然ブラのことである。

 そして4人目西野光輝が現れる。


「結城様。西野、参上いたしました」

「普通に喋りなさい」

「結城様来ました」

「そうじゃない」


 この男、どうやっても「様」を外さない。


「やばい、西野かあ・・」


 西野光輝は有名なチャラ男(2番目)で人格的によろしくない。それを警戒して北川みそらは胸に腕をかけ背を向けた。ブラウスの防御力は完全ではない。いや、割と弱い。

 だが、西野光輝は全く北川みそらを見もしない。それどころか結城弘子に釘付けだ。


「西野、ちょっとは北川を見てあげなさい。せっかくノーブラで恥ずかしがって可愛いとこなんだから」

「そんなのは後の後の後です。結城様を1秒でも長く見なければなりません」

「全く・・」


 北川みそらはあれ?と思った。

 西野光輝はこうではなかった筈だ。

 以前話しかけられた時は絵に描いたような軽薄な男だった。しかし、今はなんていうか紳士?いや、信者だと思った。なにかおかしい。


「いいから始めよう。結城、打ち合わせどおりお前が男、おれが女を描く。これがコマ割りで説明はこっちのコピー。じゃあ始める。2時間しかないからな」

「了解。じゃあ、北川と西野はそこでラジオ体操第一をやって」

「ラジオ体操?」


 北川みそらは混乱した。ヌードは無いだろうと思っていたがセクシーポーズくらいはあるだろうと。ところがまさかのラジオ体操。結城弘子を質問攻めにしたかったが、西野光輝が躊躇いもなく体操を始めたので慌てて隣で合わせた。


「じゃ、向こう向いてもう一回」


 結城弘子の命令でまた体操を始める二人。

 そして体操が終わると結城弘子と年増がもの凄い勢いで何かを描き始めた。とんでもないスピードで絵を描き進める。


「西野、飲み物となにかお菓子買ってきて」

「はい結城様はいつものですね」

「おれコーラ」

「ええと、お茶で」


 まるで執事のように買い出しに出かける西野光輝。


「私も行く」


 北川みそらは西野光輝を追いかけてドアを出た。


「いいのですか」

「なんか一生懸命描いてるし。体操終わったら全然こっち見てないし。もうモデル終わったんじゃないかなって。西野が出れるってことはそうでしょ?」

「まあ、そうです。それよりも・・・・・透けますよ」

「どうせすぐそこだし、いいのよ」


 北川みそらはノーブラで歩きたくなったのだ。背徳感と危機感と緊張感の入り混じったゾクゾクを味わいたくなった。いつかのように。


「なら、私の後ろに」

「あ、ども」


 思ったのと違う紳士な西野光輝。そして北川みそらよりほんの少し背が高い西野光輝。

 そして言う通り後ろを歩く事にした。久しぶりに女の子扱いされて思わず微笑んだ。


 一方その頃、魔女二人はばたばたと漫画のコマを埋めていた。ラジオ体操している姿を完全に記憶し、それをもとにポーズを組み立て描いてゆく。年増女が北川みそらを、結城弘子が西野光輝をもとにキャラを分業して描いてゆく。修正なしで二人のキャラがコマに収まってゆく。これは能力が高いこの二人にしかできない。顔は後日別のキャラ顔を移植する。

 だが。


「だああ、結城、そこはまだズボン下ろしてない!裸のまんまにするなああ!」

「服描くの面倒なんだもの」

「ああ、そこも服描いてない!」


 結城弘子は殆ど裸体で描いている。モデルに服を着たまま踊ってもらったがデータは裸体で認識している。見た時に服が有っても身体をパーフェクトに記憶している。

 確かにこの漫画はR-18なのだから裸を描く能力は重要だ。だが服を描かなすぎる。


「服なんて飾りよ」

「そうだけど、そうじゃない!」

「金払うんだからちゃんとやれえ!」

「私がモデル代も立て替えてるのに?」

「入ったら払うから!絶対払うから!頼む!」




 そして買い出しから帰ってきた北川みそらはモデル代が高額だった意味を知ってパニクった。自分も見た事ない自分が描かれている。それは西野光輝の身体も同様でモザイクも無しの絵をガン見した。

登場人物

・謎の魔女・

チート・不老不死・時代によって性別も年齢も種族すら自由に変える 過去の結城弘子を知る存在 往年の結城弘子が100人で挑んでも勝てない相手 現在は何故かエロ漫画家

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